Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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boxイベやっぱ大変ですね!!終わりが見えないしきっついね!!
とりあえず200を最低目標にがんばるぞい!!(テストはどうした)


162話 十二日目:ライダーと、セイバー

「おはようございます」

 

「ルーラーも来たか、てことはセイバーのとこもだな」

 

ちょうどルーラーが敷地内に入ってきたところで、道の向こう側から二人分の人影が見えてくる。

今日全てを懸けた決闘があるというのに、セイバーはわかりやすく呑気なふりをしていた。

 

「・・・・・・皆さん、来ましたね」

 

「じじいは早起きって言うが俺は朝あんま起きれないタイプなんだよなー」

 

大あくびをかましつつ、朝っぱらから煙草をふかしているセイバー。

いかにも弱体化してますよーという感じを醸し出しているがこれはただのアピールだろう・・・・・・ヘクトールともあろう英雄がそんな理由で負ける訳なぞあるはずもない。

 

「朝でもいいって言ったのはどの口だセイバー、忘れたとは言わせねえぞ」

 

「へいへい、わかってますよーい」

 

いつの間にか手に持っていた自分のデュランダル(以下ドゥリンダナ)を軽く振り回し、首を回して一度だけ凝りきった肩を鳴らした。

やはりかの大英雄ともなればオーラというものは凄まじく、無意識のうちに後ずさりしてしまいかねないほどだ。

 

「お、いいなその王冠。かっこいいじゃないか」

 

「・・・・・・あざっす」

 

いざ相手が自分の憧れだと意識するとやはり緊張するのか、マンドリカルドの喉から出た声は滅茶苦茶小さい。

しっかりしろよと肩を軽く叩いてやったが・・・・・・どうやら服の下は脂汗でべっとべとらしく服が湿っていた。

 

「緊張しすぎだって」

 

「いやでもやっぱ目の前にいるのがあのヘクトール様だって思うと俺おかしくなるっす、心臓が破裂しそうっす!!」

 

「推しが自分の国に来てくれた時のオタクかお前は!!」

 

顔面は蒼白と紅潮が組み合わさった訳の分からない色になっていて、今にも泡を噴いて倒れてしまいそうだ。

さすがにそんなので不戦敗(この場合は相手のオーラにやられたため微妙なラインではあるが)を喫するなどマンドリカルドは良くても俺が良くない。

 

「いくら憧れの人だろうと怖じ気づくな、最期まで無様であろうがかっこよく生きろ」

 

主命だぞ、と付け加え俺にできる限りの力を込めて両肩をしばいた。

令呪はもうないためこの言葉にはなんの強制力もないが・・・・・・そんなものはなくても彼は聞いてくれる。

デュランダルをぐっと強く握り、まぶたを閉じた彼は唇を噛んだ。

 

「・・・・・・いけるか」

 

「・・・・・・ああ」

 

一歩を踏み出す。

もう戻らないという決意を込めた、その一歩。

ヒールが地面を抉る。

地面に向いていた顔が、前を向いた。

 

「いい顔してんじゃねえか」

 

もうすぐなくなる寸前の煙草を携帯灰皿に押し付け火をもみ消すヘクトール。

その灰皿を来栖さんに投げ渡して、マンドリカルドと対峙する。

 

「・・・・・・その胸、借りるぞ」

 

迷いを全て振り切ったか、かの王は凛々しくそう告げた。

春の風が吹く。

ヘクトールのマントと、マンドリカルドの腰布が激しく揺れた。

 

「愚問だろうが、お前さんは・・・・・・何の為に戦う?祖国のためかい?」

 

「国を捨てたまま死んだ俺がそんなことをする資格はどこにもない。俺はただ、マスターのために戦うだけだ」

 

そう彼は、きっぱりと言い放つ。

セイバーはその答えを聞いて、満足したように一度だけ頷いた。

 

 

「・・・・・・セイバーのマスターは魔術が使えないが令呪2画が残っていて、ライダーのマスターは優秀な魔術師だが令呪は0画。公平性のため、ライダーのマスターは魔術を使用していいが許可されるのは10回までだ。令呪および魔術での援護以外に干渉は禁止、サーヴァントが相手のマスターを攻撃するのも今回は禁止とする」

 

令呪の持つ絶大な力は一発で戦局を逆転させるほどの力を持つ。例え保持者に魔力の才が一切無かったとしても。

それが2つも残っているとなれば相当なハンデになるので、俺の方にも術の行使を許してくれたのだろう。

二人が実体化できるだけの魔力を保つことを条件に、何であろうが使っていいそうだ。

 

「さて、辞世の句を詠むのも今のうちだ。マスターとのやりとりも最後になるかもしれないのはわかってるだろうな」

 

「そりゃそうでしょうよってね。んじゃちょっくら行きますか、マスターよ」

 

「ちょっと軽くないですかセイバーさん!?」

 

後頭部を無造作に掻きながら、ヘクトールは気分良さそうにけたけたと笑う。

 

「オジサンにはこんくらいのあり方が合ってるってやつさ。そんじゃま、どっちにせよこれでさようならだな」

 

来栖さんをルーラーの作る安全地帯に向かわせて、輝く兜をその頭に装着する。

・・・・・・これが本気というわけだ。

 

「・・・・・・マスター、俺は」

 

「マスター、じゃないだろ?」

 

震えを隠すように握られていた彼の左手に触れる。

 

「・・・・・・克親」

 

揺らぎかけたものを抑えこんで、彼は俺の顔を見つめる。

鈍色の眼には俺の像が結ばれていて、涙ぐんだせいかそれは少し歪みを持っていた。

 

