Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
そんな目で見ないでくれ。
もっと苦しくなるから。
「・・・・・・セラヴィ」
克親はもっと辛いんだろう。だから俺なんかの心配しなくていいのに。
俺はただ痛いだけだから、死ぬことはないんだから。
「・・・・・・いたい・・・・・・あ、あ”ぁ”」
腕を何度も何度も斬られ続け、苦しみのあまりつい声を漏らす。
目の前で焼け焦げてしまったあの大切な思い出が視界にちらちら、フラッシュバックして心も痛い。
失うのはもう嫌だ、この手からするりと消えていくのはもう嫌だ。
克親がいてくれるから存在を保ち続けていられるが、もしそれすらも失ってしまったら・・・・・・俺は自壊するだろう。
やっとできた友達だ。
やっと見つけた、俺を本当に好きでいてくれる人だ。
もうそんな人の前で、死ぬなんて・・・・・・御免だ。
「もっと鳴けよ犬」
「う、あ”ぁ”あ”あ”あ”あ”ぁ”!!!!」
ざく、と俺の体に短刀が刺さり、引き抜かれる。
肝臓あたりをやられたか、おびただしい量の血液が俺の脇腹から溢れ出す。
いくらサーヴァントと言えども、大量の血液を失ってしまえばかなり機能不全に陥る・・・・・・いざという時の抵抗力を奪うにはもってこい、というわけだ。
「・・・・・・ねえ、私の仲間になったらこれもすぐ止めるけど」
「お前みたいな奴に味方するか。例え人類を脅かす存在であろうとも、俺は克親の隣にいるって誓ったんだ・・・・・・っぐ、だから・・・・・・絶対に、折れねえ」
こんな奴に魂を売り飛ばすくらいなら死んだ方が1000%マシだ。
俺は最愛の友のために戦うと決めたのだ、絶対に寝返るつもりはない。
「・・・・・・まあそう言うと思ったけど、つくづくあなたって馬鹿ね。触媒なしで召喚したんじゃないのってくらいマスターにそっくりぶぅあーーーか!!」
煽るように目の前で変な顔をしてくる八月朔日。
もうぶっ殺してやろうかとすら思えなくなってきた。純粋な怒りだけが俺の内部で循環し、いろんなものを煮えたぎらせる。
「俺のことをどれだけ馬鹿にしようが構わねえ、実際俺は馬鹿でどうしようもないクソ野郎だ。だがな・・・・・・克親をこれ以上愚弄するな」
「なにアイドルの引退ライブじみた構文使ってんのよ」
八月朔日はまた嘲笑う。
好きなだけ蔑めばいい。好きなだけ下等だと罵ればいい。
だが克親をこれ以上侮辱するのはもう許せない。
「お前だって好きな人やもののことを馬鹿にされたら許せねえだろうが」
「まあ相手をぶち殺すわよ?」
「・・・・・・俺とおんなじじゃねえか」
体の作りが違っても、人種や時代が違っても、同じ人間同士だ。
その魂はいつだって同じで、本質はいつだって等価値なはずだ。
「そうかもしれないわね。まあ人もどきだもの、似ていてもおかしくはないわ」
八月朔日はまた嗤う。
見る人を苛つかせる才能はもう世界最強なんじゃないかとさえ思えるほどの煽りがこもったその表情・・・・・・どうしても俺の中で殺意が沸き立った。
「どれだけ人に似ていようがどうでもいい、大事なことは別なのよ。サーヴァントは所詮過去に存在した人のショートカットに過ぎない・・・・・・どれだけぞんざいに扱ってゴミ箱に捨てようと、元のアプリケーションさえ無事ならいくらでも作れるの・・・・・・好きなだけ解体してぶっ殺してもいい。あなたの大切なマスターも元は同じショートカット、それにいろいろ手を加えて新たなアプリケーションにしたけど本質は変わらない」
確かに、俺は座にいるマンドリカルドという英霊の一側面を削り取るような形でできたコピー体だ。
いくらこの体が消えたところで本体には何の損害もないし、「あ、コピーが一つ消えたんだろうな」程度の認識で終わるだろう。
