Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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明日からテストあるんで更新できなかったらごメンチ( ・`ω・´)


160話 十一日目:しんじるひとがいて

髪と体を洗ったあと、今一度湯船に体を浸した。

この家の敷地が広いせいもあるが、隣の家の音なんてものは聞こえてこない。

俺の呼吸音と、蛇口の先から一滴ずつ垂れる水の音・・・・・・遠くはあるが、テレビの音は一応聞こえてくる。

この時間帯だとどこもニュース番組か見る奴を選びそうな内容のものが増えてくるはずだが、マンドリカルドは適当にザッピングでもして見ているのだろうか。

 

「・・・・・・もう、あがるか」

 

ざば、と俺の体にまとわりついていた湯が風呂場の床に弾き飛ばされる。

プールやお風呂のあとにありがちな重力の増加(錯覚)を感じながら、俺は少し立ち止まる。

 

「これが、俺」

 

10年付き合ってきたこの体。

八月朔日喪の体を作り替えてできたこの体。

魔術刻印は、今でも平然と体の中で煌めいている。

いくら本物の人格を少しではあるが継承しているとは言え、本物が受け継ぐはずだった魔術刻印を持っているとは言え、紛れもなく自分は贋物。

だけど、本物は存在を認めてくれた。

ここにいていいと、認めてくれた。

 

「・・・・・・俺は、俺だ」

 

もう今となっては、自分自身こそが本物の平尾克親だ。

誰に恨まれることもない。何を恐れることもない。俺はただ、自分のしたいことをして生きればいい。

昔の俺のためにも、八月朔日喪のためにも・・・・・・失われるはずだった二人の人生を、生きたい。

何も為せなくたっていい、無様な最期でもいい。その悔しさを味わえるだけ、幸せなのだから。

 

「湯冷めしちまう前に寝るか・・・・・・」

 

タオルで濡れた場所を拭きつつ脱衣所へと移動する。

全身の水滴を取ったあとで、下半身の服だけつけドライヤーで髪を乾かす。

熱い風が頬を叩き、髪の水分を飛ばしてくれる。

 

「・・・・・・ふう」

 

一通りやり終えたら、肩にタオルをかけて部屋を出た。

いつの間にかテレビの音はしなくなっていて、無音の空間に特有なつーんとする音が耳の中で響く。

もう先に寝てしまったのだろうか、リビングのドアを開けてもそこには誰もいなかった。

 

「・・・・・・まあ、眠たそうにしてたし仕方ないか」

 

踵を返し、寝室に向かう。

俺も眠くなってきたし、早くベッドに転がりたい。なんて思いながら、ドアを開けた。

 

「やっと来た」

 

彼はソファに座っていた。真ん前にあるのは例の木箱・・・・・・渡すために起きてたのだろうか。

 

「・・・・・・起きてたのか」

 

「そりゃこれ渡さずに寝れねーっすよ。克親、こっちへ」

 

言われるがままに、俺はマンドリカルドの隣へ座った。

黄色いリボン代わりの布が解かれ、ずっと気になっていた中身がご開帳される。

 

「・・・・・・これは」

 

まず取り出されたのは指輪サイズのリング。

とてつもなく細かな装飾が彫られていて、これだけでも伝統工芸品として十分値段のつきそうなものだ。

 

「俺が女だったら刺繍で何か作れたんすけどね。残念ながらそういったことは教わってねえもんで、こういうのになったっす」

 

彼曰わく中指につけてほしいとのことなので、言われた通りにはめてみる。

木で出来ているというのに一切棘のようなものは感じられず滑らかな触感だ。薄い作りになっているおかげで指の可動範囲も狭まっていない。

 

「・・・・・・綺麗だな」

 

「喜んでもらえたんなら、頑張って作った甲斐があるっすよ」

 

ほんのちょっぴり頬を赤くして、マンドリカルドは微笑んだ。

ああ、なんてかわいいのだろう俺の親友は。

 

