Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
いつの間にか夜も更け、皆が寝静まるような時間帯になってきた。
流石に6人を寿司詰めにするわけもいかんだろうと思ったが、そんな瞬時に混沌で満ちた部屋が片付けられる訳もない。
セイバーと不破はいつ襲撃があっても対応できるように、と交互に代わる代わる番をするそうなので用意しなくてもかまわんらしいが・・・・・・それを考慮しても4人か。布団はあるがリビングで寝るにはちとめんどくさそう。
「せっかくお前の部屋のベッド広いんだから来栖さんと添い寝すりゃいいだろ」
露骨なフラグ操作をしようとするな、そして灰皿も持たず煙草を吸うな海。
いきなりそこまで近づいてしまったらそれこそ死亡フラグじゃあないか。
「それくらいだったらセラヴィを俺の部屋に呼んだ上で来栖さんには書斎のベッドを使ってもらう。俺がいつ間違いを犯すかわからんからな」
俺と海でボトル一本空けたし、普段よりかは判断力が鈍っている。
ちょっと香りにつられて欲情しないとも限らないのだ。俺だって精神は普通の20代男子・・・・・・のはずだから。
「は~つまんねえなあ。お前らがサカってる音聞いてみたかったのに」
「どういう性癖だよそれ!!別に漫画の世界とかだったらいいけど現実でそれってちょっとねえんじゃねえか」
少なくとも俺は、そういう音を聞かれて気持ちいいような人間じゃない。
やるとしたらお前ら追い出すぞ、と言ったら「じゃあ外出てるからやれよ」と言われたので渋々言葉を取り消した。
「あーもうお前ほんとかわいくねえ、顔面と家柄とおっぱいだけしか取り柄ねえな!」
酒のせいで本音的な何かが垂れ流しになってしまう。おいおい俺、ノブレス・オブリージュの精神はどうした・・・・・・と自らに問ったが、最初からそんなものはなくあるのは驕り高ぶりだけだったことに気づく。
「ほぉ~・・・・・・?おんどれぇ、どつき回すぞゴルァ」
「あっぢ!?」
俺の額からじゅうとタンパク質の焼ける音。
このタイミングでそんなところに根性焼きを食らわすとはなんたる横暴。
俺がなんとかその場で治癒の術をかけたから大丈夫だろうが、ほっとくと一生大仏様の白毫みたいなやつがついたまんまになるところだった。やっぱヤンキーだわこいつ。
「やめろよお前俺に思い出の根性焼きとかさ、せめてなんか痛くない奴というか痕の残りそうにないもん選べよ!」
「痕残したいからやってんのにそれはねえよ」
じゅう、と今度はわざわざ俺の左耳たぶを掴んでまで火を押しつけてくる海。こいつは懲りない、永遠に懲りない。
「あっづい言うてるでしょうが!!」
「右耳がよかったか?」
「通ってる神経は同じなんだよなあ!!」
穴が空いてないか指で触ったところ、どうやら無事ではあるようだ。
また修復をかけて元に戻してやったが、堂々巡りになりかねん。さっさと逃げ出したい。
「まあ来栖さんにはそう言っとくから、セラヴィのほうに伝えとけよ。今日は俺と寝る日だ・・・・・・ってな」
「寝るにいらん意味を含ませるんじゃねえよ」
ほとほと呆れ果て疲れてしまったが、思ったよりも精神へのダメージは少ない。
いつものような馬鹿の言い合いが無意識のうちで癒しにでもなっていたのだろうか・・・・・・そうだとすれば、なんだか悔しい。
海のことなんてどうでもいいとか言っておきながら、心の内じゃあそんなことを考えているなんて。
負けた気がする。どうでもいい意地の張り合いに。
「なあ・・・・・・いいのか」
「なにがだよ」
「俺に、なんも言わなくて」
ずるいことをした。
本当は俺から言い出さなければいけないのに、海の方から言って貰おうと浅ましい言葉を吐いた。
「・・・・・・いいんだな、それで」
「・・・・・・やめろ」
「言うなら今のうちだぞ」
「やめろって言ってるだろ!!」
かなりきつく右足の太ももに蹴りを入れられた。じんじん痛みが走るけども、弱音なんて吐ける雰囲気じゃない。
「忘れさせてくれ、もう辛い思いなんてしたくねえんだ・・・・・・女々しく俺が泣いてるとこでも見たいってのか」
「そうじゃない、そうじゃない・・・・・・けど」
「じゃあなんなんだよ、もうほっといてくれ」
風呂場のある方へ行ってしまった海。
ここで逃がしてしまえば、あいつは絶対後悔するだろう・・・・・・そんな妙な偏見を理由に、俺は駆け出した。
「海!!」
ばん、とドアを開ける。
まあ当たり前っちゃ当たり前なのだが、海は・・・・・・その、風呂に入る準備をしていたおかげで・・・・・・
「・・・・・・今日は人肉ステーキの気分だなあ」
「暴力反対!カニバリズム反対!!」
ごきごきと指の節を鳴らして俺をたこ殴りにする気満々の海。
そんな挙動をしたら胸に巻いてるさらしが落ちるぞ・・・・・・なんて指摘をする前に、フラグは回収された。
ぱら、と脱衣所の床に落ちていく白い布。高給取りらしく、見るからに肌触りと通気性のよさそうな布だ。
そしてそれに隠されていた海の・・・・・・
「・・・・・・見るんじゃねえよ」
「・・・・・・すまん」
目をそらしたが、網膜に直前の光景が焼き付いて離れない。
あんなもん実際に見たのは初めてだったはずだ、俺だって男の子なので出るとこが出てしまいそうになる。
「出てってくれ、伴侶でもねえ男と風呂入るような趣味はねえ」
「そっか、そりゃ残念だ」
もうこんな状況でさっきの続きなんてやれるわけがない。ほんとに俺が挽き肉にされる。
不本意ながらも俺は書斎に足を運び、セラヴィへ寝る場所の変更を伝えようとした。
「セラヴィ、いるか?」
「なんすか、なんかあったっすか??」
がったがったと部屋の中でいろいろやっているみたいで、彼はどこかしら焦っているみたいだ。
「あのさ、今日来栖さん書斎で寝てもらいたくってセラヴィ動けるか?俺の寝室で一緒ってことになるけど」
「あー・・・・・・申し訳ぬぇーっす、今ちょっと木くずがやばくって。剣作ってる途中なんすけど」
さっきからちょくちょく聞こえてきた何かの削れる音ってのはそれが原因だったのか、と合点した。
「そうか・・・・・・掃除間に合いそうにない?」
「頑張りゃなんとかできると思うっすけど。ちょっと待っといてくれっす・・・・・・終わったら部屋行くんで待っててくれればそれでいっすよ」
大急ぎで箒を振り回す音が聞こえてきた。
マンドリカルドのことだから部屋の中大惨事という沙汰はないだろうと信じて、俺は一度寝室に戻った。
さっきの海とのやりとりを思い出して後悔を重ねながら、天井に描かれた模様を天に掲げた指で辿っていく。
なんだか虚ろな感じがしてきたのは気のせいだと信じたい。