Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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165話 十二日目:誓い

「・・・・・・強いな、お前さんは」

 

全てを賭けた最後の一撃を食らい、ヘクトールの体には大きな裂傷が作られていた。

まともに話せるはずも無いだろうに、彼は平然と、希薄になったマンドリカルドの姿を認めその頭を軽く撫でる。

 

「ヘクトール様に比べたら、全然」

 

もうほぼ霊体としか言いようのない状態ではあるが、その声はちゃんと響いている。

半透明になった顔に伝う、透明な糸も見えた。

 

「この期に及んで謙遜か。ま、お前がいいならそれでいい」

 

マンドリカルドのところから離れて、ヘクトールは来栖さんの元へと歩み寄る。

体からは金色の光が溢れ出ていて、もうすぐ消滅するといったことを示しているようだ。

 

「すんませんねマスター。最後の最後に負けかましまして」

 

「・・・・・・いえ、いいんです。ヘクトールさんが・・・・・・満足なら」

 

胸元にあった令呪の痕を撫でるように、触れる。

 

「あのとき、咄嗟の判断で契約してよかった。元々のマスターじゃあロクな結末にならなそうだったからな」

 

真っ赤に染まったその手で、変わらず頭を掻く。

 

「んじゃあとは任せたぞ、もう一人のマスター」

 

「・・・・・・ああ、必ず守ってやるさ」

 

俺がそう告げると、彼は光の中に還っていく。

その光波は不破の持つ聖杯へと取り込まれ、消えていった。

 

「その様子じゃライダーもじきに霊核の維持ができず消えるだろうな。さっさと願いを言え」

 

「・・・・・・マンドリカルド、そこにいるか?」

 

俺との繋がりが、薄れていく。

ああ、別れはもう、すぐそこだ。

 

「俺はここにいるっすよ」

 

ふわふわと漂う、小さな光。

 

「・・・・・・あいつらにちょろまかされたせいで、でかい願いは叶えられそうにないらしい。せいぜい、ほんの少し未来を変えられるくらいだろうな・・・・・・で、どっちから言う?」

 

明日を変えられる、俺はただそれだけで十分だ。

 

「じゃあ、俺から言うよ」

 

「・・・・・・よし、聖杯を降ろすぞ」

 

彼の詠唱と共に、聖杯の器へ概念と化した本物が降臨する。

小指を入れたら詰まってしまいそうなほど小さな孔が、世界に開く・・・・・・あれが、世界の外側につながっているのか。

 

「・・・・・・孔は固定された。願いを」

 

「────俺は」

 

元から、叶えたい願いなんてなかった。

根源に至るのだって、聖杯の力なんて借りなくていいと思っていた。

だから、俺は誰かのための願いを言おう。それが望まれなかったとしても、いい。

 

「大切な親友たちの未来が、少しだけ幸せになってほしい」

 

たった二人の友達に、親友に。

俺はただ、笑っていてほしい。

 

「・・・・・・克親」

 

「ほら、ライダーも言え。そんな体じゃもうここにしがみついてられないだろ」

 

「・・・・・・ああ」

 

俺の言葉に、彼は何を思ったのだろう。

どんな顔をしているのかはもうわからない。怒っているのだろうか、泣いているのだろうか。

 

「俺は────」

 

彼の声は、激しい突風にかき消された。

聖杯には伝わったのか、その孔は次第に閉じていく。

 

 

「これにて聖杯戦争の終結を宣言する」

 

「・・・・・・これにて終わり、ですね。私は今回何もできませんでしたが・・・・・・申し訳ないです」

 

ルーラーの体も少しずつ金色の光に包まれ消えていく。

 

「・・・・・・いや。あなたがいなければ、その力でマンドリカルドをここに留めていてくれなければ・・・・・・この結末は絶対に迎えられなかった。謙遜する必要なんてありませんよ」

 

「・・・・・・そうですか。ならばよいのですが・・・・・・」

 

不破と来栖さんに短い間ですがありがとうという旨の挨拶を告げ、最後に彼は俺にひとつ礼をして消えていった。

 