「じゃあ、あとはこれっすね」

 

大きなものが箱の中から出された。

これは木の彫刻像だろうか・・・・・・体格的に男であることは間違い無さそうだが、モデルはどちらなのか。

 

「顔似せるのうまくいった気がしないんすけど・・・・・・ま、そこらへんはご愛嬌っつーことで」

 

それは、何かを抱き止めようと手を広げている俺のかたちをしていた。

台座は雫のような形に削られていて、どれだけつつこうが倒れる心配のない仕様。

本人は顔が似てないと言うが、俺からすりゃ十二分にうまく表現できている。

 

「・・・・・・器用だな」

 

「克親に比べたら全然っすよ」

 

この期に及んで謙遜するのか、というふんわりとした怒りを表明するために俺はマンドリカルドのこめかみを軽く拳の硬いところでぐりぐりしてやった。

なお人間の攻撃はサーヴァントに通用しないため、痛いともなんとも思われてなさそうだ。

 

「葬式の時棺には入れてもらえるように今から言っとかないとな」

 

「墓場まで持ってくってそういう」

 

「それは誰にも言えない秘密のことだろうが」

 

ぺし、と突っ込みを入れる。

ニホンゴムズカシイネ、なんてわざとらしく片言っぽく言うもんだから追加で突っ込んでやった。このまま関西に入り浸らせれば芸人として大成しそうな気がする。知らんけど。

 

 

もらった俺の像をベッドサイドテーブルに置いて、布団に潜り込む。

もうこうやって寝られるのも最後。だから後悔しないように、言葉を交わしたい。

 

「・・・・・・克親」

 

鈍色に輝くマンドリカルドの双眸が、俺を見つめていた。

 

「どうした?」

 

「俺は・・・・・・ちゃんと、生きられた?」

 

明日を含めてたった12日。

そんな短い時だったけれど、彼は誰よりもうまく、誰よりもちゃんと生きられただろう。

生前の後悔を背負って、人類の未来を背負って、それでもなお潰れずに進み続けてきたのだから・・・・・・

 

「心配せずとも、だ」

 

敢えて言葉の先は声に出さない。どうせ何を言うかなんて、彼はわかっているはずだ。

 

「・・・・・・そう、っすか」

 

胸の前で彷徨っていた手が、俺の手を握る。

彼の体温がしっかりと伝わってきて、なんだかとても心地よい。

 

「俺がこの世に呼ばれた意味があったってことだ」

 

目を閉じて、彼は噛みしめるように呟いた。

俺の中にあった剣はその手に渡され、自分こそがその正当な聖剣の使い手として名乗りを上げる。

それが、世界に認められたのだ。

 

 

「明日、勝てるって信じてるから」

 

「俺は神でもなんでもないっすけど・・・・・・信じられたのなら、応えなきゃな」

 

英霊は、誰かに信じられることにより力を増す。

知名度補正という名前を付けられ、聖杯戦争を知る魔術師の間では常識とも言える事柄だ。

その土地でその英雄を知る人が多ければ多いほど強くなる。日本であれば、歴史の教科書に必ず乗っている聖徳太子だの小野妹子だの源氏や平氏や名のある戦国大名やらがたくさんいるはずだ。

・・・・・・現実史にモデルがいたかどうかもわからないとある物語のいち悪役でしかなかった彼には、そんな補正がまったくのらない。世界中のどこに言ったら補正を受けられるんだってくらいの知名度ということを彼も自覚している。

だがそれがどうした。

信じる奴はここにいる。

たった一人であろうと、俺がマンドリカルドという存在を信じる。

 

「俺はいつまでも、味方だから」

 

その言葉を聞いて満足したのだろうか。

彼は静かに、眠りへと落ちていく。

 

「・・・・・・おやすみ、マンドリカルド」

 

幸せそうな顔を網膜に焼き付けて、俺も目を閉じた。

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