Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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二人の関係性がカオスになってきたなあ


101話 八日目:王

「じゃあ、俺はもう行くよ」

 

『・・・・・・行ってらっしゃい』

 

仮想の体が浮かび上がる。

先ほどここへ移動する時に使ったあの細い通路まで飛び、そのまま突入した。

この深層意識に存在していた”彼”の、終わりなき願望が声は無くとも俺の後ろ髪を引いてくる・・・・・・『行かないで』、『まだ一緒にいたい』『俺のこともっと聞いてよ』。

なんのフィルターもかかっていないだろう彼の思いが、俺の心をぎゅうと締め付ける。

時間が許すならいくらだってこの場所にいてやりたいが、いつ八月朔日に叩き起こされるかわかったもんじゃない。

それにもう、この聖杯戦争もそう長くは続かない。

俺たちが勝って、マンドリカルドが聖杯に受肉を願わない限り・・・・・・その思いは成就しない。

この状況で海と八月朔日を打倒し、セイバーとの戦いを制することができるのだろうか。それを考えると無理じゃないかって思えてきて辛い。

せめて心持ちだけでも、俺たちは絶対に勝てると思っていたいのに。

 

「・・・・・・また、いつか。ここで会おう」

 

俺はそうとだけ告げ、向こうへと繋がる管へ入った。

 

 

「おかえりっす」

 

「ああ、ただいま」

 

手に持っていた王冠を背中に隠し、先程の建物でどこか遠い空を眺めていたマンドリカルドの元へ歩み寄る。

俺が彼の深層に潜って干渉した結果こちらにもかなり影響が顕れたのだろう、なにもなかった空間が地平線まで続く草原へと変貌を遂げていた。

 

「・・・・・・俺が行く前と後で随分変わったなあ」

 

「まあ、奥深くで何かがあったんだろうってことはわかるんすけど・・・・・・俺にはまだ全然わかんないっすよ」

 

体育座りを解き、そのまま草の褥に転がるマンドリカルド。

どんな風景よりも似合っている・・・・・・さすがは遊牧民の王だ。

 

「ああそうだ。マンドリカルド、ちょっと俺の前で跪いてくれるか?」

 

俺の申し出に、何も言わず従ってくれるマンドリカルド。

召喚したとき以来じゃないだろうか、こんなふうにマスターとそのサーヴァントみたいな構図になるのって。

 

「はい、これ」

 

2歩だけ歩いて、隠していた王冠を彼の頭に乗せる。

髪型が独特なので安定する場所を見つけられるか不安だったが、すっぽりと綺麗に収まってくれたので杞憂に終わってくれた。

 

「・・・・・・なんすか、これ」

 

「・・・・・・令呪を以て命ず。”もう一度、王となれ”」

 

この空間で俺の本体が魔術を行使できない環境の中、使えるのかという疑問はあったが、俺の左手にある令呪は普通に作用してくれた。

三画ある中で左の一画がきん、という音を立てて光と消え、ほんのり痕が見えなくもない程度に薄れてしまう。

 

「初めてこんな命令の仕方したな。人から王権与えられるのってタタール王族的にはどうなの」

 

「・・・・・・お、王権神授説なんてのは16世紀に生まれたものなんで、俺は関係ないっすよ。大丈夫っす」

 

なんでこんな命令をされたのか理解が追いついていないのだろう、彼の頭の上にたっくさんのクエスチョンマークが浮かんでいるのが目に見える。

頭の上に乗っかった王冠を人差し指で何度も突っついて、これは本物なのかとやたらめったらに触りまくっていた。

 

「それはお前の深層にあった願いの形だ。向こうでのお前は俺にはっきり言ったんだよ・・・・・・俺をもう一度王にしてくれってな」

 

「・・・・・・俺の、願い」

 

自覚していなかったであろうそれを知って、マンドリカルドはほんの少し呆れたような顔を見せる。

 

「俺ってわがままなんすね。立派な騎士になりたいとも思って、王様になりたいとも思って・・・・・・」

 

「なーに、王様兼騎士なんて12世紀くらいからの話だがいくらでもあるしわがままなんかじゃねえよ。どっちも国や民を守る役目があるだろ」

 

なんとなく笑ってごまかしてやる。

 

「安心しろ。俺はいつまでもお前のもんだ」

 

その言葉に反応して、マンドリカルドは急に立ち上がった。

 

「・・・・・・俺はサーヴァントっすよ、この戦いが終わったら・・・・・・消えるんすよ?」

 

いなくなると知っているのに、それでもその言葉を言えるのかと俺を試しているのだろうか。

愚問だ、俺の覚悟なんてのは既に決まっている。

 

