Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
んで詠唱のルビですがほんとの文と全然違ってたりします。まあよくあることです(弁明からの逃亡)
「・・・・・・あ」
まただ、また俺は魔力を無駄遣いしてしまった。
右手にあるのはさっきまでなかった黄金の刀身を持つ剣・・・・・・刃はついていないのか、柄では無いところを握りしめていたのに手から血は出なかった。
魔術回路を起こしての研究をしている最中に気が抜けるといつもこの謎の剣を作ってしまう。
俺は投影魔術を使わないし、平尾家もそれを非効率で不必要としあくまで儀式用にと最低限のことしか伝承していない。
だというのに、なぜ俺はこんなことをしているのだろうか。
「・・・・・・消えた」
構築が不完全だったせいか、顕れた剣は1分かそこらで魔力になって霧散する。
これの原因を知りたいところなのだが、俺には皆目見当もつかん。知り合いの魔術師に頼ってみようかと思っても俺の周りのやつは皆人格破綻者か馬鹿だ、まともな答えが得られそうもない。
だー!と両手を投げ出し椅子に深く沈む。長時間ゲームやデスクワークをする人間用の椅子だから物理的な体への負担はそこまでないのがありがたい限りだ。
「いっそこれを積極的に利用してみるか?」
今俺とマンドリカルドの抱える問題が武器の補填関係だ。
マンドリカルドの持つものは威力こそ彼の宝具でデュランダルと同等になるが耐久性は何の変哲もない木剣と同じ。
つまり破損したら修復魔術でも使わない限りそれっきりというわけで、俺はそういったものを治すというのは不得手(自然治癒力を強化することで生物を治療することはまだ出来るのだが加工済みの木は時間をかけないと難しい)。
ストック用の武器を常に持ち歩くというのも限度があるので、現地調達やらなんやらも考えていたところ・・・・・・
こいつなら魔力さえあれば非効率的だがいくらでも作れるので尽きる心配は一応ない。メイン回路だけじゃあ流石に回しきれないと思うからサブ回路をいくらか解放しなければならないだろうが。
「・・・・・・あ、そういやあいつ」
確かデュランダルそのものを手に入れるまで他の金属でできた剣は手にしないという誓いを立てていると言っていた。
なまくら剣でも一応金属だからその誓いに抵触するのか・・・・・・もしするとしたらサーヴァントとはいえなにかしらのペナルティを背負わされる可能性もある。その結果起こるのがクー・フーリンのゲッシュ破りの時のような半身麻痺とかだったらたまったもんじゃない。
ずいぶんと悩ましい問題だ。後で聞かなければならないじゃないか。
「だーもー礼装の調整もなんかできたはいいけど完璧じゃねえしーなーんもいい案思いつかねーしー」
自分のポンコツさ加減に反吐が出る。
こうなったら気分転換に他の礼装も作ってやろう、指先を無理にでも動かしていたらなにかいいアイデアが浮かぶはずだ。
おもむろに作業台の引き出しから魔術的な防御結界の貼られた金庫を取り出す。
それを開けて、中からひとつ宝石を取り出した。
クロムを含んだおかげで緑に輝くその石の名前はダイオプサイド。
分類はケイ酸塩鉱物で構造が単斜晶系結晶、硝子のような光沢感のある美しい宝石・・・・・・
と科学的な話は今回どうでもいい。
基本土や岩の中に算出する宝石というものは俺の属性(地)と相性がいいし、もれなくもう一つの属性(火)とも、この石が火山とまあ密接な関係があることからいい。
ついでに礼装として機能する最低限のサイズを買うのに2万円もかからないので、10万かそこらが平気で消し飛ぶダイヤやらの金食い虫なんかよりよっぽど安く手に入りやすいのでかなり俺は気に入っているのだ。
いや別に家の財政が苦しいってわけじゃないけど。
「さーてと」
ローゼンジカットの宝石を特別製のチェーンの先に付け、明確な方向性を付与した魔力を込める。
宝石はかなりの長期間に渡り魔力を保存することができるので、一度礼装として作って正しい管理をしていれば100年は軽く保つ。宝石魔術を得意とする家系ならば込めて変質させた魔力を元の純粋な力に戻すことも可能らしいのだが、俺は一度石に入力したら設定した事象としてしか出力させることができない。
色々なことは出来るがどれも極められはしない。器用貧乏というのはほんと辛いものだ。
「
一時的に休ませていた回路をもう一度叩き起こす。
これはいつかの未来の俺のため、そう思うと体に走る痛みは心なしかあまり感じなくなった。
「
言の葉を紡ぐ、意志の中に怨念じみた感情を注ぐ。
高濃度の魔力放出は流石にくるものがあるのか、額に脂汗が滲んだ。
「
汗を拭く事もなく、限定機能を持つ礼装として完成させる。出来上がったのは緑色に煌めく石のペンダントで、見た目も何一つ不自然ではない。
こいつがあれば少しくらいは安心して戦えるはず・・・・・・だがこれにも少し問題があった。
「果たしてあいつがちゃんとつけてくれるか・・・・・・」
できれば普通に渡したいのだが、いいですよ俺なんかにーと渋られたらまた押し付けルールを使わなければいけない。
これで向こうは気を悪くしてないだろうかとか不安になっていた矢先にまた同じことを繰り返すってのもなんだか気分が悪いから、俺としてはほんとに自然にあげたい。
「・・・・・・とりあえずまあ、渡しに行くか」
彼が武装形態をとるとその首もとには某神奈川のプロレスラーかってくらい太い鎖がついているので、これが入り込む余地があるかなんて不安もあるが・・・・・・
階段をゆっくり降りて、彼に与えた部屋の扉をこんこんと優しくノックする。
「マンドリカルドーいるー?」
返事はない。どこに行ったのかと思ってパスを辿ってみると、風呂に入っているらしい。
わざわざそこまで行って渡すのも変だし、ここは部屋に置いて帰るという風にしておこう。スルーされると悲しいし困るので手紙とセットにして。
俺は手のひらをちょうど覆い隠すような大きさの紙に、ちゃんと読める字体で書いておく。
『ついさっき作ったばっかりの即席ですまんが、お前のための礼装だ。できればつけておいてくれると嬉しい。 克親』
あんまり長文でこいつに込めた効果やら思いやらをつらつら書くのも違うなと思い、簡潔にまとめてやった。
情緒もクソもあったもんじゃないが、ここでこちらの熱の入りようを見て引かれるのは嫌だったから仕方ない。
・・・・・・なんか今日の俺の行いを振り返るとすでに引かれている可能性があるがそれからは目を背けておこう。
明日は仕事があるのだから、早く寝なければ勤務時間中に居眠りして上司にどやされること間違いなしなので、俺は寝室に移動し愛するベッドに飛び込んだ。ごく薄く感じる花の匂いがまた安心させてくれる。
「ふぃー・・・・・・疲れたぁ」
今日も今日とて魔術回路をグルグル回したおかげで体の疲れも適度にある。
そのまま俺が眠りに落ちるのに、そんな時間はかからなかった。