Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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155話 十一日目:常連のいるいない

「カニになる気かお前」

 

とりあえず試着のためにそれをつけてやったのだが、マンドリカルドの表情はわかりやすく青ざめ今にも泡を吹いて後ろにぶっ倒れそうな感じだ。

王様の癖になんでこんくらいの高級品つけるのにビビってんだか。

 

「来世があるならサメになりたいっす」

 

こんなんじゃすぐ捕まってフカヒレにされそうな気がする。

・・・・・・まあメガロドンクラスならスペックで全部どうにかできそうだから大丈夫そうな感じだけど。

 

「ほらつけ終わったぞ」

 

「・・・・・・あ、はい」

 

恐る恐る、その指先がペンダントトップに触れる。

少しピンクっぽいインペリアルトパーズと、澄んだダイヤモンドの色。

落ち着いたらしく、その色を見て彼の口元は緩くほころんだように見えた。

 

「気に入った?」

 

「・・・・・・そりゃ、もう」

 

その瞼が静かに降りる。

何かを思い出しているのだろうか。

 

「もうすぐ故郷に帰るのに、こんなもんもらっていいのかとは思うけど・・・・・・これは、綺麗で好きっす」

 

「そうか、そんじゃもうつけたまま行くか」

 

金なら払ったし高いものを買うときにありがちな手続きもぱっと終わらせてしまった。

あとは飯食って帰ってブリリアドーロと少しだけ遊んで、寝て・・・・・・最後の戦いに臨む。

 

「では、ご武運を」

 

「・・・・・・ああ」

 

店長のやつ、知ってたのか。

なら、海の本当の死因も・・・・・・薄々察しはついていそうなものだが、言ったところで誰も幸せにはなれないと知っていたので俺は無言で礼だけして店を出た。

空はもう完全に真っ暗で、月が煌々と輝いている。

もうそろそろ帰らねばならない。

 

「じゃ、家帰る前に寄るとこ寄って帰るか」

 

「・・・・・・うっす」

 

戦争のせいで忙しくって全然行くことができなかった場所がある。

マンドリカルドのことを知っている人だし、篠塚のことも知っているのだから・・・・・・それなりに言うことはあるだろう。

 

 

「・・・・・・いらっしゃい」

 

「いつものやつ、二つで」

 

「いいのかい、一つはカフェラテじゃなくて」

 

コーヒーマシンを丁寧に拭きながら、そう店主は言った。

俺はいいんだとだけ告げて、カウンターの席へと座る。少しだけ遅れてマンドリカルドもその隣へと腰を下ろした。

 

「篠塚くん、実家の事情で帰っちまったってね」

 

「・・・・・・そうらしいな。あいつの飯うまかったってのに永住しねえとか残念だ」

 

豆の挽かれるがりがりとした音が、静かな店内に響く。

ここには男3人しかいない空間。やかましい音なんて何もない。

 

「そういう君は舞綱に永住するんだったね」

 

「・・・・・・まあな。これでも山名の地主みたいなもんだし勝手にどうこう動くわけにもいかんだろ。会社でもそこらへん察されてるのか転勤の話は全くと言っていいほど来ない」

 

出張自体なら時たまあるが、だいたい長くて一週間。

土地の管理だとか(表には出さないが龍脈の管理も)でいざこざを起こされて会社に来なくなられたら困る、という話なんだろう。

 

「そりゃ市民なら大概知ってる存在だろうからね。大金持ちなんだし」

 

こぽこぽと湯の落ちていく音。

コーヒーの芳香が鼻腔を突っついた。

 

「ま、そのせいでめんどくさい奴に絡まれることもあるんだよな。今日も盛大なカツアゲくらいかけたし」

 

遊園地の事件を思い出す。

あれで悪用するタイプの魔術使いグループが殲滅できたとは到底思っていないが、根絶など多分無理なので諦めるしかないのが辛いところだ。

俺は魔術使いの存在自体は許容できるのだが、悪用するというのだけはまあ許し難いとは思う。

何をもって悪とするかの線引きは俺基準にならざるを得ないが、少しくらいは街の平和に一役買わないと誰かさんからいらん噂を流されかねない。

 

「大丈夫だったのかい?」

 

「セラヴィが全員粉砕した」

 

サムズアップの形を取った右手の親指でマンドリカルドを指し示した。奴らが攻撃を加える前に殲滅してしまった、とまでは言わないが目にも止まらぬ速さで仕留めたということだけは伝えておこう。

 

「ほー、強いんだねセラヴィくんは。友達のためにまたその技術使えよ?」

 

「・・・・・・わかってるっすよ」

 

少しだけ暗い顔をして俯くマンドリカルド。もうこの身に宿した力は、後少しの間しか俺のために使えないと知っているからだろう。別れを意識してしまうのか、緩く唇を噛んでいる。

 

「・・・・・・そうは行かないみたいだね」

 

「まあ、そうだ。セラヴィも近いうちに帰っちまうからさ」

 

「・・・・・・そっか。あの子もいなくなっちゃったし、寂しくなるね」

 

八木澤が示す”あの子”が誰なのかは、言うまでもないだろう。

 

差し出された湯気のたつコーヒーカップ。淹れたてということを示すように、液面の縁へ小さな泡がついている。

さすがにこのまま飲んだら舌をやけどするのは自明の理なので、しばらくそれを眺めて薫りを楽しむのがいつもの俺だ。

 

「まあ安心しろ、俺は少なくともマスターがくたばるまでここに来ては入り浸ってやるさ」

 

「ははは、晩年くらいはゆっくりさせてくれよ」

 

「・・・・・・ゆっくりコーヒー淹れろ」

 

週に一回は飲まないと気分が落ち着かない状態にはなったが断じてカフェイン中毒ではないと信じたい。

高校や大学時代でもカフェインの量がえげつない所謂エナジードリンクの類が流行っていたが、俺はそれに手を出すほどの勇気は無く一度も飲まずに終わったのだ。

おかげで授業中よく寝る子状態になりいじられたのはいい思い出でもある。

 

「今でも老骨に鞭打ってんのにひでえや」

 

そう言って喫茶店のマスターひとりは、心なしか嬉しそうに笑った。

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