Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
ああ、ああ。
消えないで、どこにも行かないで。
心臓に深々と剣が刺さった彼の青ざめた顔を見て、俺の心臓がぎゅうと泣く。
アヴェンジャーが消滅するときにも見たあの光が・・・・・・マンドリカルドの周りからふわふわと漂いだした。
やめてくれ。俺からそいつを奪ったら・・・・・・もう何も残りやしない。
寄る辺のなくなった俺はもう、人でいられなくなるだろう。
そう思えるくらいに、俺はマンドリカルドのことを愛していた。依存していた、誰にも渡したくないと思っていた。
ごぽっ、と・・・・・・口から赤黒い塊を吐き出し、彼は力なく頭を垂れる。
「・・・・・・嫌、だ」
「克親・・・・・・アンタに、会えて・・・・・・俺は」
その言葉を言い終えるのを前に、彼は粒子となって消えた。
みしりと大きな音を立てて、心が軋む。俺は、彼になにもかもを捧げようと誓ったのに・・・・・・この願いは、どう叶えればいいんだ。
体を包む液体の中に涙が混じっていく。
底無しの悲しさと喪失感が、俺の中を埋め尽くした。
「ねえ、今どんな気持ち?」
「・・・・・・っ」
答える気にもならない。
やっとまともな生きる理由ができたと思ったのに、頑張ろうと思えたのに。
マンドリカルドへ、俺の空想から作り上げたデュランダルを渡してやりたいと・・・・・・その一心で、どんな事にだって耐えてみせると決心したのに。
もう全ては無へ還った。
もう死んだ方がいいんじゃないかな。
この世界に俺がいる意味ってあるのかな。
俺が死んだって、この世界にいる誰も悲しみはしないのだろう・・・・・・ああ、来栖さんなら・・・・・・少しは悲しんでくれるだろうか。
「・・・・・・旦那」
「・・・・・・許せねえよ」
どんな事情があったとしても、こんな仕打ちはあんまりだ。
俺を生かすためなら、マンドリカルドにも手をかけるのか。そんなことされるくらいだったら俺諸共死んだ方がずっとマシだ。俺の寄る辺はあいつしかいなかったのに。
「篠塚。ちゃんとやったか?」
「・・・・・・ええ、しっかりと心臓を一突きで」
「海テメェどういうつもりだ!!!」
呑気に煙草を咥え会話するあいつにはらわた全部が煮えくりかえる。
どれだけ海が好き勝手やっていたとしてもなんだかんだで許していた俺だが、流石にこればっかりは無理だ。
自分の身が可愛いからって、死にたくないからって、負けたくないからって・・・・・・そんな自己中心的な考えで俺から奪っていいものじゃあなかったんだ。
「・・・・・・不可抗力だこれは」
「コラテラルダメージとかそんなんで済むような問題じゃあねえよ、俺にとってセラヴィは・・・・・・生き残るためなら切り捨てられるような、そんな軽い存在じゃなかった!!」
煙草を咥えたまま、海の奴は何も言わず唇を噛んでいる。
マンドリカルドを失ったのなら、もうどうだっていい。死んだっていいからあいつらを一発ずつぶん殴って自殺しよう。
頸動脈を掻き切って、血の海で溺死してしまおう。
「・・・・・・克親。お前は──」
「黙れ、黙れよ!もうさっさと俺を殺してくれ、どんな方法でもいい、毒殺でも絞殺でも刺殺でも扼殺でも爆殺でもいい・・・・・・俺を殺せ!!!!」
瓶の内側からどんどんと拳を叩きつけ、ただただ叫ぶ。
俺の苦しみなんて知りもしないだろう、生きてればそれでいいとでも思っているんだろう。
俺を助けるからと言ってくれたけど、マンドリカルドのことを助けるとは言ってくれなかった。あの時点で気づくべきだったんだ、あいつは俺のことさえ救えれば他はどうだっていいことに。
「・・・・・・やだね。俺はお前を殺しやしない。”お前を殺して俺になんの益がある?”」
ああ、もうだめだ。
こいつは自分の利益しか考えていないのだ。
俺を助け出そうとしたのも、死なれたら自分に不都合だから。
なんで俺は今までこんな人間を信じていたのだろう。
俺って、本当に馬鹿だ。
「あー面白かった。いくら殺したって罪にならない奴を始末するだけであそこまで追い込めるとか、やっぱコスパ最強だよねえ」
「・・・・・・これからどうするんだよ、セラヴィ・・・・・・すなわちライダーは消えた、あいつに抵抗する術はもうないぞ」
「決まってるでしょ。聖剣の力.zipを火炎放射器で炙ってでも解凍して兵器へと転用する、核を持てない我が国でも使える抑止力の完成よ・・・・・・アレ一つで師団一個は軽いわ」
戦争でも始める気か。
確かに自衛としての手段も馬鹿に無くされようとしている今日この頃、何か一つでかい武器を隠し持っていたいという考えはわからなくもない。だが方法が下手くそすぎるのだ。医者の癖して人を易々と犠牲にしやがって。
「・・・・・・あっそ。火力ならご自慢の奴が一人いるんだよなぁウチに」
「・・・・・・何かしら?」
「まあそいつぁあとのお楽しみってわけだ」
吸い終わった煙草の火を携帯灰皿で揉み消し、海は気楽そうに言った。
「・・・・・・セラヴィ」
お前がまだ、そこにいるみたいだ。
霊体になって、俺との繋がりを制限してそこに立っているみたいだ。そう、俺のすぐ、近くに・・・・・・
体の感覚までおかしくなってしまうほど、俺は狂ってしまった。
自分の夢をやっと見つけたのに叶わなくなった悲しみや、起源が俺に達成を強要してくる願いもできなくなった。
マンドリカルドと俺が出会うのは本当に宿命だったのだろう。でなければ、こんなことになるわけがない。
『克親』
声が聞こえる。
ただ記憶を再生しているだけだというのに、どうしてここまで歯がゆい思いをしなければならないのだろう。
・・・・・・やっぱり、俺の中でどこか・・・・・・彼がまだ生きているという願望が、もう一度本人の口から聞きたいとわがままを言っている。
『大丈夫、大丈夫だ・・・・・・俺が、なんとかしてみせる』
姿さえ見えてきたし、幾多のコードを掻き分けてその手が俺に触れる感触まで覚えた。
そんな幻を見るほど、俺は壊れてしまったのだろうか。
なら、壊れたままでいたい。壊れたままで死にたい。
幻影でもいいから・・・・・・大切な友の腕の中で、全てを終わらせたい。
「セラ・・・・・・ヴィ」
『まだ終わりじゃない。この戦い絶対に勝てるから・・・・・・諦めないでくれ、克親』
どうしてそんなことが言えるのだろう。
心の内では疑っているのに、口から溢れる思いは違う。
「・・・・・・勝つって、誓えるのか?」
『
幻の彼が笑った。
ああ、ああ。
今だけは、それに縋ろう。掴むことすらできない細い糸でも、藁でもいい。
あともう少しだけ、甘えさせて。
タイトルをしれっと回収してみたかったんです