Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

132 / 172
明日8限まで+部活の会合なんで更新できなさそうっすね
いやーもうすぐちょっとだけの夏休みなんでなんとか・・・()


131話 十日目:酔った勢い

「今日のごはんはなんだーい」

 

海と篠塚の間に起きたことを知らないセイバーは呑気にキッチンへ立つ篠塚へそんな問いを投げかける。

首が錆び付いたロボットのように篠塚は振り返り、献立らしきものをつぶやいた。だが声が小さく聞こえない。

 

「なんだって?オジサン地獄耳じゃないんだからそんなの聞こえないよ」

 

「・・・・・・人間の活け作り」

 

だめだこいつ、精神がやられておる。

冗談だろと俺が聞いたら、はっと我に返った様子で篠塚は改めて献立を言う。今日はハンバーグだそうだが・・・・・・さっきの謎めいたつぶやきのせいで今練ってる肉は普通の牛豚合い挽きなのかと疑問に思えてくる。

サーヴァントならそんなものを食っても大丈夫だろうが、俺たち普通の人間はだめ(病気になって最悪死ぬ)なのでそこらへん厳しくしておきたいものだが。

 

「篠塚、相談なら乗るぞ」

 

「いえ大丈夫です。セラヴィさんといろいろ話しましたから」

 

ぺったぺったとこねた肉の塊をトレーに落とし、大きめの氷を一つ中へ埋め込む篠塚。そうすることで美味しくなるという話だがよくわからん。なんだかんだで化学は苦手である。

 

「雨足強くなってきたな」

 

「天気予報によると明日も雨だそうだ」

 

足元が悪い中戦いたくねえなとセイバーが腰に手を当てて言う。まあぬかるみに足をとられて転び、腰を痛めるということはこのあたりのご老人によくある事故・・・・・・サーヴァントもそんな情けない負傷するのかとは思ったがそこは個人の特性だそうで。

召喚された年齢がかなり高かったり病弱の逸話を持った英霊ならいらないパークスキルがついているという話。

例えば沖田総司の病弱という特性は確率で発動するそうなのだが、

 

「でじマ?」

 

「・・・・・・ほんとですよお・・・・・・私単独で召喚されたときは十中八九ひどいことになるんです。無辜の怪物みたいな被害受けてるんですぅ」

 

今回みたいなケースは初めてだそうで、このように複数の英霊が混ざり合った状態で召喚されるとそういったスキルは発動しないらしい。

おそらく”芯”である彼の力が強くでている状態なので、本来発動するべきものが薄まって体感できないくらいになっているというだけかもしれないがとにもかくにも運動に問題はないとのこと。

 

「あーこうなるって知ってたら最初から土方さん連れて召喚されてればよかったなー」

 

「それでいいのか天才剣士」

 

そんなパークスキルの克服方法であれば永遠にその逸話は消え去らないし相方がいない状況で呼ばれたらどうするのだ。

座の概念がまだ把握し切れてないためそれで大丈夫なのかもしれないが、俺は不安でならない。

 

「ふぃーやっとできたっす」

 

額に浮かんだ汗を手のひらで拭いながら、マンドリカルドがリビングにやってきた。

冷蔵庫から牛乳を出してきたかと思うといきなり開けてラッパ飲み・・・・・・腹壊さねえのか(俺は牛乳を飲むとすぐに腹がゆるくなる)。

 

「あ」

 

「・・・・・・なんすか?」

 

「明日のホワイトソースに使おうと思ってたんですが」

 

まさかそのまま飲むとは思わなかった。と篠塚がへへへと笑ったのはいい。このくらいのアクシデントくらい別にどうとでもなるという表情だったがマンドリカルドの方からそれは見えない。

どんどん彼の顔が蒼白になっていく。流れるような土下座の美しさには現代日本に生きる社会人として見習いたいとさえ思えてくる・・・・・・

 

「今から買ってきます」

 

「いやいいですよこんな大雨の中」

 

