Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
さいきんとうらぶでレアいっぱいあたるんですがそのうんをきゃすとりあがちゃにまわしたかったです
「老骨つったってお前まだ年金もらうまで結構あるだろうに」
「はっはっは」
なに笑いで全部ごまかそうとしてるんだこいつは。
ほんの少しだけ冷めたアメリカーノを口に運び、一口分だけそれを含み嚥下する。
・・・・・・いつも通りの、コーヒーの味だ。
「なんだろうね。昔はめちゃくちゃに大きな年齢の差だったはずなのに、今じゃ全然だな」
「そりゃ、どっちも大人だもんな」
再び静寂に戻る店内。もうラストオーダーの時間は過ぎている。
じきに店を閉める時間になるというのに、八木澤は何も言わず俺たちへ憩いをくれた。
その身に溜まった疲れを見てか、小さなおにぎりまで作ってくれる。
「別ればっかは、疲れるもんな」
「・・・・・・ああ」
もう二度と取り戻せない、ということを知っているから悲しい。
枯れるほどに泣いた目から、また涙が滲みそうになる。
「克親、大丈夫っすか」
「大丈夫だ。ああ、もう大丈夫」
こんな無様もう晒せるか、と俺は唇をぎりりと強く噛んで涙をこらえた。もうこれは、最後の時まで取っておく。そう決めたのだ。
「セラヴィくんは優しいな」
「・・・・・・そうでも、ないっすよ」
そう言ってマンドリカルドは、自分のカップを静かに皿に置く。
「俺は、克親の友達を名乗ってよかったんすかね」
「お前が名乗らんでどうするよ。あの子と同じ、いやそれ以上に・・・・・・こいつの友達でいてくれてただろう?まあ俺はそのやりとり全然わかってないとか言われりゃそれまでなんだけど」
少し背を曲げる彼の頭に、八木澤の手が触れる。
泣いた子を慰めるように優しく撫でて、よしよしと諭すように。
「自分を誇っていいんだぞ、セラヴィくん。手のつけられない問題児に手綱つけられただけでも評価できるってのに、ここまで親密になれるなんて天才だと思う」
「誰が手のつけられない問題児だこら、これでも物事の区別はついてるつもりだっつの」
奴の発言に少しムッときたが、言われたマンドリカルドのほうは心なしか嬉しそうなのでこれ以上ちくちく言うのはやめておいた。
全部終わった後でそれなりにやり返そうと脳内のメモ帳に書き記し、飲みやすい温度になったそれを一気に飲み干した。
食べやすいサイズに作られているおにぎりを手にとってかじる。どうやら中身は鮭のようだが・・・・・・めんどくさかったのか焼いた奴をそのまま入れているせいで中身がちょくちょくこぼれる。俺の食いかたがぶきっちょ極まりないとか言われたらおしまいだけども。
「篠塚くんが買うだけ買ってきてくれて残ったまんまのご飯の材料、どうするか困ってるんだよね」
「食えってことか?」
「まあそういうこと。ちょっと値引きするから、ね?」
「・・・・・・普通に食って死なないもんなら、値引きしなくてもいい」
「それはありがたい」
八木澤が厨房に隠れ、黙々と料理を始めた。
まだ夕餉という夕餉を食べていないので、出してくれるというのであればありがたくいただこう。
「なあ、お前はもう・・・・・・決心ついたか?」
「・・・・・・正直、まだっす。帰りたくない」
空っぽになったカップの中身を見て、何かを思案する彼。
トルココーヒーではないのでどれだけひっくり返そうと占いにはならんことを知っているだろうし、彼の行動はわからない。
フライパンから発されるじゅうじゅうといった音と、香ばしい薫りがここまで飛んできた。これは肉のにおいだろうか。
「時間はあるかい」
「・・・・・・正直言ってないが、マスターの作る飯なら待つよ」
「そっかそっか」
そうやって彼は、楽しそうに料理をしている。曰わく篠塚に教えられたから自分でもメニューを増やせるようにがんばっているらしい。企業努力することはいいことなのだが今後変なオブジェクトの事件代台にされたら嫌だな、と思った。
「ほい、これ」
そうやって差し出されたのは・・・・・・エビグラタンとミートパイ。
あのとき食べたものと同じメニューだ。狙ってるんだろうか。
