Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
死にそうめう
なんだかもうかなり久しぶりに感じる俺の家だ。
既に海が帰っているのか鍵は開いていて、すぐ中に入ることができる。
「やーっと帰って参りましたぁ」
ずっと嗅いできた臭いが鼻の中に広がってくる感覚がなんだか心を落ち着かせてくれる。
ああ寝たい、さっさと長い昼寝をしたい。
「おかえり。ちょっと所用で地下勝手に使ったぞ」
いきなりの爆弾発言に俺は反射行動で地下室へと駆け込む。
あそこは平尾家の最高機密が保管されている場所でもあるのだ、知られちゃ困るような情報(先祖が作った魔術の特許関連)などが鍵付きの金庫入りとは言え沢山適当にほっぽりだされている。
勝手にそいつを悪用されちゃあ家の資産に損害が出てしまうのだから繊細にならざるを得ないのだ、
「・・・・・・あんの馬鹿野郎!」
扉をばん、と乱雑に開ける。
そう言えばその部屋は、俺がマンドリカルドと出会った場所と同じだ。
まだ床に水銀などの薬剤が残っているかもしれないから、不容易に触られていると危ない。
「なんだこれ、人の死体か・・・・・・?」
マンドリカルドを召喚した陣の跡、その真ん中にブルーシートでくるまれた人型の何かが適当に転がされている。
どこかで神秘の秘匿関連でいざこざが起こり結果殺してしまったので、ここに取りあえず運び込んだというわけだろうか。そうだとしたら海だけでなく俺まで罪に問われるじゃないか、最悪でしかない。
「お前・・・・・・これはなんなんだ」
後を追うように階段を降りてきた海へ、俺はそんな言葉をかけた。
今からでも自首していただきたい。俺へ容疑がかからんようにしてほしいのだ。
「ま、取りあえずそいつめくってみろよ。お前が卒倒するようなもんじゃ・・・・・・いやある意味卒倒するかもだが」
「・・・・・・それって」
いや、まさかそんなことは。
俺はそのブルーシートを捲り、包まれていた人の顔を見る。
「・・・・・・セラヴィ」
生気を失ったように顔は青白いが、確かにこの顔はマンドリカルドだ。
見間違えるはずもない。この特徴的な髪型とメッシュ、そして眉毛・・・・・・絶対に、俺の友だ。
「お前、どうしてここにセラヴィがいるんだよ。あいつは・・・・・・消えたはずだろ?」
「半分くらいは消えてたな。あん時も、今も・・・・・・篠塚の絶妙な剣さばきで生死の淵になんとか立たせておいて、俺の術で完全消滅したっぽーく演出。八月朔日のクソアマ騙くらかして死にかけのセラヴィを篠塚から唐川でリレーさせてお前ん家のここまで運びこんでやったってわけだ。スケジュール的に唐川がいなけりゃマジでこいつ消えてたし危なかったんだからもはや感謝されて然るべきだぜ?」
俺はどうすればいいのかわからなくなった。
海へと向けていた怒りのやり場が消えてしまったも同然だからだ。
弱々しい呼吸を繰り返すマンドリカルドの頬を左手で緩く撫でながら、奴に言うべき言葉を探す。
「・・・・・・俺、何にもせずに裏切ったのかとか喚いてただけだったけど・・・・・・お前はずっとがんばっててくれたんだな」
「やっべ、ほんとにそう来られるときしょい、無理だわやっぱ」
「・・・・・・お前さあ」
二の腕をしきりにこすりうぇ~さぶいぼ不可避~とかちょける海。
取りあえず奴は殴りたきゃ殴れと言っていたので今鳩尾に叩き込んでやろうかしら。
「なあ、俺のこと殴らねえのかよ」
俺が右手をぎゅうと握り込んだところで、海がそう言った。
「俺はどんなことされたって文句は言えねんだ・・・・・・命が惜しかったから、お前らを危険に晒した、セラヴィも怪我させまくってついには半殺しまで追い込んじまったんだ。その禊とは言わん、一発でもいい、百発でもいい。お前の好きなだけ俺を殴り倒せ」
「・・・・・・海が許してくれるのなら」
「許しを乞うのは俺の方だろ・・・・・・ま、そんな気は毛頭ないがな」