「・・・・・・まだ、そこにいてくれてるんだな」

 

蛍の光みたいに小さいけれど、確かに俺の友はいる。

終結を宣言された時点で契約は切れたから、もうすぐ彼は座に帰る。

本当のさようならだ。

 

『克親』

 

大好きな声が、響く。

 

『俺と、一緒に生きてくれてありがとう』

 

涙が止まらない。

そこにいる光が、歪んでいく。

 

「・・・・・・ありがとう、マンドリカルド」

 

何かが肩に触れる感触がして、俺は顔を上げる。

そこには、笑顔の親友がいる。

 

「・・・・・・い」

 

行かないで。

そう声に出しそうになった。

そんなことを言ったってどうにもならないと知っていたから、それは心の内にしまい込む。

 

『もう、最後っすね』

 

「・・・・・・そう、だな。約束・・・・・・守れよ」

 

『誓約は守るっすから。絶対』

 

その顔が、溢れ出す涙で崩れていく。

無意識のうちに俺は彼を抱きしめ、目を閉じたまま涙と鼻水と汗を、血まみれの彼の首筋へ塗りたくる。

 

『じゃあまた。いつか、どこかで』

 

「・・・・・・またな」

 

嗚咽まみれの声で、三文字だけを呟く。

触れていたものの感覚がなくなっていく。

目を開けて涙を拭う頃には、もう彼の姿はない。

 

「・・・・・・ありがとう、さよなら」

 

 

底のない寂しさを胸に抱いたまま、俺は一歩ずつ前に進む。

庭の整備に使うシャベルを手に取り、小さな穴を掘った。

 

「何、してんだ?」

 

全てを終え、上司への連絡メールを送ろうとしていた不破が俺の行為に気づき声をかける。

 

「・・・・・・1200年前の死人に今更墓ってのも、変な話だとは思うがな」

 

掘った小さな穴へ、俺はひとつものを入れる。

それは粉々になった彼の木剣。最初の戦いで根元から折れ、初めて第2宝具を解放した時にただの木くずと化したものだ。

なんだかんだで未練まみれのそれを、決別のために埋める。

 

「剣の墓でもあるってか」

 

「・・・・・・そう、だな」

 

今まで作っては折れてきたかの木剣達を代表して、ここに眠ってもらおう。

俺たちを守ってくれてありがとうな、と感謝の意を込めて、少しだけそこへ水をかけた。

 

「ああ、そうだ。またいろいろと事後処理の連絡はするが・・・・・・急を要さないもんはあとでいいか?」

 

「いや、できるうちにしときたいから俺の仕事はさっさと回してくれ」

 

時間をおくと辛くなってできなくなりそうだから、という理由は言わないでおいた。

 

「・・・・・・じゃあ、また明日会社で会いましょ・・・・・・会おうね、克親さん」

 

思い出したように語尾を変えて言う来栖さんにちょっとだけ笑顔にさせてもらいながら、俺は門扉から出ていく二人に手を振った。

さあ、また忙しくなる日が来る。

 

「・・・・・・いい天気だ」

 

俺は家に戻り、研究室へと足を運ぶ。

古めかしい階段の鳴る音が、久しぶりに耳をついた気がした。

 

「・・・・・・ここ数日は、結構うるさかったもんな」

 

静かなる日々に戻った家。

ボロボロになってしまったが、また直さなければ雨漏りに毎回泣かされることだろう。

 

「さて」

 

ロクな内容を書けていないけれど、とりあえず始めたのだからやり遂げなければならない。

金庫の中から二冊のノートを取り出して、俺はペンの蓋を取った。

便宜的に置いてある裸電球しか照明がないけれど、この際どうでもいい。

 

「・・・・・・覚えてるうちに全部書いとかないと」

 

飯を食うのも忘れて、ただ俺は書き続けた。

がりがりとペンの先が紙を削るような音を響かせ、全てを綴る。

彼と俺の約束を果たすために、向かうべき場所を忘れないように。

 

俺は、また歩き出そう。




これにて聖杯戦争は終結

ではございますがあともうちっとだけ続くんじゃ(たぶん)
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