Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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戦闘描写やっぱ苦手じゃぁ


というかマンドリカルドくんが殺気立ちすぎになってりゅ・・・()


163話 十二日目:大きな壁を前にして

「来てくれっ、ブリリアドーロ!!」

 

マンドリカルドの左手が空を切ると、そこに名馬ブリリアドーロが顕現た。彼はその上に飛び乗り腰を下ろすもブリリアドーロはこの程度どうということはないとばかりに冷静な顔つきだ。

庭の敷地からすれば馬が走り回るのも無理ではないが、ただの平原とはわけが違う。

騎馬民族の彼のことだ、そのあたりの取り回し方はわかっているだろうけども。

 

「・・・・・・この状況で騎兵になるか」

 

そもそも騎兵というのは機動力と、それに追随する攻撃力の高さで押し切るようなタイプだ。

反面防御が手薄になりがちで、遠距離の攻撃にはかなり弱い。

歩兵との戦いでは優位性を保ちやすいほうではあるけども、それが人類史でもかなり上の部類に入る知将に通用するのだろうか。

 

「忘れたか」

 

ヘクトールの双眸がぎらついた。それを表現するのなら、餌を前にした鷲か獅子・・・・・・見られただけで常人なら神経が自主退職するような恐ろしい視線にも、マンドリカルドは怯まず向かっていく。

ブリリアドーロの通るであろう軌道上にいるというのに、ヘクトールは全く回避行動をとる気配がない。

・・・・・・完璧な迎撃ができるという自信からだろうか。そうだとしたら末恐ろしいものだ。

壮年の男は焦る様子もなく、黄金に輝くドゥリンダナを構えた。

その剣の柄に濃密な魔力が通されていく・・・・・・早くも宝具を展開するつもりか?

 

「そらっ!」

 

一瞬にして、その黒い柄は大きく伸展した。

どこからどうみても普通の剣から射程の長い槍へ・・・・・・前に”宝具をちょっといじれば槍にもできる”などと言っていたのは記憶にあるが、そんな一工程で簡単に伸びるだなんて思うわけがない。

 

「マジかよっ!!」

 

危うくふくらはぎに一撃を加えられるところだったがマンドリカルドは咄嗟に剣を足元へ構え直すことで攻撃を防ぐ。

相手がただの剣しか持っていない歩兵ならまだしも、いつどこまでその切っ先が伸びるかわからない槍を持っているのなら話は違う。

槍使いにはありがちな入られては困る間合いもなく、剣使いの苦手な遠距離から攻められてもそれなりに対処のしようがある。

それに相手はかのアキレウスと真っ向からやりあったこともある大英雄。不死身性やら神の加護やらなんやらは持っていないと見受けられるが、経験の差が大きすぎる。

 

「・・・・・・俺が諦めてどうすんだ」

 

情けない自分の頬をつねる。俺はただ、友の勝利を祈り、助けていればいい。

 

「っ・・・・・・ブリリアドーロ、ちょっと頼むぞ!」

 

馬上から彼は飛び降り、地面に着地する。剣と剣同士の間合いでなければ勝ち目はないと判断したのか、一気にマンドリカルドはヘクトールに肉迫する。

ブリリアドーロは消えることなくそのまま裏山の森へ向かって駆け出し、そのまま姿を見えなくさせていった・・・・・・どういう意図があるのだろう、戦い慣れなどしていない俺にはわかるはずもない。

 

「っぐぅ・・・・・・っ!!」

 

「ほらどうしたどうした!?」

 

止まらない金属のぶつかり合う音。衝突により弾け飛ぶ閃光はまるで花火でもやっているのかと誤認しそうなほどだ。

双方完全破壊耐性を持つ聖剣、折れることなんて絶対に有り得ない。

マンドリカルドが上半身に意識を集中していると見るやすぐさまヘクトールは足払いを仕掛けてくるので油断ならん。

昨日一日晴れていたとはいえ未だに湿っている地面。転んでしまえば簡単には起き上がれなさそうなほどじっとりしている場所だってある。

 

「さすがっ・・・・・・俺の憧れなだけあるっすね!!」

 

「んなこと言うんだったら憧れくらい越えてみろよ、まあ俺には勝てねえだろうがな!!」

 

互いにまだ一つも傷をつけられていない。

中断する様相は全く見せない熾烈な剣戟が、朝の住宅街まで響いていく。

・・・・・・二人とも、笑顔なのは気のせいだろうか。

ヘクトールが土を蹴り上げて視覚をある程度封じようとするも、マンドリカルドは器用にデュランダルでそれを撃ち落としついた土も振り払う。

 

