Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
黒点がいきなり、ぶるると震える。
これはアカンやつだと本能的に察知した俺は、篠塚と海をとっさに屋根の下へと蹴り落として、マンドリカルドの手を引き地面へと降り立つ。
「そういうことするならせめて言えやボケ」
「んな悠長にやってられねえよ!!」
少しずつ消滅しかかっているギルガメッシュのエーテル体に、穴から這い出た真っ白な腕が絡みつく。
・・・・・・まさか、聖杯に収められる前に取り込もうとでも言うのか?
「っ・・・・・・下郎、そこで踏みとどまっていろ!」
黄金の鎖がマンドリカルドの腹に絡みつく。
恐らくこの体を支えにして鎖を手繰り寄せる形で穴から出ようとしているみたいだが、力の差は歴然だ。
あれに取り込まれたらどうなるかわからない以上、こちらもマンドリカルドをあの中に入れる訳にはいかない。
「セラヴィ、鎖で体ちぎれるとかないよな!?」
「ああ、宝具の残留効果的なので鎧が強化されてっからそういった心配はないが・・・・・・さすがに腹が、絞まる・・・・・・!」
いくら硬くなっても金属であることに変わりはない。というわけで九偉人・・・・・・ヘクトールの鎧も壊れはしないが弾性のおかげで少しは曲がる。
鎖によって締め付けられ、ただでさえ体系にぴっちりと合ったタイプの鎧はマンドリカルドの体にじわじわとダメージを与えていく・・・・・・打ち破ったとは言え先ほど受けた宝具の影響か内部にまで損傷が行っているので、あまり無理はさせたくない。
「さっさと出てこい!!こっちだって金属で体出来てるわけじゃねえんだぞ!死にてえのか英雄王!!」
「ぐっ・・・・・・死ぬつもりなどどこにもないわ、耐えておれライダー!!」
雑種から昇格してるとかいう話はもはや今となっちゃどうでもいい、ギルガメッシュがどうなろうと知ったこっちゃないがマンドリカルドまで道連れにされてなるものか。
先ほどの連続宝具使用で魔力はすでにカツカツだが、魔力切れで死にかける寸前までやるしかない。
「おいライダー!足に力入れとけ!!」
ずりずりと少しずつ引きずられていった俺たちだが、不破の言葉とともに足が止まる。
ちょうどくるぶしから下あたりに、無色透明の結晶が生まれ固定されたのだ。
おそらくは不破の魔術によって作られたダイヤモンド。地中深くまで結晶は埋まっていて、かなり強い支えとなっている。
「支援はありがたいが劈開方向とか大丈夫か!?」
「俺が考慮してねえわけねえだろうが!引っ張られる向きでは壊れねえようにしてる、あとはテメェらがどうにかしろ!」
これほどまでの支援を貰ったのならもう文句は言えない。
龍脈からマナを汲み上げ、俺の力へと合流させる。一気に大量の水を飲んだみたいなものだから、あまり過剰になりすぎると中毒じみた症状を引き起こしかねない。
・・・・・・まあ、何年も龍脈の要となるような場所で生活を続けていたため俺にはまあまあ無縁な話だが。
回路を破壊するような毒が混ざっていないのを見るに、相手はそこまで俺を殺りにきたわけではないだろう・・・・・・考えが変わられるうちにさっさと対処してやりたい。
「こ、これやべーっす・・・・・・異常に細いコルセットしてやべえ体型になるどこぞの姫様の苦しみがわかっ・・・・・・ぐぇ」
「セイバー鎖切ってぇ!!」
そろそろ泡を吹いて戦闘不能になりそうなマンドリカルド。ギルガメッシュには申し訳ないが、これ以上は無理だ。
「いいのかい?」
「ああもういいよ、あいつ助けたいには助けたいがその前にセラヴィが逝く!!」
顔が青白くなってそろそろ危険域だ。なんとか最後の一線を越えることはないように魔術で抑え込んでいるが、いつそれが弾けるかわかったもんじゃない。
魔術が物理的破壊を食らったときはそれこそマンドリカルドの胴体と足がさようなら。最悪のパターンになる(回復はできるがかなりの期間戦闘行為は不可能だろう)。
