Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
彼の口から聞くたくさんのわがままは、どれもかわいいものだった。
静かに夜へと変わる空、街の灯りがいっせいにともる。
つらつらと綴られ続ける言葉が、小さな空間に響いた。
「もっと、一緒にいたい」
どれだけそれはいけないことだと自分に言い聞かせても、その願いは消えてくれなかったらしい。
正解のない問いには、何を言ったってどうしようもないだろう。
「俺にとっては、初めての友達だから」
召喚されるたびに同じ記憶を有した別人になるという彼にとって、その先でできた初めての友はいつだって自分自身の初めてになる。
そして彼は、サーヴァントの身。いつか座に還らなければならない。
・・・・・・そのたびに、友と永遠の別れを繰り返してきたのなら。
少しくらいここにいたいと思うときだってあるはずだ。
「・・・・・・もう、ひとりは嫌なんすよ」
デルニがいるけれど、彼も本来は自分自身。
どれだけ話そうと自問自答を繰り返しているようなものなので、他人を求めたいのは必定。
「もしも許されるのなら、俺もお前の一部になるのにな」
この体を捨てて、永遠にマンドリカルドの剣となって生き続けるのも・・・・・・俺にとっては苦ではない。
「それは・・・・・・それは、だめっすよ。克親まで、俺の贖いに付き合わなくったって」
「贖い、か」
生前の罪はもう償いきれたはずだろうに、彼はまだ戦うつもりか。
犯したたくさんの過ちを、奪ったたくさんの命を・・・・・・帳消しになりはしないだろうけど、その負債は返済しただろうに。
「それが無間の地獄だったとしても、俺は・・・・・・」
「血迷っちゃいけねえっす。そんなもんは俺だけ味わってればいいんすよ、俺だけが」
ひとりぼっちは嫌だけど、俺が永遠を生死の狭間で味わい続けるのも嫌らしい。
道理はわかっていても、この感情が理解したくないと叫んでいるようだ。それでも俺はそばにいてやりたい、という思いが心の中で燃え上がり全てを消してしまいそうだ。
「なら、どうすればいいんだ」
それ以外で、俺がマンドリカルドを幸せにできる方法はない。
彼が受肉を拒むのなら、何も。
「・・・・・・いつかまた、会いに来させてくれ。招待状は克親に任せるから」
その言葉が意味するのは何なのか、すぐにわかった。
「それなら、俺にもできるな」
それ彼がそれを望むのなら、俺はこの人生すべて”それ”に捧げてやろう。
例え結末がどんなものであろうと構わない、一期一会をねじ曲げてでも、俺はまた出会ってやろう。
・・・・・・彼が、全てを覚えていなかったとしても。
「約束する。俺は絶対に・・・・・・またお前を呼ぶよ」
「ああ・・・・・・頼んだ」
2度目があれば、彼は俺を独占してしまうだろうと言った。
それでもなお会いたいという気持ちは抑えられない。
ならば、その2度目が別れの時になればいい。俺は再度の邂逅で人生に幕を降ろす。マンドリカルドの剣で、首をはねられて。
「・・・・・・申し訳ねえっす、こんな・・・・・・願いがコロコロ変わる人間で」
「人ってそんなもんよ」
ずっとひとつの願いに向かって突っ走るタイプもいれば、どんなのが自分の願いなのかわからずに歩き続けるタイプもいる。そんなものは十人十色、千人千色だ。
「ほら、もう終わるぞ」
「写真撮ってくださいっすよ」
「そうだな」
なんだかんだで10枚くらいしか撮れていないけれど、大切な思い出の塊。
それに、また一枚データが増えた。
「なんだかんだで楽しかったな」
「めんどくさいことに巻き込まれはしたっすけどね」
マリンパークを出て、舞綱でも一番都会都会しているとこを散策する俺たち。
このあたりは高級な飲食店やら宝石屋やらが立ち並ぶエリアと漫画やアニメ関連の物品が盛んに流通している店のエリアが隣り合うというどこかよくわからない構造をしていて、遊び歩くのには持って来いな場所だ。
「いうてお前なんかこの期間に見てたアニメとか漫画あったか?ないならこっちの界隈行くけど」