「大丈夫」

 

たくさんの思いを込めて、それだけを告げた。

なにもかもを喋っていたら到底終わらないだろうから。

 

「・・・・・・克親が、そう言ってくれるなら」

 

彼の手にあった震えは収まった。

これなら、俺がそばにいなくたって大丈夫だろう。

 

「・・・・・・また、あとでな?」

 

「ああ」

 

その言葉を最後に、俺は安全地帯へ足を進めた。

やはりルーラーの力は凄まじく、濃密な魔力をもってですべての攻撃を無効化できるバリアを張っているらしい。

これならば例え星を穿つような一撃を食らわされようとも、死ぬことはないだろう。

 

「・・・・・・ルーラー、何も言わないつもりか?」

 

「ええ。そもそもこのクラスというのは戦いを公平に進め終わらせる役。公正に、平和に終わらせることができるのなら、何も言いませんよ」

 

赤い外套を指先で軽く弄りながら彼はそう告げた。

やはり裁定者のクラスで呼ばれる正真正銘の聖人である。

 

「じゃ、双方やり残したことはないな?」

 

ない、と二騎のサーヴァントが同時に声を上げた。

 

「では3数えた瞬間より決闘の開始だ。フライングは即刻敗北になるから気をつけろ」

 

不破がその手を天へと掲げた。

死者のための典礼に用いる紫のストラが春の風にはためいている。

 

「・・・・・・3、2・・・・・・」

 

彼らが同時に体の重心を下げ、最初の一撃を狙う体勢に移行する。

 

「1」

 

手汗がいつの間にかじっとりと滲んでいる。

俺が緊張してちゃだめだろうがと、首を激しく振って邪念を吹き飛ばした。

最後の戦いを、マンドリカルドの勇姿を・・・・・・ちゃんと俺が見てやらねば。

 

「はじめっ!!」

 

瞬間、地を蹴る音が響いた。

まずヘクトールはマンドリカルドの太ももを狙い、マンドリカルドはヘクトールの腕を狙う。

同然剣はぶつかり合い、甲高い音を立て反発する。

 

「はぁあああっ!!」

 

「ははっいい力だが・・・・・・マン振りじゃどうにもならねえぞってな!」

 

互いに一撃目が当たらないことは目に見えていたのだろう、また別の場所を狙って剣を繰り出すもまたそれが衝突する。

二人の素早さはランクで表せば同じだが、現状だとヘクトールの方が上を行くと見受けられた。

つまりこのまま放っておけば手数の多さで押し込まれる可能性が高い・・・・・・使える魔術の残弾は10発、まず最初に使うのはやはりこれであったか。

 

「Raccourcis ta vie, traverse mon amour!」

 

対人用でも最上級の加速魔術・・・・・・使う魔力の量がかなり多いために時間を決めて使用しなければならないというのが難点ではあるが、かなりの速度上昇が期待できる。

 

「おっとここで速くなったか。だが戦っててわかったさ・・・・・・俺より断然遅いな、がきんちょ」

 

見かけはマンドリカルドが目にも止まらぬ剣戟を繰り出し、ヘクトールがそれをなんとかいなしているようだ。

だが、実際はそうじゃない。

ヘクトールは敢えてマンドリカルドに攻めさせ、疲労の末の自爆を誘っている。

その上防御に専念する事で自らの手の内を明かさず、相手のやり口をその場で学習し対策を練っているのだ・・・・・・

 

「くっ、そがあ・・・・・・っ!!」

 

彼も向こうの作戦には気づいていることだろう。だが攻撃の手を止めるわけにもいかないのだ。

防戦一方ではあるが、ヘクトールはタイミングさえ見つけりゃすぐに一発を加えようと殴ってくる。

その隙を与えないためにも、とにかく数を稼ぐ必要があるという話・・・・・・

 

「一回離れて立て直せ!」

 

「了解っす!」

 

体勢を元に戻すためマンドリカルドは後ろに飛ぶ。

だが休む暇などあるわけもなく、1秒も経たずにドゥリンダナの切っ先が彼の顔めがけて飛んでくる。

 

「がっ!!」

 

危うく顔面に横一文字の傷が入る所だったが、すんでのところで後ろにのけぞり回避する。

しかし大きくバランスを崩した状況、誰がどうみても大ピンチだ。

 

「おっともう終わりかい!」

 

「なわけねえよ!!」

 

剣を右手に持っていると言うのに彼は両手を地面につき後方転回。

金属でできたブーツでヘクトールの急所へ蹴りを入れようとするも向こうに意図が察されたのか避けられてしまった。

回避されはしたが当初の目的通り一度間合いを開けることには成功した。あとはこれからどうするべきだろうか・・・・・・

 

「どこがオジサンだアンタ!!」

 

「へへっ残念だったな!!大国に喧嘩売って正面から殴り合った戦争屋を見くびったっつうわけだクソガキ!!」

 

もはや双方アイドルとそのファンらしい関係を忘れ去り、殺意MAXの視線で互いを睥睨しつつ熾烈な煽り合いを重ねている。

これで平静を失った方が負ける・・・・・・とはいえ、どちらも半分理性を失いつつやり合ってる感じがするのは俺だけだろうか。

 

「・・・・・・あんなセイバーさん初めて見た」

 

「・・・・・・だろうな」

 

これは正義と悪の戦いでも、正義と正義の戦いでもない。

互いの欲を、願望をかけたエゴのぶちまけあいだ。


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