Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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やっと終わりが見えてきましたね
今更ながらなげえなこの話()


144話 十日目:終わりなき後悔の話

屋根にブルーシートだけかけて、俺は中に戻った。

幸い電気系は無事らしく、一階の部屋の電灯はつく。

 

「来栖さんは大丈夫だったか」

 

「ああ、最後はお前さんらに助けられたがなんとか守りきった」

 

オジサンには重労働でしたわ、と笑うセイバー。

ソファのうえでへなへなになっているあたり、相当な戦闘が行われたのだろう。家具への損害が抑えられているあたり防戦のプロというわけだが。

 

「・・・・・・そういや、篠塚と海の体は」

 

篠塚は消滅したのかもしれないが、海の体が消えることなんてあり得るのか。

 

「・・・・・・篠塚さんは、司馬田さんの遺体を抱えて出て行っちゃいました。家で静かに眠らせてあげたいって」

 

なんて勝手な奴だ。

俺にさようならくらい言わせてくれ、それじゃああいつに示しがつかない。

俺は少しだけ考え・・・・・・玄関へ足を向けた。

 

「行くんすか?」

 

「・・・・・・ああ」

 

このまま永い別れだなんて、そんなのは俺の心が許さない。

俺だけじゃない、本当の平尾克親だって許さんだろう。

靴を履く前に、一つの部屋へ立ち寄った。それはあの日以来中に入らなかった・・・・・・入れなかった部屋。

記憶処理の魔術が解けたことにより、もう頭が叩き割られるような痛みはない。

 

「・・・・・・子供部屋?」

 

「ここ、俺の部屋だったんだ」

 

正しくは、中学生までの俺の部屋。

綺麗ではあるが所々落書きやシールの貼ってある勉強机と備え付けのクローゼット以外撤去され、何もないけれど・・・・・・確かにここは俺のいた場所。

 

「あいつに、渡せなかったもんを渡しとこうと思って」

 

引き出しに入っていた小さな箱を取り出す。

ずっとそこにあったせいで、10年もこのままだったのに包装は綺麗なままだ。

 

「・・・・・・さっさと行くか。篠塚が消える前に」

 

「そうっすね、話さなきゃならんことが俺にもあるんで」

 

どんな話なのかはあえて触れないでおくが、マンドリカルドもあちらへ行くことを望んでいる。

幸い雨は霧雨のように変わっている。体が濡れはするが、さっきまでの大雨よりかは何千倍もマシだ。

傘を2つ持って、外に出る。

まだ心の中に残っていた迷いを振り切って、俺は一歩踏み出した。

マンドリカルドもそのすぐ後ろをついてきてくれる。

肌に触れる雨が冷たい。

・・・・・・それにしても、雨だと花粉症の言い訳がつかなくなるから嫌なんだ。

 

 

「・・・・・・篠塚、いるか?」

 

海の家に着いて、彼の名を読んだ。真名は知っているが、俺なんかに呼ばれたって嬉しくはないだろう。

しばらくして、静かに扉が開かれる・・・・・・篠塚の顔は見えないが、入っていいということらしく二人してあがらせてもらった。

 

「・・・・・・海は」

 

「寝室にいらっしゃいます」

 

その声には、悲しみ、悔しさ、喪失感、怒り・・・・・・たくさんの感情がこもっていた。

俺は何を言うでもなく、その部屋のドアを開ける。

寝息が聞こえてきそうなほど自然な状態で、海はそこにいた。

大声を出したら飛び起きて俺を殴ってきそうなほど、自然に。

 

「・・・・・・ごめん、な」

 

謝罪なんていらねえよとあいつから言われそうだが、言わなければ気が済まない。

海の気持ちをないがしろにして、ちゃんと向き合えなかった。

今考えればあのときの言葉は助けを求めていたのかもとか、そんな想像ばっかり浮かび上がる・・・・・・

 

「海。俺・・・・・・」

 

言ったら怒られるだろうか。

俺はお前が好きだったという言葉を。

 

「・・・・・・旦那」

 