「まあそう簡単にはいかんなぁ」

 

「そりゃそうっすよ!」

 

マンドリカルドがその場で大きく跳ねたかと思うと、そのまま空中に駆け上がっていく。

俺の渡した空中歩行の中敷きがまだ残っていたのはいいが、剣術の戦いで高所アドバンテージなぞ取ったところで意味がない。

 

「・・・・・・なにやってんだあれ」

 

「U=mghだな」

 

不破が決闘という映画を鑑賞しつつポップコーンを貪り食っている。

未破裂の固い粒も構わずばりばりと噛み砕き飲み下しているあたり歯の強度は凄まじいようだ。

 

「それってポテンシャルエネルギーの式・・・・・・いやまさか自由落下とかしないだろ」

 

68×9.8×5というエネルギーが加わるため単なる加速と衝力は凄まじいものになるだろうが、自由落下ではコントロールが全くできない。いくら加速するとはいえ着弾点がわかってしまえば簡単に逃げられるし自分の頭が割れる。

そんな危なっかしいことを平然とやってのけるほど勇猛さ(悪く言えば無謀さ)を持ち合わせているとは思えない、違うことをやってくれるはずだ・・・・・・

 

「その兜ごと割ってやるよ!!」

 

空中で彼が一回転したかと思うと、そのまま重力に従い体が落ちていく。

いや、そんなまさか。

 

「お、おばかあああああああ!!!」

 

そんなの自爆でしかないだろと俺は思わず飛び出しかけたが、不破の手がしっかりと俺の首根っこを掴む。

無言の圧力を背に感じ、仕方なくそこに座り込むことにした。

加速するマンドリカルドの体。上段に構えた聖剣は輝く兜をかち割らんと陽光に煌めいている。

 

「今だ!!」

 

凛々しき馬の嘶きが聞こえた。

その力は半強制的に周囲の注目を集め、その他のものから注意を逸らす。

 

「その程度で惑わされるほど、オジサンは甘くねえよってなぁ!」

 

再び剣の柄が伸び、容赦なくヘクトールはマンドリカルドの頭にその先端を突き刺そうとしてくる。

さすがにそれをやられれば不死身の生命体でない限り誰であろうと死んでしまうだろう、マンドリカルドも無理やり体を捻ってその攻撃を回避した。

 

「それで逃げられたとは思うなよ!」

 

槍が傾けられ、狙ってくるのはマンドリカルドの膝裏。

そこまで長いわけでもない鍔だと言うのに、ヘクトールは見事に膝裏へとそれを引っ掛けそのまま地面へ落としにかかる。

 

「・・・・・・セイバーさん、かっこいいですね」

 

「まあ、トランプの絵札に描かれるくらいには大英雄だからな。かっこよくて当然だろうよ」

 

どうっ、とマンドリカルドを家の壁に叩きつけてヘクトールは一つ大きく息を吐いた。

左手を腰にやり苦笑いをしているが、やはり腰は痛いのだろうか。

だからといってそれを絶対的な優位性にできると言われれば微妙なところ。もしかしたらあれすらもただのポーズかもしれない。

 

「・・・・・・大丈夫か」

 

やはりさっきの衝撃はすさまじかったのか、マンドリカルドはまともに立ち上がれない。

ひゅうひゅうと弱い息を吐き、大きく咳き込む。

強い胸部打撲を食らった際によく起こる事例だ・・・・・・この状態じゃそろそろとどめを刺されてもおかしくはない。

 

「・・・・・・Récupération continue」

 

継続的な回復の術をかけたが、これじゃあごまかしにもなるかどうかだ。

今耐え切れても長期戦に突入してしまえば難しいし、倒す手だてが今のところ一切ない。

 

「・・・・・・っ、が・・・・・・げほっ」

 

デュランダルを地面に突き刺し、震える膝を手で押し込みなんとか彼は立ち上がる。

顔面は泥にまみれているけれども、それを振り払う力すら今は惜しい。

取り出すタイミングを掴みあぐねていた盾を左手に持ち、一度深呼吸をした。

 

「なんで、殺さなかった」

 

「さあ、なんでだろうな?」

 

「・・・・・・まあ、いい」

 

剣の泥を再び払い、マンドリカルドは地を蹴る。

諦めるつもりは全くない。死ぬまで戦うと決意しているから。

負けるつもりは全くない。俺と、約束をしているのだから。

 

「俺を侮ったこと、後悔させてやる────アンタの敗北をもってだ!!」

 

三白眼がさらに見開かれる。

躊躇はいらぬと、聖剣が彼の叫びに共鳴した。


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