「熱いうちにお食べ、と言いたいところだけどまた舌でもやけどされちゃ困るか」
綺麗な銀色に輝くナイフやフォークなどを渡される。やけど防止のための氷たっぷりお冷やも。
本当に焼きたてでかなりの量の湯気がたっているから、これは相当に下への攻撃性が高そうだ。
「篠塚くんのやつくらいうまくはできないけど、そこらへんは許してくれよ」
「最初からアレくらいのクオリティ出せるわけもねえからわかってる」
俺はそう言ってスプーンをグラタンの中に突っ込んだ。
柔らかいマカロニと大ぶりのエビがホワイトソースとチーズに絡み、見ただけでよだれをこぼしかねないルックスである。
執拗に息で冷やし、口の中へとスプーンを入れる。
粘度の高いソースのため中はまだ少し熱かったが、やけどするほどではない。
「なんか、懐かし感じるっすね」
「まあ、ちょうど十日前くらいだったよな」
ぱりぱりとキツネ色に焼けたミートパイを切り裂いて、一口大になったものをフォークで刺し口に運ぶマンドリカルド。
目を閉じて、静かに咀嚼し味を感じている。
「・・・・・・うまい」
「そりゃあよかった」
今日の夕刊を片手にして、八木澤は笑う。
「ほんのちょっとしか会ってない俺が言うのもなんだが、向こうでも元気にな」
「・・・・・・善処するっす」
八木澤の考える”向こう”が普通の海外にあるどこかであることはまあ間違いない。
だが、マンドリカルドにとっての”向こう”は・・・・・・それよりずっと、遠くて近いところ。
それを言うわけにも行かないので、俺はただ黙々とグラタンを食らう。お冷やで舌先を冷やしつつ、ただただ静かに。
「ごちそうさまっした」
「ごっそさん。代金おいくら?」
「1730円」
八木澤がカルトンを差し出してくるので、俺は千円札二枚をそれに入れて席を立ち踵を返す。
セラヴィと彼の名を呼んで、その手をとり足を前に出そうとした。
「おつりはいらんのか?」
「お駄賃にでもしとけ」
「そこはせめてチップとかにしてくれないもんかなぁ。まあ言質はとったからあとで返せとか言うなよ」
「言うか」
自販機のジュース一本二本分程度のちょっとした損失だ。これぐらいでネチネチ言ってたらさすがに金持ちとしてまかり通る平尾家の名が廃る・・・・・・とまでは思わんがなんかダサいので、男に二言はねえよとだけ告げ外へ出た。
「じゃあまた明日?」
「来週かもな」
上についているベルの音を慣らしながらぱたん、とドアが閉まる。
ゆっくりと食器を片付ける八木澤の行動音が聞こえた・・・・・・もうそろそろ、今日は閉店だったから。
「もう道に誰もいないし、ブリリアドーロ呼んでみるか」
「え、いいんすか?確かに歩いてる人も車もいねえっすけど」
「見られたら記憶処理すればいい、顎でも殴って」
「そんな物理的な記憶処理とか俺がしたら人の首吹っ飛ぶと思うっすよ」
確かにサーヴァントの力を考えりゃ人間なんて柔らかいもの。
となるとやっぱり魔術的な干渉をしなければならないというのか・・・・・・めんどくさい。
「ま、そん時はそん時だ。俺が不破に怒られるだけだろ」
「・・・・・・は、はあ。じゃあ一回呼んでみるっすよ・・・・・・来てくれ、ブリリアドーロ」
色のついた霧が一瞬で凝縮し、美しい毛並みを持った栗毛の馬に変化する。
たてがみと尻尾は変わらずマンドリカルドよろしくメッシュ入りなところがかわいらしい。
「お、呼べた呼べた。じゃあまずこないだはありがとな」
ブリリアドーロの鼻先に手を差し出し、俺のにおいを感じてもらう。
次に首の付け根あたりを優しく撫でると、その目を細めて鼻先をこちらにすり寄せてきた。
「どうやら甘えたいみたいっすよ」
「さすが騎馬民族だな」
俺が静かに撫でるのを続けると、前足で地面を掘るかのように動かし始めた。
「乗ってほしい・・・・・・んじゃないっすか?」
「そっか。前の時は何も言わずに乗っちゃってごめんな」
気にしていない、といった表情でブリリアドーロはその場に佇む。
「馬って人が乗ったら軽車両だから、一応車道歩くぞ」
「了解っす」
「んじゃ、よろしくな。ブリリアドーロ」
そう俺が声をかけると、名馬はちらりとこちらを一瞥したあと乗りやすいように首を下げてくれた。
・・・・・・賢い。