マンドリカルドと出会うまで、海は一緒にいるのが楽しいと思える唯一の存在だった。

しょーもないことで馬鹿みたいに笑っていた日が恋しい。

もう二度と訪れないことなのに、失ってから初めて悲しいと思った。

俺は海のことが好きだったんだ。だけど・・・・・・偽物の平尾克親に言われたらあいつはどう思うのだろう。と考えて、この気持ちに気づいてからも言い出せなかった。

 

「マスターの願い、何だったか知ってますか」

 

「・・・・・・それ、は」

 

聞いたことがない。

何度もはぐらかされたり無言でしばかれたりしたせいで、情報は何もつかんでいない。

・・・・・・わざわざこの場で言うことなら、それはもう・・・・・・限定される。

 

「手紙を預かってるんです。マスターが亡くなってしまったあと、あなたに渡すように」

 

篠塚が差し出した一つの封筒。中にはけっこうな量入っているらしく、厚みがよく見えた。

 

「遺言ではないのでご安心を。全てお読みになった後は、どのようにしてもらっても構いません」

 

つまりこれは、俺に対するただただ普通の手紙。

封を解いて、俺は中にあるものへと目を通す。

 

「・・・・・・っ」

 

こんなのに耐えきれる訳もなく、俺はその場でくずおれた。

 

「俺の、馬鹿・・・・・・馬鹿だ、どうしようもない馬鹿だ、俺は」

 

何もしてやれなかった。ただこの戦いでは頼ってばかりで・・・・・・あいつの本当の声なんて全然聞こうとしなかった自分が憎い。

あいつはずっと、俺のことも好きでいてくれたのだ。それが本当の俺にとってどういう意味になるのかを知っていて、ただひたすらに隠していた・・・・・・

気づけていれば、海はもっと幸せになれたのだろうか。そんな可能性の話なんて実証しようがないけれど、ただ知りたかった。

 

『私はただ、克親が幸せでいてくれたのなら・・・・・・それでいいと思ってた』

 

『あなたの幸せに、私は必要ないと分かっていたから』

 

『こんな(インクが滲んでいて読めない)と一緒にいてくれてありがとう』

 

『(インクが滲んでいて読めない)』

 

『(インクが滲んでいて読めない)』

 

ああ、ああ。

もうだめだ。

涙で前が何も見えない。

喉は嗚咽しか漏らせない。

マンドリカルドが何も言わずに背中をさすってくれたので、少しだけましにはなったが。

 

「・・・・・・っ、そうだ・・・・・・これっ」

 

ポケットからあのプレゼントを取り出し、箱を開けた。

 

「・・・・・・時計っすか?」

 

その中にあったのは、小さな女性用の腕時計。

針は止まったまま、10時を指し示していた。

 

「そうか、やっぱり・・・・・・そうだったんだな」

 

男性から女性へ時計を送るときは『同じ時を過ごしたい』という、ほとんどプロポーズと言っていいような意味が与えられる。

今の俺が成り代わる前の平尾克親は、やっぱり海のことが好きだったんだろう。

こんなことにならなければ、手術が普通に終わっていれば・・・・・・二人は幸せでいられたはずなのに。

 

「・・・・・・ごめんな、ほんと・・・・・・ごめん」

 

その時計を、海のそばに置く。

会社に連絡をしなければならないが、こんな時間じゃ誰もいないに決まってる。ただでさえあそこは残業大嫌い体制だし。

 

「じゃあ、俺らは一旦家に帰るよ。篠塚は?」

 

「・・・・・・もう少しだけ、ここにいます。あなたたちの戦いに、水を差しはしませんよ」

 

彼は柔らかい笑みを浮かべ、俺たちを見送ってくれた。

雨足は強くなっていて、傘にぱらぱらと雨粒が当たる。

 

「セラヴィ、ちょっとだけいいか」

 

「いいっすよ、克親の好きなだけ」

 

俺たち以外誰もいない道路の真ん中で、傘を下ろして俺は泣いた。

子供がだだをこねるような声を出して、目が痛くなるのも無視して泣き続ける。

味覚がおかしくなりそうなほどに塩辛いはずの涙は、口に入る雨のせいかあまり味がしなかった。

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