Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
161話 十二日目:約束を結んで
泥沼に沈むかのように、深い眠りだった。
夢は見ていたのかもしれないが記憶にはない。
気づけば外は朝で、よくわからない小鳥がどこかでさえずっていた。
「・・・・・・時間が止まればいいのに」
一秒、一秒・・・・・・少しずつ、その時は近づいてくる。
彼に触れられなくなる。話せなくなる。会えなくなる。
いまだにうじうじが収まってないので一度心を切り替えるため俺は洗面台まで行き冷水を被った。
ここまで来りゃあもう腹を括るしかない。
「・・・・・・さてと」
朝ご飯を作らねばならない。
篠塚の残していった大量の作り置きがあるからそれを温めて、パンを焼いて・・・・・・きんぴらごぼうと食パンとかいうなんとも合わなさそうな組み合わせになっているが仕方ない。食べなければ腐ってしまう。
「よっと」
焼きたてで指先をやけどしそうなパンを皿に2枚づつ乗っけて、食卓の上に置く。
冷めても美味しいのだが、やはりここは熱いうちに食べてしまいたい。
早くマンドリカルドを呼びに行かねば・・・・・・と、俺は今一度寝室へと足を運んだ。
「・・・・・・朝飯だぞーって・・・・・・あれ?」
俺が起きたときには普通に寝ていたはずだが、いつの間にかいなくなっている。
霊体化しているわけでもなく、ただ外に出ているだけだが・・・・・・こんな朝っぱらから何の用があったのだろう。
「マンドリカルド?」
「お、克親」
庭先で鎧を身につけ、素振りを行っていたマンドリカルド。
その手には、あのときと同じ聖剣がある。
「準備運動か?」
「そうっすね。憧れのヘクトール様と戦うんすもん、状態上げてないと失礼っすから」
それもそうだ。
かつて人生を賭けて追い求めた英雄と直に決闘出来るのだ、彼にとっては何よりも嬉しいことだろう。
「朝飯食ったら俺も付き合うぞ」
「・・・・・・どういう風にっすか」
「そりゃ・・・・・・なんだ、その・・・・・・そう言われるとどうすりゃいいかわかんねえな」
魔力を使った行為は一応平等を期するために控えろと不破に言われたし、だからといって単純な武力行使での手合わせなど俺が頭から真っ二つにされておしまいだ。
となりゃ俺がマンドリカルドのためにできることなんて声かけとかその程度にしかならないじゃないか。
「・・・・・・ま、とりあえず飯食うっすよ」
「そうだな、話はそれからだ」
不破とルーラーは8時に来るそうだが、決闘はいつになるのかわからない。
おそらく一時間もせずに始まるだろうから、その前にやるべきことはやらないと・・・・・・
マンドリカルドを連れて家の中に戻り、二人して手を洗い食卓へつく。
「・・・・・・最後の晩餐ならぬ、朝餐か」
示し合わせたわけでもないのに、俺たちのいただきますは揃った。
来栖さんとの関わりもあるが、別れてしばらくは静かなる日々が続くだろう。
今のうちに、声帯を使っておかなければ。
「なあ」
「・・・・・・なんすか?」
トーストの上に乗せた目玉焼きから黄身を盛大にこぼしつつ、マンドリカルドは返事をした。
大事な服なんだからさっさと拭きな、とか言いながら俺はティッシュの箱を持ってきて彼へ突きつける。
「約束、忘れるなよ」
「・・・・・・忘れないっす」
唐突に小指だけを立てた握り拳を突き出してやる。
彼はどういうことか十数秒ほど俺の意図を掴もうと目をしばたたかせていたが、ついには意味がわからなかったのかとりあえずとばかりに俺の真似をして手を差し出してきた。
彼の小指を自分の小指で引っ掛け、例の歌を歌う。
「ゆーびきーりげーんまーんうっそつーいたらはーりせんぼーんのーますっ、ゆびきった!」
これできっちりと約束は取り付けた。守らなかったとき本気で罰を執行しに向かってやる覚悟も暗に示している。
「・・・・・・なんすかその歌」
「日本伝統約束の歌。破ったら拳骨で一万回しばいて針を千本水なしで飲ましてやるからな」
「普通に拷問じゃないっすか」
「されるのが嫌だったら守れよー」
ぐぬぬ、とマンドリカルドは唸りつつも首を縦に振った。
双方の同意がなければ約束は無効みたいなものだが、まあそこは言わんでおこう。
「じゃ、そろそろ腹ごなしするか」
最後の朝餐を終えて、俺たちは庭へ出た。
荒れ放題ではあるけども、不破の尽力によって一応庭の体裁は保っている。
再びマンドリカルドは九偉人の鎧を身に纏い、その手にすべてを貫く聖剣を持った。
・・・・・・それはそれは凛々しい、王の姿そのものである。
「・・・・・・かっこいいよ」
「そっすか?」
わかりやすく鼻の下を擦り照れる彼の顔がかわいらしい。永い時を生きていても、そのあり方は若々しいものだ。
「そうに決まってるだろ・・・・・・王様」
ここに王冠があればいいのにな、とか言ってマンドリカルドの頭を撫でてやった。
それならこれでどうっすか、と彼が言うので少しだけ手を離してやったら一瞬でその頭にぽん、と小さな王冠が現れる。
・・・・・・あのとき俺が渡したのと全く同じデザインだ。
「正直、即位したときこんなのあったっけって感じもするんすけど」
「かっこいいなら全部許されるわ」
なにやら見えない力が働いているらしく、王冠は斜めについているってのに落ちないどころか全く動かない。
「・・・・・・頭から生えてんのかこれ」
突っついてみても全く動じないそれの不思議に首を傾げるけども、よく考えれば自分は巷では超常現象と呼ばれるものをぽんぽんと引き起こしてるのだから今更でもある。
「お前らもう起きてたか」
某栄養補給のビスケットもどきみたいなやつをもっさもっさと何も飲まずに貪りながら不破が塀の外よりこちらに声をかけてきた。
「喉渇かねえのかそれ」
「正直パッサパサ」
だろうな、と俺は返しながら門扉を開く。
「ルーラーと来栖さんたちは?」
「もうそろそろ来るだろ。集まり次第、別れの挨拶だの辞世の句だの済ませてから殺りあえ」
もう死んでる身に辞世の句、というのもよくわからん話ではあるが、最後にそんな時間を取ってくれるのはありがたい。
気の迷いを全て振り払えるように、俺は声をかけてやらねば。