きっちりと閉じていたコートの前面を開け、腹部の守りをわざと薄くしてくる海。
お前がそうまで言うのなら、こちらも応えるしかないな。と俺は握り拳を今一度固め、海の腹筋へと盛大な一発をねじ込────
「お前服の間になんか入れてねえか?」
「炭化タングステンなら」
「手の骨全部粉々になるわ」
海が服の内側から取り出してきたのはでっかい一枚のプレート。
綺麗な銀色に輝くその板は、見るからに鈍器として作用しそうなほどに重々しい。
そんでもって炭化タングステン(WC)と言えばダイヤモンドとかじゃないと削れないような超がつく硬度の合金だったはずだ。
さすが石屋の若頭なだけあるわとか思ったが今そんなことはどうでもいい。
「お前好きなだけ殴れっていったくせにカウンターというか罠で俺を嵌める気満々だったろ、さすがにこれは許されない」
「ほーれ悔しかったらしばいてみろ~」
煽り度合いMAXの顔でおちょくってくる海にさすがの俺もブチ切れ。
絶妙なひねりを加えることで威力の増した鉄拳聖裁パンチをお見舞いしてやった。中でくすぶっていたなにもかもが吹き飛んだ気がしてすっきり。
「こ、呼吸、一瞬止まった・・・・・・」
「その一発で勘弁してやる」
ちょっと力を込めすぎたかと気になったので海の腹部に手をやろうとしたが、大丈夫だからと止められてしまった。
「取りあえずセラヴィはパソコンで言うところの充電切れかけスリープみたいな感じだ。十分な動力を入れて電源入れたら大丈夫だろ・・・・・・なんかあったら言え。ってぇ・・・・・・内臓潰れたか思た」
腹をさすりながら海は部屋を出て行った。
・・・・・・まあ、これからはあんま人に見られたくないような感じもする行為なのでいないに越したことはない。
「受けた恩は返さなきゃいけないな」
善に善をもって応じるのは誰でも。悪に善をもって応じるのが、本当の人。
タタールに昔から伝わるとされている言葉だ。
恩を恩で返すのなんて誰にでもできるとまで言われているのだから、やらなきゃ男が廃るってものだ。
これからいつまで続くかわからない戦いではあるが、あいつの為にも頑張らなければ。
「・・・・・・ふぅ」
マンドリカルドの体を覆っていたブルーシートを取って部屋の隅に追いやる。
着ていた服をパンツだけ残して全て脱ぎ捨て、彼の着ているシャツも脱がしてぎゅうと抱きしめた。
僅かなロスもなく、マンドリカルドに魔力を注ぐためだ。パスの繋がりが強固な今では本当に微々たるものだが、これは気持ちの問題である。
少しだけ冷たいその体を温めるように優しく手で背中をさすり、体中の回路を起こしていく。
「・・・・・・お前が生きててくれて、嬉しいよ」
回路に過剰な負荷をかけないよう細心の注意を払いながら魔力を生産し、少しずつ彼の方へと送り込む。
セイバーの維持に割いているサブ回路を除いた全身の回路をフル稼働させているので、すぐに体はじっとりと汗で濡れそぼった。
「う・・・・・・ぁ」
蒼白だったマンドリカルドの顔に少しずつ血色が戻ってくる。
いきなりたくさんの力を送り込まれているためそちら側も体の発熱が起こり、二人して熱に浮かされたような声を上げた。
「大丈夫か、マンドリカルド」
「克、親・・・・・・おれ、生きて・・・・・・?」
緩く開いた三白眼めな双眸が、俺の顔を見て口からそう漏らす。
安心したような声が聞こえてきて、もう俺の脳内にある言葉では表しようのない感情がどんと広がっていった。
「・・・・・・ああ、生きてる。生きてんだよ、お前も、俺も。痛い思いさせたよな、苦しませたよな。もう・・・・・・もう、大丈夫だから」
これからの一切が大丈夫だという確証なんてどこにもないけれど、俺はただそう叫びたい。
汗に濡れた二つの体を重ね合わせ、できる限りの魔力を供給した。膨大なエネルギー量にマンドリカルドは少しぼんやりしているが特に問題はないだろう。