Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
「────啼くがいい」
ギルガメッシュの体に走る赤い紋様が、心なしか光った。
魂が理解している。こいつをまともに食らったら、細胞の1つさえ残らないだろうことを。
だが俺は逃げるわけにもいかない。マンドリカルドと一緒に生きて、一緒に死んでやる・・・・・・その覚悟で戦ってきた。
俺は手に持っていた”それ”を彼に渡し、静かな息を吐く。
「貴様には地の理など必要ない、天の理を見せてやろう────」
一瞬でも気を緩めたら全てが吹き飛んでしまうような地獄。マンドリカルドとセイバーのために魔力を生産するだけで気が遠のくような状態なのに、倒れることは断じて許されない。
セイバーが宝具の発動準備段階に入る。太ももの回路が悲鳴を上げ始める・・・・・・あからさまなオーバーヒート状態だけど、この際ぶっ壊れようが構わない、死ぬより断然マシだ。
「そんなもんはいらねえな。こちとら地でも天でもなくって”人”だからよー」
セイバーの剣が、光を纏い打ち震える。
「壊れず、折れず、曲がらず──────我が剣は全てを刺し穿つ」
「・・・・・・そうか、ならば・・・・・・好きなだけ謳うがいい、雑念」
神話の出来事と言われてもおかしくないような力が、圧倒的な力が、一帯に吹き荒れる。
ああ、見惚れる暇なんて許されない・・・・・・なのに、それは俺の視線をいとも容易く奪い取っていくのだ。
「・・・・・・原初を語る。元素は混ざり、固まり・・・・・・万象織り成す星を生む」
「掛け替えなき物の守人として死ぬるなら、この命すら惜しくはない!!」
これ以上もたついていたら間に合わない。セイバーと最後の決闘をする約束が、果たせない。
俺はマンドリカルドの手に、優しく触れる。
「今になって不安になってきたっすよ・・・・・・あんな戦いに、俺なんかが」
ここに来て自信を失わせる訳にはいかない。自分を信じさせなければ、何も成功しないだろうから。
俺は、マンドリカルドの双眸を見つめて告げる。
「・・・・・・お前なら。行けるさ、絶対に」
それでも揺れる瞳。
俺は思い切って、彼の額に張り付いた前髪を掻き分けそこに唇を触れさせた。
「・・・・・・あ」
「・・・・・・大丈夫、俺がお前を信じてるから。お前は俺を信じてくれるだけでいい」
戸惑う彼だったが、さすがに決心がついたか口を真一文字に結ぶ。
「わかった・・・・・・俺は、克親を信じる」
聖杯戦争が始まって二日目。あのとき折れて粉々になった、マンドリカルドが最初に持っていた木剣の柄を握りしめ・・・・・・静かに彼は目を閉じる。
俺の一番奥がどくりと大きな脈を打つ感覚。封印は全て解けていないが、その力の片鱗は遺憾なく発揮できる!!
「ふ・・・・・・う”っぁあああああああああああ!!」
俺はすべてを擲ってでも、彼の力になる。
例えこの体がばらばらになって消え失せようと、魂すら残らず奪われようと、構わない。
この身に背負った平尾家の歴史が、自発的に駆動する。
神経がぶった切れても、血液が沸騰して気体になってもおかしくないような熱が体を焼く。雨で体が冷えていなければ、普通に体温が42度を越えていただろうとさえ思える。
「う”ぅおおおおおおおオオオオぉおおおッッッッ”!!」
俺のオーバーヒートの影響で辛いはずなのに、それをおくびにも出さず懸命に耐えるマンドリカルド。
網膜を焼くような閃光が、俺の左胸から溢れ出る。
柄から先のない剣にそれは集い、実体と見紛うような刀身を形成した。
「・・・・・・ふ、不完全ながら形にしよったか。まあいい、全て消し去るのみだ・・・・・・世界を裂くは我が乖離剣」
「そういうわけには行かねえな・・・・・・俺のもう一人マスターからも言われた。何があっても守り抜けってな!」
セイバーが、剣を構えた。
「死を以てその口を閉ざせ・・・・・・『
地を穿つ力の奔流が、視界を埋め尽くした。
ああ、死ぬ────────と、普通なら思うだろう。
