Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
ものっそい平和
「んでさ、お前んとこにあの金ピカが居候してるっつう話を聞いたが本当か?」
「ええ。俺は早々に負けたんで事情がわからないんですが、あの英雄王様・・・・・・とやらは家にいらっしゃいますよ」
なぜか俺の寝室を占領してます、と付け加え貴志はうなだれる。恐らく部屋の中で好き放題やられているのだろう、かわいそうに。
「英雄王サマからなんか話は聞いてねえのか?」
「ちょっと聞いてみたりもしたんですが、再契約もしているのに答えるわけないだろと一蹴されまして・・・・・・」
まあ当たり前か。契約もしていない相手に情報を漏らしたらこんな感じで敵対してるところにタレコミされる可能性があるのだし。さすがに慢心大好き野郎と名高いあいつでもそれはしなかったか。
「こうなるとアド取るにはこっちから奇襲するしかねえな。だがそれだと最悪の場合テメェの家が粉々になりかねんが・・・・・・」
言葉の裏に「隠している情報があるなら今吐け」という旨の脅迫を練り込んで、不破が雨に濡れたであろう髪を拭く。
貴志もさすがにその意図を察したか、俺は何も知らないですからねと念を押すように震えた声で言った。
「どうだかなあ」
不破が軽く右手を振るう。
一瞬にして形成された黒鍵が少しだけ開いていた貴志の口に入り込み、強制的に切っ先を加えさせる形となる。黒鍵はどちらかというと投擲や刺し穿つ方向性に特化しているため切れ味はまあまあだというが、この状態で喋ったら普通に舌は切れてしまうことだろう。釘を刺したつもりだろうがいくら何でも過激すぎる。
「さすがにいたいけな高校生を虐めるのはどうかと思うぞ」
「高校生に対していたいけとか中年の言うことだろ」
その場で形成した剣を回収する不破。ただの炭素塊となり、彼の肉体に収容されていく(どこにそんなスペースがあるのかはわからない)。
完璧に貴志の目は脅えている。俺はこいつ頭おかしいから仕方ないと謎のフォローをして落ち着かせるためにジュースでも出そうと立ち上がった。
「そういや、得意な魔術は?」
聞いていなかったことを思い出し、俺はオレンジジュースをコップに注ぎながらそんなことを言う。
このあたりで一番有名だのなんだのと言われる俺ではあるが、ここに根を下ろす魔術師を全員知っているわけじゃない。
「俺が父から教わったのは飛行魔術ですね。完成には程遠いですけど」
「ほう。動魔術ではなく?」
「違いますね。動魔術って3Dのモデル動かす時みたいにいっぱい関節周りを制御しなきゃならないじゃないですか」
確かに自分を動かすためには複数箇所を魔力で制御して、空中でバランスを保持しなければならない。
そのために初級動魔術とは銘打っているが、習得には並列思考がほぼ必要不可欠だ。
「近年ハリー・ポッターとかの話が世界中に広がってますし、神秘設定も拡張されてるでしょ。おかげで男であっても箒とかがあれば空は飛びやすくなっているってわけです」
まあ俺にはできませんけど、という言葉を後付けして貴志はため息をついた。
そりゃあ人間を浮かすともなるとものすごい魔力消費になること請け合い。まだまだ歴史が浅いらしい彼の家系では可能にできるほどの魔力が作れるかも怪しいだろう。
「現状どれくらいなら行けるんだ?」
「なんとか頑張ってこのテーブルが限界ですね。コップがあったらいけるかどうかも怪しいというか」
このローテーブルは確か20kgくらいの重さなので、家の歴史や本人の修行期間も鑑みると相当才能はあると言っていいだろう。
一応見せてもらおうと俺は上に置いてあったものをすべて片付け、結露によってできていた水滴をすべて布巾で取った。