窓の外を指差す。山が土砂崩れを起こしかねないほどの雨量・・・・・・聴覚や視覚、もれなく嗅覚も雨に支配される状況だ。

人間が行くのも危険だし、実体化した状態のサーヴァントもあまり出していい状況ではない。

裏山はたくさんの木が根を張っているためそこまで地滑りなどの事故は発生しないはず(俺もその上から地盤強化魔術を使っていいる)・・・・・・だが危険なことには変わりなし。

 

「口付けたんならちゃんと責任とって全部飲んどいてくださいね。サーヴァントの身だから大丈夫ですけど一応衛生的に・・・・・・」

 

「わかったっす、今すぐ飲み干します!」

 

某番組で見た乳牛祭りがごとき勢いで1.5Lの牛乳パックを逆さにし、一気に取り込んだマンドリカルド。

そんな飲み方したらきらきらしたエフェクトで加工されたなにかしらを口から出すんじゃあないかと雑巾の場所を探したがそんな心配は無用であったようだ。

 

「・・・・・・ぷはー」

 

「そういやお前大丈夫なタチか」

 

騎馬民族ということはまあそりゃ馬やら何やらの乳を取って飲んでいたと想像できるし、その中で大量に飲む祭りが開催されるようになってもおかしくはない。マンドリカルドが王族であった時代のことは原典であんま言及されていないだめただの妄想に過ぎないが。

 

「いやー懐かしいっすね。年一でやってた馬乳酒早呑み大会・・・・・・俺毎回飲んだ直後に戻してたっすよ」

 

そりゃ酒一気飲みしたら吐いたり急性アル中になってもおかしくはないだろう。よくそんなしょーもない方法で乙らなかったもんだ。

 

「普通の牛乳や馬乳はもう慣れてるっすから大丈ぶっ・・・・・・」

 

「・・・・・・一応トイレは早め早めにな」

 

霊体であるサーヴァントにそういったものがあるのか知らんが一応言っとく。俺の家は清掃そんなに簡単じゃないし。

 

 

その後は何事もなく全員で飯を食い、確実割り当てられた部屋に戻って自由な時間となった。

・・・・・・今日もマンドリカルドは俺と寝室で一緒になっているはずなのだが姿はない。

 

「・・・・・・珍しいな、霊体化するなんて」

 

『そっすか?』

 

存在が希薄になっている感覚は今の状態でもあるが、彼が今どこらへんに漂っているかはよくわかる。

しばらくつけていなかった寝室のテレビをつけた状態で、その真正面にあるソファの周りにもやが浮かんでいる・・・・・・テレビ見るなら実体化すればいいのに。

 

『たまにはこんなんでもいいじゃないすか・・・・・・基本サーヴァントってこういうとき霊体化するもんでしょ』

 

「俺らの基本はちーがーうーだーろー」

 

姿見せろやーいと少し晩飯の後に飲んだ酒のせいで変なことすら口走る。

ちょっと今日のは喉が焼けるようなやつだったせいで酩酊がいつもよりきついようだ。

ふわふわした魔力が俺の枕元に流れてきて、一瞬にして凝縮され実体のマンドリカルドが現れる。

少し困ったような顔をした彼を俺は無理やりベッドに引きずり込み、抱き枕がごとくきつめに抱きしめた。

 

「ちょ、克親・・・・・・!」

 

「俺駄目だー来栖さんに手なんて出せないーこわいー」

 

いらんことばっか言い出す。こんなのセイバーに聞かれてみろ殺されるとまでは行かなくても絶対きつめにしばかれるわ。

 

「・・・・・・そんなこと言ったって俺をこうする理由がわかんぬぇーっす」

 

「わかんなくてよろしい」

 

汚らしい感情をゴミ箱に押し込んで、なんとか保っている。ああ、こんなんになるんだったら酒なんて飲まなきゃよかった。

 

「・・・・・・克親」

 

俺が手を離した直後、マンドリカルドが俺の胸元に顔を埋めてきた。

 

「少しだけ、いいっすか」

 

何かを思い出したかのように、彼は目を閉じる。

 

「・・・・・・いいさ、少しだけなんて言わなくていいから」

 

彼は俺の心臓に耳を当て、安心したように小さく笑う。

その顔を忘れることは多分できなさそうだと、俺は本能的に感じ取った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。