Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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ここにきて視点を増やしてしまう(構成下手くそ並感)


114話 九日目:或る馬鹿の独白

もどかしい。

言いたいのに、言い出せない。

 

・・・・・・クソ、クソっ・・・・・・!!

 

もうどの彼の指にも入らないであろうそれを握りしめ、言葉を漏らす。ただ呻く。

どうして、あの時言い出さなかったんだ。どうして、また会えると信じて大切なことを保留にしたんだ。

自分があと一歩踏み出せていたら、なにもかもが違っていたのかもしれないのに。

 

同じ明日が来るなんて、信じてた俺が馬鹿だった。

 

もうあいつは、どこにもいない。

俺の好きだったあいつは、いなくなってしまったのだ。

替わりとして今を生きる彼のことだって嫌いじゃないが、いつもその姿にはあいつの面影を写してしまう。

肉体と声が似ているだけの別人なんだと自分に言い聞かせても、気づくとやっぱり見えてしまうのだ。

 

・・・・・・こんなんじゃ、あいつにも申し訳ないってのに。

 

重ねてしまう自分が嫌で、あいつの前でだけ女になりそうな自分が嫌でたまらない。

殴って、蹴って、叩いて、罵倒して。

素直になりたくなかった。自分でいたくなかった。

嫌われていたかったけど、離れられるのは嫌だった。

いつまでも自分勝手だ。いつまでもエスに溺れたままだ。

猫を被って、自分を演じ続けるのはもう疲れたのに・・・・・・それを脱ぎ捨てるチャンスを見つけられない。

 

このまま、死ぬまで続けるのか?

 

10年モノの嘘はもう、嘘でしたと言って終われるほど簡単な物じゃないというのはわかっている。

彼の中で作り上げられた俺の像は、よほどのことがない限り改修されることはないだろう。

 

・・・・・・嫌だ。

 

俺だって、誰かの隣にいたい。

自分を偽り続けて、こいつは自分の愛した男じゃないと無理やり感情を抑えつけた。

それでも、それでも・・・・・・彼には、笑っていて欲しいと思う自分がいる。

セラヴィと出逢ってからか、彼は目に見えて楽しそうに生きている。だからそれを最後まで邪魔したくはない。

少しでも良い結末のためになるのならヘイトだって買ってやる、どれだけ体がぼろ雑巾同然になろうと生きてやる。

例え俺が微塵も幸せにならなくったっていい、あいつが・・・・・・笑ってくれるのなら、俺はそれだけでいい。

 

重たすぎるよな、こんなのって。

 

絶対面と向かって言ったら敬遠されること間違いなしだ。

こんなめんどくさい想いを抱え続けてるなんてバレた暁にゃあいつもドン引き間違いなしだ。

後悔するくらいなら、あの時思い切って縁を切ってしまえばよかった。

あいつは俺のことを知らないで、それなりの人生を歩めていればよかったんだ。俺だって、ただの社長令嬢つう箱に収まっていればよかったんだ。

くだらないとすら思えてくる後悔の繰り返し。

俺は指輪をまた引き出しの奥にねじ込んで、俺は静かに部屋を出ようとした。

・・・・・・そんな時に限って、無駄な欲は湧き上がってくるというものだ。

 

一度この家を出たら、もう戻ってこれないかもしれない。

もしかしたら、あいつだけ残して俺は死んでしまうかもしれない。

そう思うと抑え込んでいたものが間欠泉のように噴き上がってしまう。ほんの少しでもいいから、思い出が欲しい。

 

「・・・・・・汗くさ」

 

ベッドに顔を埋めた。

至極ふつうの成人男性らしい汗の臭いが鼻を突く。

人様には言えるわけもない想像が泡沫のように浮かんでは消えてを繰り返す。

あんなことが無ければ、今頃俺たちは結ばれていたんだろうか。

意味のない、悲しいだけの想像が渦巻く。

今更叶うわけもないたらればの話ばっかりしてないで、未来のことを考えなければならないのに・・・・・・俺はいつまでも、過去に固執してしまう。

 

「・・・・・・マスター」

 

「篠塚か、どうした?」

 

顔を上げることもなく、俺はくぐもった声で答えた。

 

「・・・・・・教えてもらいたいんです。マスターの、本当の願い」

 

そういえば教えていなかった。

恥ずかしいからと適当なことを言って誤魔化していたのだが、こいつには気づかれてしまったようだ。さすが諜報屋、そこらへんの機敏は見逃さない、ってわけだ。

 

「どうしても言わなきゃ駄目なのかよ」

 

「・・・・・・どうしても、聞きたいんですよ」

 

今までずっと素直な人形ぽく思えるような彼の従順ぶりだったが、珍しく今日は押しが強い。

互いの願いを知るというのはある種のテンプレみたいなところもあるし知りたがるのはまあ当たり前っちゃあ当たり前だ。

 

「・・・・・・やだ」

 

でも言いたくないものは言いたくないに決まっている。

 

「素直じゃないですね、そういうところだけ」

 

知ってましたけど、と言って篠塚は小さな足音を立てて部屋の中を移動する。

俺が顔を上げたタイミングで、彼は窓の枠へ腰を下ろした。

 

「また後悔しますよ?」

 

「・・・・・・わかってらぁ」

 

今言わなきゃ、もう二度とチャンスは回ってこないかもしれない。

未練を抱えたまま死んでしまうかもしれない。

それでも、一歩が踏み出せないままだ。

 

「無理だ、俺なんかには。俺はあいつを幸せになんてできやしない」

 

「幸せにできないからって、諦めるんですか?根性なしもいいところですよ」

 

窓の外を見て、主の情けなさに呆れるようなため息をつく篠塚。

向こうの言い分も十二分にわかるが、どうしたって俺にはできない。

 

「それに、今更10年前になんて戻れねえよ」

 

あれから俺が捨てたものはあまりに多い。

 

「聖杯に願ったらいいじゃないですか」

 

「・・・・・・それは、そうかもしれねえが」

 

ああ、こんなんじゃマスター失格だ。

負けてしまいたいと願うなんて、篠塚に言ったら殺されること間違いなしだろう。

 

「マスター、ならせめて・・・・・・これくらい」

 

懐に隠していたであろうそれを取り出した篠塚。

・・・・・・まあ、これぐらいならいいか。

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