暴走して大惨事になることを防ぐために、リビング一帯へ強化魔術をかける。これでテポドンが飛んできてもこの部屋だけは耐えられるくらいにはなった。
「・・・・・・じゃあ、いきます」
貴志がいきなり右手の親指を咥えたかと思うと、強く噛み締めた。
恐らくそれが魔術回路を起動するためのスイッチ・・・・・・開くのに特定行為が必要とはずいぶん大変そうだ。
親指の根元が内出血を起こすんじゃないかってくらいに力を込めたあと、貴志は指を口から引き抜く。
その親指を握り込み、テーブルをぎっと彼は睨む。
「飛べっ!!」
濃厚な魔力の流れがテーブルへ渡り、ふわりとまるで風を受けた羽のように宙へ浮かぶ。
姿勢制御はまだまだ甘っちょろいがこれだけの力量ならば十分褒めてもいいんじゃないだろうか。
浮かせた状態から動かすのは無理だということで、ゆっくりとそれをおろしてもらう。
俺はなんとなく、術を行使している間のロスが大きいと感じた。せっかくの魔力が効力を発揮する前に拡散して一部が意味をなしていない。
消費する魔力が多くなりがちな飛行魔術においてそれは致命的だろう。
「・・・・・・あ」
青ざめた顔で倒れ込む貴志。恐らく魔力欠乏による体調不良だろう。
仕方がないので俺が少し充填してやると、血色は目に見えてよくなった。
「魔力を送り込むイメージが雑なんじゃないか?テーブルに到達するまでに俺の推測ではあるが10%はロスしてるぞ」
「それは俺も思ってました・・・・・・でもどうすればいいのかわからなくて」
確かに時計塔やらにでもいかなければ本格的な授業を受けることは厳しいだろう。舞綱は各魔術師間の繋がりも薄っぺらい感じなので元より自らの技術を伝えたがらない性質もあいまって教えあいっこなどということはもはや存在しないにも等しい。
だがそれだと寂しいなあと俺は思うので、少しくらいなら助力したっていいと時折手を貸すこともある。
まあ大概断られるもんだけど。
「ちょっと失礼」
貴志の肩に両手を置く。
解析の魔術を通すため魔力を生成し中へ送り込む・・・・・・そして回路の様子を見たところ、かなり効率の悪い使い方をしているらしい。数自体はまあ平均くらいだから、運用さえ間違わなければそれなりに使えるようにはなるだろう。
「痛かったら言えよ」
「え、何を・・・・・・ひんっ!?」
解析に使う魔力の腕で、使用されていないであろう回路の部分を少し刺激してやる。
自らの回路を完璧に認識していないせいだろう、これでここにもあると観測させることができたはずだ。
そして生んだ魔力まとめて練り上げる力もまだまだ弱い。
俺の魔力を無理やり燃料にしてもらう形で、一度練習をしてもらおう。
「いつもやってるように魔力練ってみ」
「・・・・・・は、はい」
内側からその成り行きを見守るが、かなり丸め方が甘っちょろい。例えるならパン作りで生地を作る際にそこらじゅうへ小麦粉撒き散らしつつ、水も足りないというような感じか。
「まあ魔力を練るのは難しいよな」
外側から少し手を貸す。ゆっくり、粉を大きな生地にするイメージで・・・・・・何度も何度もこねてこねてこねまくる。
慣れてくると意識せず塊を形成できるのだが、まだまだこれからと言ったところか。
「これでさっきよりはましなやつが使えるはずだ。やってみ」
「・・・・・・飛べ!」
先ほどよりも軽々とテーブルが持ち上がる。
軽すぎて天井からぶら下がる照明にぶち当たりそうで恐ろしかった。
「すっげ・・・・・・こんな軽くできるなんて」
「能力自体はとてもいいから修練次第ってところだろうな・・・・・・頑張れよ」
「は、はい!」
これは将来有望と言ったところだ。これから先戦争絡みで殺されないことを祈るしかない。
そう俺は思いつつ、貴志から手を離した。