Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
「・・・・・・あのさセイバー。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
まだ春の陽気に染まりきらない季節なので少し肌寒さを感じつつ、俺は海が去った後に続く静寂を切った。
セイバーは拒否する様子もなく、俺の質問を待っている。
「この格好で街中歩いたら捕まるよな」
「まあよほどの事情がなきゃ確実だろうな」
明らかに白昼堂々明海ど真ん中を歩く露出狂だ。不破のバイクに載せてもらうか、それなりにあたりを歩ける服を貰っておけばよかった。
ジャケットはボタンを閉めればどうにかなるが、下半身がどうしても見えてしまう。というわけでズボンというかボトムスが欲しい。
「・・・・・・仕方ない、オジサンの臭いが染み付いた奴でいいなら貸そう。俺は霊体化とかで誤魔化すから」
「迷惑をかける」
「まあマスターの為と思えば別に迷惑でもない。やりたくてやってるわけじゃあないんだし」
そうやってセイバーが俺に服をくれようとしたところであった。
なんか上から人が降ってきたのである・・・・・・かっこよく決めて着地したかったようだが途中でバランスを崩して無様に倒れた、キャソックを着た天パ男。
「あいててて、腰やっちまったかこら」
「・・・・・・今更何しに来たんだよ」
臀部をさすりながら立ち上がる唐川。
不破のように助太刀しにきたというのならわかるが、なぜ終わった今わざわざ来るんだろうか。
「いやあワテもな~できれば不破ちゃんとおんなしタイミングで来たかったんやけどな?ちょいとおもろいこと発見してもたからそっちに時間かけちゃって間に合わんかった」
どうせ遅れるなら平尾の服を持って来いと不破に言われたようで、Tシャツ短パンが渡された。
25にもなって短パンってどうなんだとか思うが、この際通報されない服ならなんでもいい。
ちょっと来栖さんには視線を逸らしてもらって(セイバーがやさしーく見えないように衝立役をしているので安心)、俺は唐川に貰った服を着る。
「・・・・・・なんか濡れてないか?」
「そうか?」
「めっちゃ熱いんだがなんか塗っただろ」
Tシャツになにやらジェル状のものがくっついていて、それに触れると次第にあったかくなってくる。
そういうスポーツ選手が使うものなのだろうが、いくら何でもきつすぎじゃあないだろうか。もう脱ぎたくなってきたぞ。
「いやーあったかいものもってきといてやれって不破ちゃんに言われてさー。俺の手持ちに無かったから緩めの唐辛子クリーム塗っといた」
「お前ぶっ殺すぞ」
Tシャツだからまだよかったものの短パンにそれをつけられていたら、確実にクリームがパンツに染み込み悶死していたこと請け合い。
なんでこんな悲惨な目に遭ってる人間へ追い討ちを書けるような行為を平然とやるこいつ、本当に聖職者なのか。
人に主の教え説いておいて裏じゃ(隠す気もないから実質表みたいなもんだが)ここまで極悪非道とか許されない。
俺はTシャツを唐川の顔面に投げつけ、先ほどまで羽織っていたジャケットを再び着た。畜生まだ体が熱くてジンジンする・・・・・・こんなことされるくらいならシーツでぐるぐる巻きにされてもう一回荷物入れにぶち込まれた方がよっぽどましだとすら思えてくる。
「ここまで敵意剥き出しの目で見られるんも久しぶりやな。10年前以来か」
唐突に感慨深そうな声で唐川が呟く。
俺の顔を見て、懐かしむように小さなため息らしいものをひとつ・・・・・・視線を虚空に移した。
「・・・・・・10年前」
「あんさんが血まみれで教会に転がり込んできたんは今でも強い思い出や、もう知っとるんかな。あん時何があったのか」
あのとき俺は、家族を殺して・・・・・・後悔の末狂乱しながら教会に飛び込んでいたと思ったが、違った。
ある手術の際に死んだ俺のことを誤魔化すようにして作られた、八月朔日家の長男を基礎にして生み出された言わば偽物。そのことに気づき八月朔日に文句を付けた両親が殺され、その光景を見た俺は発狂して・・・・・・
「あれから、俺は記憶を弄られたんだよな。教会に行ったあとの帰り、八月朔日に捕まって」
「まあそうやろな。俺もそれとなーくサポートしてみたはええけどあんまうまく行った気はせんなあ」
「お前がやってたのはどっからどうみても嫌がらせだろ。飯時にちょうど来てタダ飯を食らうわ今日は俺が奢るっつって例の阿鼻叫喚激辛店強制連行していくわ魔術の練習相手になってやるとか言って裏山の木何本か消し飛ばしたわ・・・・・・もう挙げるだけキリがない数やってきただろ、あと家に大穴あけたやつの修理費まだ返済してねえの忘れんなよ」
高校生の間は親のいなくなってしまった俺を気にかけてか、ちょくちょく邪魔をしに来ていたものだ。
あの時は鬱陶しくて仕方なかったが、今考えるとあれのお陰で潰れずに済んだのかもしれないと思いかける。
だが家屋損壊、修理に掛かった金額しめて1000万ちょい。今のところ半分くらいしか返ってきていないのだが、どうせしめればいいか悩むものだ。
「そろそろいいか?もしかしてこのままずっとオジサンたち視線外してないと駄目なのかい?」
「あー申し訳ない、もう大丈夫だ」
上半身が結構クリームのせいで赤くなっているが、もうこの際構ってられないだろう。
家に帰るまでの辛抱だと思って、無理やり我慢するしかない。
「じゃー近くに車停めとるから、切符切られる前にさっさと乗るか」
綺麗なまでに真っ白の車体に、でかでかと「舞綱教会(山名)」の名前が黒で書かれていて、主と共にとかの言葉と連絡先や住所が記されている。
わかりやすい教会の車なのだが、あからさまに唐川が私用で使っている形跡まみれなところが見受けられる・・・・・・
助手席にはこれでもかと飲み物の空き缶が積んだか積んだかで、荷物入れの所にも大量のカップ麺や湯沸かし機とかが散乱。
絶対面白いこと目当てでどっかに行って車中泊というのを繰り返してきたんだろう。こんなんまともに乗れたもんじゃねえ。
「幸い後ろ3席が無事だったからよかったけどさ」
男二人に挟まれるというのもアレなのだが、来栖さんを真ん中の席に座らせる。
そしてその右側にセイバー、左側に俺といった状態だ。なんか目に見えて来栖さんの顔が赤いのでさっさと解放してやらねばならない。
「安全運転かつちょっと速めに」
「注文が多いねん。まあそうしますけども」
エンジンをふかし、車は滑らかに発進する。
ここから俺の家までそう遠くはないだろうし、早く帰って話すべきことを話したらさっさと眠りたい。
マンドリカルドが隣にいない現実がまだ辛いから、夢の中でくらい自由に遊びたいのだ。
戦いや自分のことから完全に目を背けて生きられる時間が、俺にはただ欲しかった。