Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
最近とうらぶ始めました
加洲清光かわいい()
148話 十一日目:カバーストーリー作家
「もう二度と会えないって知ってるから、俺は普通でいられるんすよ。もし二度目があってしまえば・・・・・・耐えきれねえっす」
何かを否定するようにぶんぶんと頭を振って、彼はそう言った。
「何がどう耐えきれないってんだ」
突如として俺の目を執拗に攻撃していた光は遮られる。何を言うでもなく多い被さってきたマンドリカルドによって。
歯がかたかたと鳴っているのが見受けられるあたり、極度に緊張しているのがわかりやすい。
あんまり急いて舌を噛むんじゃねえぞと俺は少しだけマンドリカルドの頬を撫でてやる。めちゃくちゃに熱い。
「・・・・・・克親を、独占したくなる」
表情から察するに、これは彼の最後の秘密。
つらつらと口からこぼされる言葉の数々は、とてつもない欲望にまみれている。
「だめっすよね、どれだけ近づこうとしても・・・・・・俺は死んだ存在で、克親は今生きてる存在だから」
死者と生者が交わるのはいけないことだというのは、俺だって知っている。
だがそれがどうした。
・・・・・・俺たちにとっちゃ、そんな懸念は今更すぎるのだ。
「何言ってんだ、お前ってやつは」
「・・・・・・え?」
背中に手を回して、抵抗される前にぐっとこちら側へ引き寄せる。
マンドリカルドの体を支えていた両手はがくんとバランスを崩し、体は俺の上へ重なるように触れた。
「ずっと前から、俺はお前のものだ。生きてるとか死んでるとかそんなもんは関係ないだろ」
「でも」
「口答えしなーいの」
もう自分の存在そのものすら渡した。
この体と、ひとときだけとはいえ同化もした。
ここまで深く関わっておいて今更付き合いをマイナス方向に改めるだなんて、嫌に決まってるじゃないか。
「・・・・・・何をやってるんだ」
「デルニか?」
「逆にそれ以外の誰だと?」
白銀の髪と褐色の肌が目立つ、彼の姿がどこかから現れる。これはやはり抑止の守護者である彼の本来の姿・・・・・・
よくわからんが現代日本とは比べものにならないブラック企業に就職したら、こんな風になってしまうのか。ってそんなこたどうでもいいんだ。
デルニが叢に沈む俺たちの姿を上から覗き込むように見て、心底呆れたようなため息を漏らした。
「おかげさまでわたしという英霊は完成したようなもんだが、そんなにそいつを誘惑するのもどうかと思うぞ」
「誘惑って・・・・・・別に俺はそういうことがしたいっつうわけじゃねえよ」
「わたしの本質はわたしが一番理解している。昔っから甘えたなのは変わらん」
何か見えないものが背中から刺さったかのように、俺の上に乗っかっているマンドリカルドの体が跳ねた。
自分自身から出た言葉とはいえ、やはり図星を食らうとあんな感じになるのだろう。
「わがまま放題の面食いで倫理観のかけらもなくて道徳はそこらへんにポイ捨てしてきたような人間のまだマシだった頃を持ってきただけだからな」
そこまで言わなくてもマンドリカルドくんのHPはもう虫の息ですデルニさん。
自分に厳しいと言えば聞こえはいいだろうがさすがにこの言い様はひどいというかなんというか。
「・・・・・・その通りっす俺は我慢を知らないダメ人間っすよ」
元からハイライトの見えにくい目がさらに死んでいく。戻ってこいお願いだから。
とりあえず慰めようと背中をさすっていたら、おもむろにデルニは俺の隣へ腰を下ろす。どこを見ているのだろうか、視線は遥か向こうにあった。
「お前の目には何が映ってんだ?」
「・・・・・・何の変哲もない、ただの草原だ。青い、青い空ばっか広がってる」
どうやら俺の見ている世界と同じらしい。
地平線まで木もなにもないまっさらな草原。俺たち以外の生物は存在しない、静かなる世界。
「これはいつかと同じ景色・・・・・・あるべき姿に戻ったんだろうな」
ぽつりと彼は、確かに呟いた。
これが本当の世界だというのなら、もし俺の干渉でここまで戻ったのなら・・・・・・なんの根拠もなさげな話だが、嬉しい。
ふと彼が俺の顔を見やる。
「ありがとう」
もう一人のマンドリカルドは、そう言って静かに笑った。
「・・・・・・もう朝か」
深夜まで活動していたせいか、体はまだ重たい。
時計を見るとすでに9時・・・・・・そろそろ起きなければ生活リズムが崩壊しかねないので、なんとか布団という蟻地獄から抜け出し大きく伸びをした。
「ふぁぁああ・・・・・・くっそねみ」
顔を洗うためにまだふらつく足で洗面台の方へ歩いていき、冷水をかぶることで無理やり目を覚ました。
疲れたからって、一緒にいられる数少ない時間を無駄にはしたくない。
「昨日あんだけ長丁場だったってのによく9時起きができるな」
「それはお前にも言えることだろ」
サーヴァントに混じり平然と戦って、それなりの怪我はしていたが余裕で生きている不破の恐ろしさったらありゃしない。
切り傷まみれだったのにシャワーを浴びるとか痛くねえの?と聞いてみたところ、炭素の膜で傷口の洗浄に必要な分以上の水は触れないようにしているとのこと。便利すぎるだろ炭素魔術。
「アサシンとマスターの件は俺の方でなんとかカバーストーリー作って流布させるから安心しろ。長年のヘビスモぶりが祟って家帰った時に心不全かなんかで死んだっつう話になるだろうが・・・・・・異論はないか?」
「ねえよ。俺まで全身燻製にされるんじゃねえのってくらいのニコ中だったんだ、誰も疑いはしねえだろ」
俺が同じ立場であろうとなかろうと同じ話を思いついただろう。
・・・・・・まあ、今の俺じゃあそれを広める途中でなんか心が折れそうだから、不破に全部投げられるのはありがたい。
「テメェが納得するんならそれでいいな・・・・・・ったく、あの馬鹿舌はともかく八月朔日までくたばったのはめんどくせえな・・・・・・俺からしたら死んで良かったんだが何しろあれでも医学界の権威みたいなもんだろ」
あからさまなため息が浴室から聞こえてくる。まあそりゃそうだろう。