だが、今は”普通”なんかじゃない。
「『
強大なそれが、ある一点で2つに裂かれる。
それでもなおギルガメッシュの力は強く、背後にある森の木々をなぎ倒す所か消してゆく。
「・・・・・・ヘクトール、様」
顕現させた光の剣を手に、マンドリカルドは命を懸けて追い求めた英雄の名を呟いた。
やっぱり、あなただったんですね。と・・・・・・静かに、右目から一粒零す。
「感動の出会いとかそういうのはあとだ・・・・・・さすがにオジサン耐えきれなくなっちまうからな!」
行け、とセイバー・・・・・・否、ヘクトールが叫んだ。
そう言われてしまったらもう踏みとどまってはいられない。
「行くぞ、セラヴィ!!」
「ああ、心中覚悟の特攻だ!!」
勝利を引き寄せる風になると、そう決意して俺たちは走り出す。
なにもかもを破壊する力だとしても、決して屈しない。打ち破って見せる。
破砕の奔流へ光の刀身が触れた。
「・・・・・・う”ぉる”ぁあ”ぁ”ア”ぁ”ア”ァアアあ”ぁ”ァ”ッ”!!!!」
彼は全ての力を振り絞り、絶叫する。
これは、人のもたらした夢の形だ。
いずれ醒めて消える宿命であろうとも、その輝きは嘘になんてなりはしない。
例え、どれだけ儚くとも────────。
「ぶち破れぇええええええええええええええええッ!!!!」
魔術刻印が眩く輝く。
あんな奴には、絶対に負けない。
「俺は、大切な人を守る”ッ・・・・・・それが俺の・・・・・・全てだ──────っ!!」
赤の奔流が、完全に裂ける。
そして眼前には、少しだけ眉を動かし驚いたような素振りを見せるギルガメッシュ。
さあ、例え届かずとも、この剣の輝きを脳裏に焼き付けてやる。
「我は、第一宝具を誓約のもとに破棄する・・・・・・我が手には宿命の絶世、不毀を誓う極剣!!」
さらなる光が、剣の全てを包む。
「これは俺が・・・・・・否、俺たちが見た、”人の夢の結晶”!!我が親友の為、此処にその力を解放する!!」
マンドリカルドはその剣を両手で持ち、高々と天へ掲げた。
指し示す、生き方の形。
見るがいい、これが俺たちの・・・・・・すべてだ。
「『
その名を、彼は叫ぶこともなく静かに言った。
瞬間、光の奔流が世界を包む。
雨を降らせていた雲は一瞬にして蒸発し、隙間から月が顔を見せた。
「・・・・・・綺麗だな」
「・・・・・・ああ、本当に」
一緒に地を蹴り、天を駆ける。
「行けっ!!!!」
「っらぁああああああああああああああああああああ!!」
その刀身が、ギルガメッシュの脳天を切り裂かんと振り下ろされる。
向こうはただ、手を掲げるだけだ。
「・・・・・・これも、友というあり方か」
ギルガメッシュがぎっと歯を食いしばり、なにかしらの剣を取り出してきた。
さすがに抵抗はするだろう、だが打ち負ける気はしない!!
「ちょっとごめんなさいね」
「・・・・・・え?」
聞き覚えのない、見知った声が聞こえた。
なんだ、唐川も、不破も、来栖さんも・・・・・・ここには来ないはずだろう?
「・・・・・・ッが」
ギルガメッシュの心臓を、一振りの刀が貫いた。
切っ先から血が垂れる。確実に、これは死ぬ一撃だ。
「最初っからこんな作戦だったろ」
「・・・・・・あ、ああ」
なんで今まで忘れていたんだ。海と篠塚の存在を。
「なんで忘れてたんだろうな、お前らのこと」
「失礼な」
奴はそう言って、右目を擦る。
月明かりだけだからよくわからないが、どこかおかしい。
「認識災害を意図的に引き起こすのは奴らから言われてたんだがな。しゃーなしだ」
「・・・・・・ふ、はははは・・・・・・よもや、そこまでとはな」
あくまでもギルガメッシュの表情は崩れ去らない。
蝋燭が燃え尽きるとき最後の劫火らしいものは見えない・・・・・・諦めた、という表現は適さないだろうが、そういった感じなのだろう。
「・・・・・・これが、人の力だ」
刀身を失った剣を下ろし、マンドリカルドがそう呟く。
俺は顔を上げた。
「・・・・・・ん?」
黒い穴のようなものが、虚空に見えたのは気のせいだろうか。