Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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座の設定すごい解釈になってる事件()


132話 十日目:変わらないもんだ

もうすっかり彼は眠ってしまっただろうか。

静かな寝息が俺の胸元あたりから聞こえてくるし、鼻呼吸による空気の動きもなんとなく感じ取れる。

 

「・・・・・・だめだ」

 

俺は静かに起き上がり呟いた。

離したくない、別れたくない。

やっとできた友達という存在が当たり前になって・・・・・・独りに戻るのが怖くなる。

こんなだだっ広い家にひとりぼっちなんてもう嫌だ。

誰とも話せないで食べる晩飯の惨めさはもう味わいたくない。

心の底から、笑いたい。

 

「俺の意気地なし」

 

そんな弱音なんて、わがままなんて吐いてちゃだめだろう。

寂しいからって奇跡の成し遂げる業まで利用して友を現世に留めるのは正しいのか?

俺は幸せかもしれないけど、彼にとっては違うかもしれない。

 

「・・・・・・デルニ、起きてるか?」

 

「なんだいきなり」

 

なんとなく声をかけてみると、すぐに裏側の彼は目を覚まし俺の顔を見やる。

やはりいつものマンドリカルドに比べてどこか冷たい印象・・・・・・というか、虚無の波動を感じた。

 

「もしも、俺がお前の・・・・・・正確には表のお前を受肉させたいと願ったら、お前はどう思う」

 

「わたしは別にどうとも思わん。記録だけ座の方へ提出させたらこの体はただの魔力に戻るだけだし、それが受肉して新しい生を謳歌しようが座のわたしにとってはどうでもいいことだ」

 

サーヴァントとは英霊の一側面をコピーして削りだしたもの、というのだからどれだけ霊基が肉体を得ようと害はないということだろう。関与もするつもりはないらしい。

 

「それを望むのか」

 

「・・・・・・ああ。独りが、怖くなっちまってさ」

 

酔いは少しずつ醒めていく。

窓の外は未だに土砂降り続きで、たくさんの音がかき消されてしまう。

 

「・・・・・・わたしと、同じじゃないか」

 

「・・・・・・そっか」

 

人類の守り手である彼は、ずっと孤独に滅亡の原因を抹消していたはずだ。

同業者もいるにはいるのだろうが、任務は多分いつだってひとりぼっち。

擦り切れてなにもなくなった自分の代わりに活動してもらうという意図も含め、いつものマンドリカルド・・・・・・若い頃の自分を人格として作り上げたのだろう。

 

「手が覚えているんだ、人類を救うためだと大義を掲げて・・・・・・人を殺していくときの感覚を」

 

彼は、弱々しく右手を握りしめた。

何かを思い出したのか、ぎゅうと目を渋っている。

 

「こんなとんだブラック企業さっさと辞めたいのにな・・・・・・いつぞやの俺のせいで、人類滅亡までこのままだ」

 

人類が存続するためならば、少しは殺しても構わない。功利主義みたいなことだろう。

例え好きな人間であったとしても、それは変わらないみたいだ。

 

「他人のために魂をすり減らすのは、間違ってるのか?」

 

「・・・・・・俺には、わからんさ」

 

自分のために生きても、誰かのために生きてもいい。そんなものは人の自由だ。

だから、俺は肯定も否定もできない。合ってはいるが、間違ってもいるのだから。

 

「でもな、俺はお前の生き方・・・・・・嫌いにはなれねえよ。正義の味方みたいでかっこいいじゃないか」

 

海の言った言葉が、言っていて脳裏に浮かぶ。

「悪だけを駆逐して誰も彼も救えるような正義の味方になれるんならなりたかったに決まってる」・・・・・・あのときの顔は少しだけ後悔の念が透けて見えていた。

 

「正義の味方・・・・・・そんなもん、どこにもいない」

 

心底嫌そうに、彼は吐き捨てた。

思い出したくもない記憶でもあるのだろうか。

 

「絶対なる正義ってのはどこにもない。こいつのいってることはすべて正しいなんてわけない。生き物ってのは大概生きてるうち何度も過ちを犯すもんなんだ」

 

それは確かにそうかもしれない。

生き物は、何度でも、何度でも、失敗ばかりする。

 

「ラプラスの悪魔がいたって、全人類を幸せにすることなんてできないだろ」

 

ラプラスの悪魔・・・・・・すべてを知り尽くした者、すなわち全知全能の神に等しい存在。

確かに、神が全人類を幸せにしたという話はあるだろうが、必ずどこかでそんな世界は崩れることになっている。

人の裏切り、戦い、そして他の神による諍い・・・・・・生命は、戦わなければ生き残れないのではなく、戦わなければ生きていけないものなのだ。人も、植物を食らい動物を食らう。力の差があるせいで認識はしにくいが、これこそ種族同士の戦いでしかないじゃないか。

 

「未来を知っていても、無理だってことか」

 

「ああ、現にわたしも未来のことはわかる。だが・・・・・・それで誰かを幸せにしたことなんてない」

 

座というものは時間の概念がいろいろ変わっているらしい。そのため、いつどこの誰に呼ばれても対応できるようになっているそうだ。

まあ明日の記憶を話してしまったらそこで因果が書き換わる(もしかしたらそれすらも因果の範疇だったりするだろうが)から話せないのだろうけど。

 

「なら俺が幸せになってやる、初めての相手になってやるよ」

 

「・・・・・・おめでたいやつだ」

 

呆れ果てた顔で、デルニは起き上がって俺を背中から抱きしめてくる。

 

「こんなやつに救われるってのが、そこはかとなく悔しい」

 

「こんなやつで悪かったな」

 

デルニの隠していた弱音を散々口にすることで吐き出させまくる。

何もかもが磨耗して劣化したと前に語っていたが、話を聞いていたらいつものマンドリカルドとそこまで大した差はないみたいだ。

強いていうなら精神年齢が十数年ほど上ということが差にはなっている。

 

「・・・・・・お前の望みは?」

 

「あいつと、同じさ」

 

ってことは・・・・・・と俺は振り返るが、彼は既に引っ込んでしまったらしい。

また柔らかい寝息を立ててマンドリカルドは眠っている。

 

「・・・・・・ああ」

 

書き忘れていたあのノートのことを思い出して、俺はベッドから立ち上がる。

マンドリカルドに毛布をしっかりとかけ、研究室へとつながる階段を登った。少し轟音が聞こえるので、また雷でも鳴っているのだろう。

 

「さて、かなりの日数とばしたからな」

 

忘れないうちに記録しておこう。

紛れもない一生の思い出なのだから・・・・・・あ、またみんなで写真撮っときたいな。

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