「この世界からいなくなったくらいでやめるつもりは毛頭ねえ。俺はお前の友達で、家族で、国民だ」

 

自分でも何を言っているのかわからなくなってきたが、もう勢いで腹の中に溜まっていたものが全部出てきてしまう。

俺だって願望をぶちまけたい、という思いに突き動かされもう止まってくれない。

 

「俺は、お前のためにすべてを捧げたい。兵器にする事を目的として作られたこの体を、埋め込まれたデュランダルの力を、全部・・・・・・お前に渡したいんだ」

 

こんなに体が熱く感じるのは初めてだ。

俺の中心にある何かが溶けて、また新しい形へと変化する。

それはまるで、さなぎの中で体を完全な別物に作り替える蝶のように。

 

「そうっすか。それなら俺は・・・・・・克親の願いに応えよう。アンタの全てを、俺にくれ」

 

「・・・・・・喜んで」

 

差し出されたその手を握る。

これで、最後のピースがはまったみたいだ。

 

 

「・・・・・・なんていい気分なんだろ」

 

監禁されているのにとても心は爽やかだ。

マンドリカルドとの繋がりがより強固になり、自分の存在する理由が明確にできたおかげだろう。

手の甲を見るときっちり一画分の令呪が消えていて、ちゃんと効果が発動された証拠にもなっている。

自分の中にあるデュランダルの像もかなり変貌を遂げていて、今までのものとはいえ全然違う形・・・・・・白銀の刀身に、黄金の柄。これはこれで見た瞬間わかるような聖剣らしさがある。

例のブレスレットさえ無ければ今ここで具現化させて試し斬りをしてやるというのに、できないからめちゃくちゃ歯がゆい。

 

「今のデュランダルなら、セラヴィも」

 

不完全な具現化では贋作デュランダルとしてペナルティを食らっていた彼だが、もうそれも大丈夫だろう。

俺の空想が作り出した姿であるとはいえ、本当のデュランダルには違いないのだから。

 

「なんか令呪の反応があったんだが、なんかやったのか」

 

いきなり扉を開け、海の奴がずかずかと部屋の中に入ってくる。

令呪を近くで使ったら他のマスターもそれを認識できるというのを忘れていた・・・・・・これは相当まずいのでは?

 

「・・・・・・悪いか」

 

「ああ悪いな、めっちゃくちゃに悪い。俺が八月朔日の奴しばき倒して気絶させてなきゃお前即人権奪われてたぞ」

 

人権を奪うとは、いきなり兵器として利用するために作り替えられる・・・・・・ということか。

この推論が本当であればかなり危険な話だ、八月朔日が意識を失っていて助かった。

 

「・・・・・・お前のおかげで間一髪ってわけだ」

 

「感謝しろ、あとで俺の会社の株5000は買え」

 

「んな金簡単に出せるか」

 

あの会社の株価普通に4万とかいってるらしいしそんなポンポン買えるような額にはならん。ましてや5000株とか万一潰れたときの損失がやばすぎる。

 

「お前んとこの財産なら普段の買い物で使うような額だろ」

 

「普段の買い物で2億も使うようならとっくの昔に破産申請してるわ!!」

 

確かに貯金やら不動産やら魔術の特許やらを総合して考えればまあギリギリ1兆行くか行かんかだろうけど軽々1億を使えるほど俺の金銭感覚は金持ちじゃない。むしろ小市民寄りだ。

 

「そんなんだからモテねえんだよ。金持ちでそれなりにイケメンでまあ安定してるだろう職も持っててそれって一生結婚できねえぞ」

 

「勝手に言ってろ、お前こそ大企業の社長で煙草さえしてなきゃ完璧なビジュアルの癖して全く男の影もねえじゃねえか」

 

なんの言い争いなんだ、と自分でも疑問に思うのだが一度出した拳は簡単に引っ込められないのが現実である。

 

「なんだよ煙草なけりゃ完璧なビジュアルとか!侮蔑してんのか褒めてんのかよくわからねえよ!」

 

「これでも最大限の褒めなんだよなあ!つかお前しれっと俺のことイケメンって」

 

「言ってねえぞぶっ殺すぞ!」

 

「言っただろどう考えても!俺の耳ちゃんと聞き取りましたぁ!」

 

「幻聴だ幻聴!」

 

一応俺と海は敵同士。

だってのにいつも通り不毛な戦いを繰り広げている。

・・・・・・まあ、このいつも通りが一番落ち着くっちゃあ落ち着くんだが。




初めての令呪行使になりましたがなんかカドックくんを思い出すような内容になりましたねえ

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