Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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度を超えて悲しいと情緒不安定の極みみたいなことなりますよねあれ


145話 十日目:あの時から答えは同じ

ひとしきり泣いた後、俺は傘を持ち上げることもなく歩き出す。

後少しで粉々になってしまいそうな心のままで、ふらりふらりと前に進む。

こんな時間だ、車なんて滅多なことじゃ通らない。だから大丈夫。

 

「克親、もう今更かもっすけど風邪引いちまうっすよ」

 

「・・・・・・そう、だよな」

 

差し出された傘を受け取った。

びしょ濡れになった俺を、彼は後ろから抱きしめてくれる。あたたかい、生きている・・・・・・一度死んだ存在でも、今この世界に彼は生きている。

海が死に物狂いで守ってくれたのだ。絶対に、最後まで一緒にいなければ。

 

「篠塚に話さなきゃならないこと、あったんだろ」

 

どうして話さず俺について出てきてしまったのだろう。わざわざ彼が言うくらいなのだから、重要な話だと思っていたが。

俺の胸の前で手を組み、マンドリカルドはもういいんすよと小さく呟いた。

 

「あいつの顔見たら、聞くまでもなかったかなって。選択を変えさせるような権力なんて俺にはないし、あのままにしておいた方が本人のためだと思ったまでっす」

 

本人がいいってんなら、俺は文句言えないな・・・・・・と、それ以上は何も話さなかった。

雨の音と風の音だけが響く世界に、少しだけ濡れた服の擦れる音が混ざる。

ぶり返す心の痛み。収まったと思った衝動がまた暴れ出し、涙をぼろぼろとこぼすのだ。もう目が痛いのに止まってくれない。こんなに苦しいのなら忘れた方がマシだったかもしれないと、思ってもいないことを言い出しそうになる。

 

「気が済むまでいっぱい泣いてくれっす、好きなだけ甘えていいんすよ。俺はいつまでも・・・・・・待ち続けるし、応えるから」

 

その声に、憐憫の色などはない。

 

「・・・・・・こんな意気地なしで、ごめんな」

 

「何言ってるんすか。克親は立派っすよ・・・・・・俺なんかより、ずっと・・・・・・ずっと。すんません、俺・・・・・・下手なことしか言えなくて」

 

その言葉に、大人気なくかちんときた俺は住宅街のど真ん中にもかかわらずつい叫んでしまった。

 

「俺がお前より立派とか、んな訳ねえだろ馬鹿」

 

半泣きのまま俺は体をくるりとひねり、マンドリカルドの両頬を持ちうる力全て使って摘まんだ後に引っ張ってやった。

痛いっすよとも聞き取れる不明瞭な音を発して、彼はされるがまま。まるでそうされることを望んでいたかのように、目元は笑っている。

 

「ったく・・・・・・いつまで経っても自虐癖は治らねえな、お前は」

 

抑止の守護者として世界を守り続けているのだ。この世界の誰よりも立派で、かっこいいに決まっているだろう。

人類の為だと自分に言い聞かせて、したくもない殺戮をしたり、愛した人を失ってきたのだろう。それも、数え切れない回数。

滅亡の理由を消したとしても、自分自身が無事だとは限らない。

時には反吐がでるような死に方だってしただろうに、それでもなお戦い続けるんだろう。

擦り切れた心を、かつての自分でどうにか補修して。

たった一度の失敗が、全ての終わりになる恐怖を知っていてもなお・・・・・・そこに立っていなければならないんだろう。

 

それはきっと、終わりなき英雄譚に違いない。

 

「絶対に凡人とは比べものにならない英雄なんだよ、それにお前は、俺にとっての・・・・・・救世主だ。だから・・・・・・さ」

 

少しでいいから笑っていてくれないかと、俺はひどい要求をした。

救ってくれた人が悲しそうな顔をしていると、自分が嫌になってしまいそうだから。

自分でも情緒不安定になっているとわかっていながらも、わがままが言いたくてしょうがない。

 

「・・・・・・わかったっす」

 

白く綺麗な歯を見せて、にこやかに彼は笑う。

あからさまに無理している顔だ。でも、文句が言えるわけもない。

 

「・・・・・・ありがとな」

 

「それはどういたしまして、っす」

 

今日はもう温かくして寝ようと提案されたので、俺はそれを呑みさっさと帰ってそうすることにした。

明日からまた、忙しくなってしまうだろうから。

 

「へぶしっ」

 

もう風邪引いちまったかもしれねえ。

 

 

「・・・・・・ただいま」

 

とりあえず家に戻って真っ先に風呂場へ向かい、濡れた服を脱ぎ捨てた。

かなり体は冷えているからと、もう一度湯船に浸かり大きなため息をつく。

セイバーとの決戦、職場への復帰、海に関する話、家周りの補修、龍脈の整備・・・・・・やることが一気に増え、げんなりする。

感情を捨てでもしねえとやってられねえよと俺は虚空に向かって文句を付けた。無論そうしたところで家が勝手に治るわけでもない。

 

「なあ」

 

「なんすか?」

 

洗面台でなにやら顔を洗っていた彼を呼ぶ。

触れていたい。と思ったのだ。この手で掴んでいないとどこかに行ってしまいそうな気がして、怖くなる。

そんなことを言ったら、マンドリカルドは嫌な顔一つせずに来て俺の手を取ってくれた。

 

「・・・・・・わかるっすよ、俺も・・・・・・似たような感じになったっすから」

 

自分のせいで家族を死なせた時はそんな風になったっす。と乾いた笑い声を上げて、マンドリカルドは手を優しく撫でてくれた。

令呪はもう全て消え、その左手にあるのはうっすらとしたあとだけ。

 

「令呪は無くなったけど、ここでいきなりの裏切りとか・・・・・・」

 

「する訳ぬぇーっすよ。ここまで来ておいて」

 

そんなこと言うくらい辛いんすよね、と彼は優しく手の甲にキスをする。

 

「前にも言ったと思うっすけど、俺は克親の騎士・・・・・・そんでもって友達。どんなことがあったって、それは変わらない」

 

俺の人生で一番の愚問だった。

彼は、とっくの昔に最後まで添い遂げる決意をしていたというのに、俺はそんなことも忘れて・・・・・・やっぱ俺ってほんと馬鹿だ。

 

「やっぱ、克親の魔力が一番あったかいっすね。龍脈から汲み上げた魔力も澄んでいて綺麗な感じっすけど、どうにも冷たい感じがして・・・・・・」

 

俺の手を緩くさすりながら、彼は何かを堪能するように目を閉じ小さく息を漏らす。

 

「魔力足りてないってことか?」

 

「いや、そういうわけじゃないんすけど・・・・・・ただただ克親のが欲しいなーとか・・・・・・あーでも今日の戦いでめちゃくちゃ消費した上に回復もしてないっしょ、だから聞き流して───」

 

「・・・・・・やだ」

 

このあとどうしたかは言うまでもない。

え、あらぬ勘違いを生むから言え?

 

・・・・・・まあ、例の解析魔術みたいにダイレクトで注いでやっただけだ。

案の定大量摂取のお陰でのぼせられたが、わかっていたことなので問題ない。うん。

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