不破がやめとけと言っているが躊躇はできん、やるしかない。
「マスターがそう言うなら仕方ないね・・・・・・そらよっと」
さすがはデュランダルの元にもなった剣ドゥリンダナと言うべきか、その刃は簡単に鎖を破壊する。
「残念なことに俺に神性はなくってな。ただの鎖なこいつとか、ドゥリンダナで斬れちまうんだわ。友達に悪いことしたね~」
セイバーがこれもマスターのご命令なんで。と心底煽りを塗りたくったような表情でギルガメッシュを一瞥する。
性格わっる!!と内心思ったが俺がそんなことを言えた立場ではない。
「おのれ・・・・・・おのれおのれおのれおのれおのれぇ──────────っ!!」
ずるり、と奴が中に引きずり込まれる。そしてあの大きな黒点は閉じた。
「・・・・・・あれは」
「こうなる前にテメェに報せときたかったんだが、最悪のニュースだ」
不破がポケットから取り出して見せたのは小さなショットグラスサイズの器。黄金でできているらしく月光で煌めいている。
「・・・・・・これって」
「うちの教会にある聖杯だ。本来ならここにギルガメッシュを含めたサーヴァント4騎が入っているはずなんだが・・・・・・”ない”」
どういうことだ。
負けたサーヴァントは聖杯に回収され、願いを叶える力=世界に穴を開ける力になるのではないのか?
不破が険しい表情をしているのを見るに、これは相当ヤバいことが起こっている・・・・・・俺は、ギルガメッシュを無理してでも助けるべきだったのか?
「つまりそういうことだよな、異端が」
いつの間にか、小さな匣を持った男が立っていた。
いつ見たって苛立つ謎に得意げな顔、そして天パ・・・・・・怪しいとは思っていたが、まさかここまでとは思わなんだ。
「お前が黒幕ってわけか、この味覚土砂崩れ道徳心0振り切って-273.15」
「絶対零度ってそんな冷たいわけあるかいや。俺はそんな極悪非道やないで?」
めちゃくちゃに殴りたい表情をして、唐川は持っていた匣を放り投げる。
瞬間、光が消えた。
なにもかもをかき消すような黒の天幕が、俺の家一帯を包み込む。暗視の魔術をもってしても見えない、つまり全く光のない世界。
「・・・・・・お前、何するつもりだ」
「神霊を呼ぶ。簡単なこっちゃ」
神霊。
そんなもの、聖杯戦争で呼べるわけがない。
ましてやたった4騎の魔力で・・・・・・!
「あともう1騎いてくれれば完璧やったんやがしゃーなし。ギルガメッシュの魂はひとりでサーヴァント3騎分とかいうC○レモンみたいなお徳用で助かったわ」
「俺が呼ばれた理由は・・・・・・それか」
暗闇の中、ふらふらとマンドリカルドが立ち上がる。
何も見えない、こんな状態では戦えるのかどうか・・・・・・
「神霊の召喚。こりゃ上司も俺を大急ぎでここに放り込んだわけっすよ」
呆れ果てたような口振りでマンドリカルドはそう言った。
抑止力の働くようなこととなれば、確かに壮大なことだ・・・・・・俺の中に存在するデュランダルの力とは比べものにならないほど強い、神の存在。
「・・・・・・タナトス」
空間に広がる闇が収束する。
それは人と似たような形を作り・・・・・・その背に翼を生やす。まるで少年のような体で、一振りの剣を携えていた。
その姿に怖いと認識させるものは一切ないというのに、おぞましい。
なぜだかわからないけど、絶望が俺の心を一気に汚染するような・・・・・・これも、一種の認識災害だろうか。
「いやあ困りましたねえあなたには。人を生かすことで救うはずの医者がこんなことするだなんて」
「なに、自然の摂理をちょっと後押しするだけじゃない」
ひょいと現れたのは八月朔日・・・・・・貴志の言っていた通り、胸にどす黒い何かがついている。
「八月朔日テメェ・・・・・・!!」
「まあ自分のバックアップとか作っといて当然よねーふはははははは!!」
高らかに笑う奴の顔を原型がなくなるまで殴りたくなったのはいうまでもない。