あからさまに高そうな物ばっかり置いている店のディスプレイ・・・・・・その中にあった鞄のうちのひとつについている値札を見た途端彼の顔が凍り付いたのがわかった。
そりゃ何入れられるんだよと言わんばかりの大きさだったり、これ誰がかっこいいと思うんだというデザインだったりしているのにも関わらず百万台がゴロゴロなのだから。
俺にとっちゃああいったものをかき集めたがる奴の気が知れん。
美的感覚が庶民と同じなんてのは俺の評価にありがちなものだ。
数回鞄をせびってきたわかりやすく金目当ての奴にそれを言ったせいでフラれた覚えもある(正直どうでもいいが)。
「んー・・・・・・あれなら読んだっすよ。風都探偵」
それ俺が買ってた奴じゃねえか。
まあそれなら仮面ライダー系列っつうわけでいろいろ商品展開もあるはずだろう。DVDとかフィギュアとかベルトとか。
神秘を秘匿するべく仮面ライダーもどきをやろうとしていたことが懐かしい。結局あれは不破にボロッカスに壊されたこともあり修理中(永遠に)だ。よほどのことがない限り日の目を浴びることはないと思う。
「ぬーん・・・・・・前にあげたペンダントもあの時壊れちまったし、新しいのあげたいんだけどな」
「いやいや、もうすぐさよならだってのにそんなプレゼント畏れ多すぎてもらえねぇっすよ」
アンタのことだから高いやつ買おうと思ってるでしょ、と至極当然のことを言ってへへっと彼は笑った。
「たりめぇよ、また会うときにつけてくれりゃ俺はそれで満足して即時成仏する」
「俺が覚えてるとも限らねーっすよ。忘れたときどうなるんすかそれ」
「その場ではなにがあろうと死なない」
「さらっととんでもないこと言ってるっすね克親!?!?」
そりゃ言うに決まってんだろーと俺はマンドリカルドの手を握り、とある店に入る。
エーデルシュタイン・グランツという、俺には馴染みが浅くもあり深くもある店へ。
「・・・・・・平尾さま、いらっしゃいませ」
「社長が逝ったってのにやってんだな、ここは」
昼頃、俺の携帯にもそのニュースが入ってきた。
不破のカバーストーリー流布がうまく行ったようで、世間ではばっちり死因が(煙草の吸いすぎによる)急性心不全だとされていた。
誰かに送るようなことがあまりないため商品自体はそんなに買ってないが、ここの店長とはなんだかんだで長いつきあいだ。
「ええ。あの人は”俺がいつくたばるかわかんねえ、だが・・・・・・どっかで俺がくたばろうとも営業は続けろ”とよく言っておりましたので」
確かに、海の奴は自分がいなくても会社が回るようにといろいろなところに手を回していた。
残業全廃による社員のやる気向上、わかりやすく金を餌に能力を引き出す単純作戦。そして反対するものを説き伏せること(たまに調教がなされるが)により一体感を生む。などあの手この手で社内の平和を保っていたようだ。
破天荒ではあるがちゃんと筋は通す、いい経営者というわけである。
「新しい社長はどうなる感じだ?まあ決まりきってるようなもんだが」
「当然ながら勅使河原さんですよ。あの人はいつも社長に心から付き従っていたのですし」
それならあいつも安心して任せられるな、と言って俺はカウンター前の椅子へマンドリカルドと一緒に座った。
「さて、平尾さま。今日のご注文は?」
「俺の友達に、一番いいネックレスを。金ならいくらでもある」
「承りました。少しお待ちを」
そうして持ってこられたのは、インペリアルトパーズとダイヤモンドの複合といったデザインのペンダント。どちらもかなりの存在感を示しながらも、お互いを食い合うような様は感じられないよいデザインだ。
「・・・・・・やっぱプロはわかってんな」
「お気に召されたようなら何よりでございます」
値札を見て、わかりやすく足元を見られたと感じたが今日はそんなもんお構いなしだ、と俺は札束を突きつけた。
鞄に金をかける奴はわからんが、宝石に金をかけるやつはわかるというなんとも言えない嗜好だと自分でも思う。
「じゃあ現金で」
「あ、あの、え、えとマジっすか?値段にコンマが2つ以上あるんすけど・・・・・・マジなんすか?」
「マジだけど」
彼が青い顔をして絶句したのは言うまでもない。