Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
悲しみ
しれっとInterlude以外のものを増やす奴
或る男に、こう問われた。
「テメェは愛する者が化け物だと知っても、変わらないでいられるか?」
息をするようにミニシュークリームを口に投げ込んでは咀嚼し続けるのだが、言葉に詰まりは一切ない。
「・・・・・・場合によるっすよ。別に姿形なんてのはどうでもいいけど、もしそれが人を傷つけるような存在であったのなら・・・・・・敬遠とか、酷けりゃ殺してしまうかもしれないっす」
「媚び売ってんのかってくらいに俺好みの解答だな。テメェはそういう主義か、最大多数の最大幸福的な」
俺の顔を見てけたけたと嗤う男。
空いた菓子の空箱をしれっと魔術で体に溶かし、またどこかから新しい食べ物をする引っ張り出してくる・・・・・・こんなんで病気にならないのかって思うが、俺にそれがつっこめるだけの勇気はない。陰キャだし。
「そうなる・・・・・・っすかね。アンタの主張とどっか似通ってるっす」
「そうかもな。じゃあもう一つ質問・・・・・・”人間は平等だと思うか?”」
男の目つきがぐ、と鋭くなった。
恐らくこの質問に対する答えの如何によって、俺を同志と見なすか敵と見なすかが変わってくるだろう・・・・・・だからといって、こんなところで自分を偽ったって必ずどこかでボロが出る。
「・・・・・・平等なんかじゃないと思うっすよ。俺の生きていた時代ですら格差や差別はあったし、ずっと人は自分と違う人を排除し続けてきたじゃないっすか」
「俺は・・・・・・そう思わないんだよ」
男の言葉は、とても冷たい。
「なんで、っすか?」
「本来、人は生きている間はみんな平等に”無価値”なんだよ。自分は強い、他より優位に立っているんだ・・・・・・という浅ましい考えから、どうでもいい人の価値という概念を作り出す。そして自分より弱いものを徹底的に叩こうとする。それを抑えるために法というもんはあるんだ」
言っていることがあまりよく理解できないが、つまり彼は・・・・・・人の欲というものを嘆いているらしい。
本当は平等なはずなのに、欲がそれを拒んでいる。平等でありたいと嘆くくせに、本質は平等でいたいと思う自分かっこいいでしょアピールをしている場合が多いというのもそれのせいか。
「特定の個人だけお金をたくさん持っているのはずるい、だから累進課税を作る。特定の個人だけハーレムを作るのはずるい、だから重婚や浮気が禁じられる。特定の個人だけ強力な武器を持つのはずるい、だから銃刀法とかを作る。倫理ってもんは突き詰めればずるいって感情から生まれただけのものに過ぎない。だが、これが結果社会的な平等に一役買ってるのは間違いないだろ・・・・・・どうしようもない案件はのさばってるんだけどな」
缶に入った飴を5個ほど取り出して一気に口に放り込む男。
せっかくのフルーツ味が混ざり合ってしまうのだがそこらへんは気にしてないのだろうか。
「じゃあ、人が他人に価値を見いだすってのはどうなんすか。それはどうでもよくないでしょ」
「まあそうだわな。こいつを自分のものにすれば、自分自身も強くなる。より強い子を残せるという考えから人は誰かに価値を作る。男だったら今の基準で言えばイケメン、金持ち、適度に痩せてる、優しいとかそのあたりが高得点だろうな。あとついでに戦闘力があって背も高いとなおさらだったりする」
男は今挙げたうちの4つくらいは満たしていると思うが、優しさというものがあまり見受けられないからかそこまでモテているとは思えない。
まあ仕事が仕事だし仕方ないのだろうけども。
「強い奴との子を作りたいってのは人の本能でしょ、それはどうしようもないっすよね」
「・・・・・・そうだな。異性にそれを見いだすのは人・・・・・・否、動物としての本能だ」
飴を全部右頬に詰め込んで栗鼠のように揺らしているが可愛げは全くない。
「じゃあ同性に対してはどうだ。異性に向ける感情とおんなじものを持つ場合は置いとくとして・・・・・・友達に何の価値があると思う?」
俺の抱えている悩みや思いを見据えたような顔をして、男は言った。
これもまた、俺を値踏みしているのだろうか。
「友達の価値・・・・・・っすか。言われてみれば、考えたこともないっすね」
強い友を持って俺に手を出したらこいつが黙っちゃいねえぞと言うこともある。価値あるものを盾に無価値なものが威張る、虎の威を借る狐だ。
だが彼と俺だったらどうだろう。少なくとも俺にとっては、彼の威を借りているという自覚はない。
彼に価値を見出している要因は何だろうかと考える。
・・・・・・彼を失えば自分も消えるから、彼を守るべきものとして見ている?
否、本質はそうだとしても・・・・・・違う。
俺はただ、彼のことが好きなだけだ。理由なんてものはなにもわからないが、何かに惹かれ・・・・・・守りたいと思うようになった。
「わかんないっすよ。俺は、友達のことが・・・・・・克親のことが大好きだけど、なぜかは全くわからねぇ。愛してくれるからこっちも相応のものを返したいとか、そんな簡単な話じゃない」
「・・・・・・あの人は自分がいないとだめになるとか、そういうことを思ってるんじゃないのか?」
ぐさ、と鋭いナイフが突き刺さった気分だ。
確かに、そんなことを思っているふしはあった。克親は俺が守らなきゃいけないと、ほかの誰にも任せられないだろうと・・・・・・自分の能力に見合わない考えを抱いていた。
「図星っぽいな」
「・・・・・・お恥ずかしながら」
ニヒルな笑みを顔に貼り付けて、男はまた笑った。
「完璧な依存だな。そんでもって向こうも同じように、頼りつつも俺がいないとだめになるって思ってる・・・・・・共依存ってわけだ」
的確に核心を突かれ、俺は何も口に出せなかった。
克親がいることで、彼を守ることで、俺にも価値があると思いこんでいたかった。
生きていた頃の反動のように、誰かから認めて貰わないと嫌で・・・・・・なんとまあ、惨めなことか。
「・・・・・・じゃあ、俺からも質問いいか」
「俺に質問するなと言いたいところだが、まあいいか。言えよ」
「・・・・・・アンタは、人の種の存続を理想にしてるんだろ。それなら普通、人を守るべきっつう理由があるんじゃねえかって思ってたんだが・・・・・・聞いてる限り、理由が見つからない」
ばき、と鈍い音がした。
恐らく彼が飴を噛み砕いた音だろう。ぼりぼりと低い咀嚼音が続いている。
「アラヤの真似事をしている理由か?簡単だ、大義を掲げて殺しができるから楽しいんだよ」
「・・・・・・そんな不純な動機が?」
「冗談に決まってんだろ」
そう言って、不破は椅子から立ち上がる。
「・・・・・・テメェを連れ戻しに来る馬鹿の顔、見に行ってくるわ」
俺がどういうことだと聞く前に、彼はもう階段を降りていった。