けど克親はもう違う。
八月朔日喪とやらの体と克親の顔をくっつけたコピー体キメラだとしても・・・・・・それから歩んできた時が彼をオリジナルへと作り替えているはずだ。
そして、元々克親であった体はもう遺体になっている・・・・・・つまり本体が、元のアプリケーションに相当するものが消えている。体から遺伝子を取り出して複製することもできるっちゃあできるだろうが、司馬田曰わく本体が死んだ事実を隠蔽するために、その体はすでに無縁仏として焼かれているらしい・・・・・・流石に焼かれてしまえばどうしようもないだろう。
「俺は消えたってなんの問題もない・・・・・・けど、克親は・・・・・・俺のマスターである克親は、この世界に一人だけだ。お前がいくら増やしたって変わらない、俺の愛する人はあそこにしかいない」
どれだけ同じ体だとしても。
どれだけ同じ性格だったとしても。
どれだけ同じ記憶を持っていたとしても。
俺の大切な人はたった一人だけだ。マスターの権限を奪われたって、俺は克親のそばにいたい。
「甘ったるくて反吐が出るわ。戦うためにこの世界に呼ばれておいてなにふぬけたこと言ってるの?」
「何とでも言えよ、俺はそう感じてるだけだ」
もう腕を斬られたり千切られる痛みにも慣れてきた。
だくだくと腹から血の川がせせらいでいるが、意識はまだはっきりしたまんま。
八月朔日に対する怒りが俺をずっと覚醒状態にしてくれているのだろう、どくどくと血液が沸騰してくる。
「ねえ、この子こんなことほざいてるけど」
「どこにも咎はねえだろ。人が人を好きになってなにが悪い、大切な人を愛してなにが悪い、そこに年代も性別も人種も関係ないだろ」
克親はきっぱりとそう言い放つ。
八月朔日に向かって、なにも恐れずにそう声をあげたのだ。
「・・・・・・なんかムカつく」
唇を噛みながら、八月朔日はばっと此方を振り向いた。
アサシンの右肩をぐいと掴んで引き寄せ自らの方向を向かせる・・・・・・手に持ったのはどこかで見たことのあるような、ないような・・・・・・といった一振りの剣。
なんだったか。
「せっかく英雄王様にあなたを殺す最高の剣選んでもらったしこいつで一突きといきますか。アサシン」
「・・・・・・はい」
「この剣でこいつを殺しなさい」
ああ、思い出した。
忌々しい、俺を殺したあの剣は・・・・・・ベリサルダ。
ヘクトール様の鎧すら貫通する力を秘めており、俺はあれで心臓を貫かれて死んだ。
脇腹の傷と、心臓が疼く・・・・・・英雄王すなわちギルガメッシュは、あのときにもう俺の真名を推測していたらしい。
英雄の中の英雄、王の中の王みたいな男の脳内に俺みたいな三下どころか三十下の雑魚の名前があったのかと言うと疑問ではあるが、俺を死に追いやった剣をピンポイントで出してきたあたりほぼ知っていると見ていいだろう。
流石に二度も同じ剣で殺されるってのは体が拒否しているし、精神的にもまっぴらごめんだ。
俺は克親と最後まで生き残ると決めたのだ、だからこんな中途半端な所で正面から戦うこともなく殺されたくない。
「・・・・・・さようならですね」
「待ってくれ、俺はまだ・・・・・・!」
「・・・・・・では、またどこぞで会いましょう。セラヴィさん」
禍々しい気を纏ったそれが、一直線に俺の胸元へと肉迫する。
拘束された状況では身をよじって心臓を避けることすら不可能だ・・・・・・ああ、もうこれは万事休すか。
ざく、と。
俺の胸に、どこか懐かしい金属の感触がした。一瞬ひやりと冷たさを感じたが、すぐにその感覚もなくなってくる。
大量に溢れる血で熱いなと感じながら、俺はただ無念を嘆くこともなく、目を閉じた。
なんとも言えない所で終わってますけどもまあ
最終的には幸せにできる・・・・・・はず