Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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雷がやべえ(ガクブル)


153話 Interlude:赦し

とてもあたたかい、夢みたいな時間だ。

俺のちっぽけな理想が、やっとここに実現したのだ。

 

「克親」

 

太陽はいつもと変わらないように空の向こうへと落ちていく。

今だけは地球の自転が時速60キロとかにならないかななんて、絶対に無理なことを願いそうになる。

・・・・・・離れたくなかった。

 

「なー次何乗るよ。もう日暮れてきちまったけどさ・・・・・・ってどうした」

 

「・・・・・・なんでも、ぬぇーっすよ」

 

その服の裾にのばしかけた手をバレないように引っ込めた。

あのまま掴んでしまったら、またどうしようもない独占欲に支配されそうだから。

空の色が変わっていく。

青い、青い空から・・・・・・赤い、赤い夕焼けへと入れ替わる。

 

「セラヴィのいた世界でも、夕焼けってこんな色だったか?」

 

「全然違っていて、今でいう全部白黒の空だった・・・・・・とか俺が言ったら、どう思うっすか?」

 

適当な冗談を行ってみたところ、彼は真剣な顔をして何かを考え出した。

 

「・・・・・・それはそれで面白いな。本質は全く同じなのに、見る人の目が変わると表現もそうなるってか」

 

へへへ、と楽しそうに笑う克親。

胸がぎゅうと締めつけられたような気がした。これが陽キャ女子の言う胸キュンとやらなのだろうか?

 

「まあ、実際は全くおんなじなんすけどね」

 

「しってた」

 

唐突に俺の手を握ってくれる克親。

ぐいっと引かれ、俺はただただついていくばかりだ。

 

「どこ行くんすか?」

 

「ほら、海を見るのも山を見るのもこれが一番いいだろ?」

 

マリンタワーの展望台から見る景色もいいけれど、と指さしたのは観覧車。

ゆったりと回るゴンドラ・・・・・・この時間帯はものすごくロマンチックなこと請け合いだろう。

 

「ほら、日が沈む前に」

 

「・・・・・・そっすね!」

 

あの頂上から真っ赤っかな夕焼けを見てみたいと思った。

ちょっと否定的だった足取りを、肯定的な足取りに変えて走り出す。

 

「すんませーん大人二人で!」

 

いきなり押し掛けてきた俺たちにも係員さんは全く動じず、淡々と手続きをして乗り場まで案内してくれた。

ゆっくりと動くゴンドラに乗り、少しずつ上昇が始まっていく。

誰がどう見ても、二人っきりの時間。良くも悪くも、何人たりとも邪魔することは許されない。

 

「・・・・・・静かだな」

 

「・・・・・・ほんとに、っすね」

 

次第に高くなっていくゴンドラ。

それに対比して、水平線の向こうへと隠れていく太陽。

いつもと変わらないはずなのに、なぜだかこの空はとてもとても綺麗に見えて・・・・・・窓に手をついてまで見とれてしまう。

 

「舞綱、好きか?」

 

「・・・・・・大好きっす」

 

それはよかった、と克親が同じ空を見て笑う。

この世界に呼ばれてから経過したのはたった11日だけど、知っている場所はとても少ないけれど、舞綱の街は大好きだ。

生前の記憶と重なり合うように、サーヴァントとして召喚されるようになってからの記録も重なり合うように。

俺はいつだって、この色をした空が大好きだったのだ。

生前あまり縁のなかった海も好きだ。

揺らめく水面と、反射する光・・・・・・いろんなものを思い出す。

誰かを守るために俺はあそこで沈んだり、誰かを救うために体の半分を奪われながらも戦った。

自分自身の記憶ではないためあまり実感はないけれど、どうしようもなく落ちこぼれな自分の誇りとも呼べるそれが、小さな心の支えにもなっていたのは事実。

 

「・・・・・・もう、頂上だな」

 

登りきった瞬間に、人を照らす星はその身を隠した。

ほの暗くなっていく空。

白かった月が、少しずつ黄金色へと変遷する。

 

「克親と一緒に、この景色を見れて・・・・・・俺は幸せっすよ」

 

「嬉しいこと言ってくれるなお前は」

 

ぐりぐりと頭を撫でられ、流れるように克親の方へと引き寄せられる。

がくんと露骨に地面が傾いたような感覚がして、一瞬冷や汗がこめかみを伝った。

 

「ちょっとこんな不安定なとこでバランス崩すようなことっ・・・・・・!」

 

「日本の技術的にこんくらい大丈夫大丈夫」

 

体中のいたるところに、その手が触れる。

まっすぐで、優しい指先。じんわりとそこから魔力が伝わってきて、奥底までしみてゆく。

愛される嬉しさを知ってしまった。かわいがられる心地よさに溺死してしまいそうだ。

 

「俺撫でて、楽しいっすか?」

 

「楽しい以外の答えがあると思ったか?」

 

好きだ。

こんな自分を愛してくれる、克親が大好きだ。

 

「なーに泣いてんだよ」

 

「・・・・・・だって、だって────」

 

言葉が出ない。

嗚咽が漏れるばっかりで、何も言えない。

もっと一緒にいたい、離れたくない、克親の最期までを見届けたい。

どうしようもなく強欲な俺に、溢れ出るものを止める術なんてなかったのだ。

 

『吐き出せ。イドから全部』

 

デルニの声が、理性のたがを外しかける。

アンタはスーパーエゴの現れだろうに、なんで推奨するようなことを言うんだと思って内心で言い返したが、もうデルニは引っ込んだようで返答がない。

 

「俺、ちゃんとさよならっつって別れたいのに・・・・・・それが嫌で、決めたはずなのに何度も何度も何度も迷って・・・・・・」

 

俺の中にある何かが決壊した。

 

「欲に、勝てねぇ」

 

ここまで満たされていてもなお、その先が欲しくなる。

幸せが欲しい。自分の罪を忘れさせてくれるような、幸せな時間が永遠に欲しい。

人類が滅亡するときまで終わらない戦いから逃げたくってしょうがない。

わがままを言いたい。

ただただ、静かに眠りたい。

 

「・・・・・・俺はやっぱ、ダメ人間っすね」

 

克親は、何も言わずに俺の顔へ触れる。

ぐい、と持ち上げられた顎。優しい彼の顔がすぐ目の前にある。

 

「・・・・・・克親?」

 

「もっと、好きなだけわがまま言っていいんだよ」

 

優しい彼は、全てを赦してくれる。

唇が、優しく触れた。

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