Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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生活サイクルがゴミカスすぎてつらみ


159話 十一日目:例え全てが変わろうとも

噛まれた耳が少し心配だが、風呂に入って明日への力を貯めよう。

ぼーっとテレビを見ているマンドリカルドに声をかけたが眠いのか生返事ばっかりで、仕方なしに俺は彼を放って一度風呂場へと向かう。

 

「・・・・・・はあ」

 

栓を閉め風呂沸かしのボタンを押す。これで数分待ちゃすぐに入れる風呂の完成だ。

その間に何かできることなんてもんはあまりないので、寝室でだらける外ない。

 

「もうこんな時間か」

 

もうすぐ今日が終わる。

別れの日が、刻々と近づいてくる。

もうここにはいない、あいつの誕生日も。

 

「・・・・・・また俺は同じことを」

 

どれだけ決意を固めても、濁流にも等しい感情がそれを溶かそうとしてくるのだ。

一緒にいたい、手放したくない、取り戻したい。

わがままだとはわかっていても、なお・・・・・・大人になりきれない俺は、悩んでいる。

 

「情けないにもほどがある」

 

寝室で着替えを取り出しながら、俺は一人呟いた。

起こってしまったのなら仕方ないと受け入れなければならない。

今や未来を変えるのならまだしも、過去を変えるなんてことは許されないのだから。

 

「・・・・・・そう、そうだよな」

 

机の上に置かれたままの本を手に取った。

彼にとっての黒歴史が刻まれた、ハードカバーの大きな本。ぱらぱらとページをめくり、すぐに閉じる。

 

「あいつの後悔に比べたら、俺の後悔なんて」

 

1200年。

どうしようもなく長い時間を、彼は生きた。死人のまま、生きていた。

国を捨てた自分の愚行を、家族を失うきっかけとなった自分の愚行を、欲のために騎士道を捨てた自分の愚行を、彼は後悔していた。

けれど、その歴史を消すわけにはいかないと知っている。

忘れたい過去であろうとも、それは自分が守らねばいけないものだと知っている。

滅べば自分の汚点を覚えている奴など誰もいなくなるというのに、守るために、剣を振って・・・・・・敵を殺してきたのだろう。

それに比べれば、俺の後悔は・・・・・・罪は、あまりにも軽すぎるのだ。

 

「地獄で待ってるあいつのためにも、まっとうに生きなきゃな」

 

彼女は、自分の運命を受け入れていた。そんなシナリオなら仕方ないと、文句の一つも言わず。

その意志を俺の勝手でねじ曲げることなぞ到底許されない。それこそあいつにどつき回される。

地獄の底で、共に罪科を償おうではないか。俺がしていいのは、それぐらいだ。

本を元の場所に戻して、近くの椅子へと腰かける。

・・・・・・もう眠い。

 

「風呂、入らないと」

 

うちの給湯器は古いくせして性能はいい(魔術強化を俺がゴリッゴリにかけただけだが)ので、少し呆けているだけですぐに沸いてしまう。

案の定オルゴールのような音を鳴らして、機会音声がもう入れると伝えてくれる。

着替えを持って風呂場に行き、静かに服を脱ぐ。

所々傷は残るが、綺麗なままの体が洗面台の鏡に映る。

腕が吹き飛びそうなこともあった。腹に剣がきれいに貫通した時もあった。それでもこの体はちゃんと五体満足のままここに存在してくれている。

守ってくれた人たちへ、声にはしない感謝をした。

 

「・・・・・・あったけえ」

 

かけ湯をして、浴槽に沈む。

今日は43度の気分だったのでかなり熱いのだが、疲れた体にはいい衝撃だ。さすがにこれ以上高い温度の風呂に入ったら心臓に悪そうだからやめておくけど。

・・・・・・それにしても眠い。久しぶりにマリンパークへ行ったせいだろうか、俺にもかなり疲れがたまっていたのであろう。

浴槽の中で寝てはいけないという話は常識の範疇だが、睡魔には勝てん。ほんの、少しだけ・・・・・・

 

 

「・・・・・・あれ」

 

次に目を開くと、そこは何も存在しない空間だった。

真っ白な世界が延々と続いていて、果てがない。

俺はこれをどこかで見た気がする。

 

「本当の、俺?」

 

そこにいるんだろう。あの時殺されてしまった、本物の平尾克親よ。

俺が声を上げると、俺にそっくりな実体がゆっくりと出てきた。前まではまだ中学生くらいだったはずなのに、なぜこう変化したのだろう。

 

「どうしたんだ、俺の姿になぞなって」

 

「もう・・・・・・俺が俺でいられるのも、無理があるってだけのことだ」

 

なんとなく、察しはついた。

 

「・・・・・・消える、のか?」

 

「お前の中に溶けて消える。簡単に言えば統合だ」

 

彼が手を差し出すと、その手のひらの上に小さな光球が生まれた。

ふよふよと緩く上下運動をしていて、どこかかわいらしくも思えてくる。

 

「お前を恨むのはもう、やめにした。そもそも俺は、あの場所で死んだんだ・・・・・・どうせ味わえなかった時を、間接的ではあるが体感しているというのに・・・・・・今更それを欲しがるのはずるく思えてきたんだよ」

 

光の球が、俺の方へと向かってくる。

敵意は全く感じられないから、逃げもしないが・・・・・・これは、一体なんなのだろうか。

 

「俺はお前の一部になりたい。もう人格は保てないけれど、まだ生きていたいと願ったら駄目だろうか」

 

あんなことを言ったから、断ってくれても構わないと言われたが・・・・・・別に、断る理由もないだろう。

俺と、彼は・・・・・・確かにどちらも、”平尾克親”だ。そこに一切の差別はない。

 

「いいよ、満足できるまで生きられるかはわからないけど・・・・・・一緒にいよう」

 

俺がそう言うと、光の球が大きくなっていき拡散した。

 

「・・・・・・ありがとう」

 

彼の姿が消える。

忘れていたと思っていた記憶が、彼の秘密にされていたであろう記憶が甦ってくる。

その中には無論、初めて好きになった人のこともあった。

 

中学のころの彼女は、社長令嬢らしく淑やかな雰囲気が強く出た子であった。

行動力の高さは変わらず、俺が告白すべきか戸惑っていた時に正面突破を仕掛けてきたのだから。

俺は内心ラッキーとか思いつつ交際を初め、互いの誕生日には中学生離れしたプレゼントを贈りあった(俺はあの時計を渡す前に死んでいるのだけど)。

そんな彼女は、俺が死んで変わってしまったのだ。

手術の影響で記憶と人格に影響が出るとか言われたのだろう。自分のことを覚えていないのは嫌だとやさぐれた挙げ句おなじみのアレへ変化した。

一人称が”俺”になり、魔眼殺しの眼鏡もモノクルに変わり、たびたび授業を休むようになった。

そんな自由さが好きだった俺は、周囲が白い目を向けているのなんて気にせずあいつに絡むようになる。

・・・・・・あとはもう前に述べた通りだ。

 

「・・・・・・例え記憶がなかろうと、ほぼ中身が別人だろうと・・・・・・俺は、俺だったんだな」

 

そんなことを呟いて、意識を浮上させていく。

そろそろ起きなければのぼせて最悪の場合死にそうだったから。

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