Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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167話 十三日目:し っ て た

「そろそろ行こうか」

 

「そう、ですね」

 

時間もいいとこになってきたので、俺たちは立ち上がり用意を確認して玄関へと向かう。

 

「・・・・・・あ、これ・・・・・・持って行かなくていいの?」

 

「何が?」

 

リビングから少し遅れて出てきた来栖さんが渡してきたのは一枚の写真。

・・・・・・朝飯を食ったときに持ってきたマンドリカルドの写真だ。

 

「・・・・・・ああ、ありがとう」

 

俺はそれだけ言って写真を受け取り、スーツの胸ポケットへ入れた。

忘れていた訳じゃない。持って行ったら、つい見て仕事に手がつけられなくなるような気がしたから、躊躇ってしまったのだ。

 

「やっぱり、会社休んだほうが」

 

「いや、そろそろ行かなきゃ部長にどやされる・・・・・・行くよ、ちゃんと」

 

危うくカビを生やしかけた革靴を履いて、太ももを叩き俺は立つ。

綺麗になってしまった手の甲を見て、もう俺はただの魔術師なんだと自分に言い聞かせた。

そう。俺はもうマスターでもなんでもないのだ。

 

「・・・・・・じゃあ、行こうか」

 

「は、はい」

 

家を出て、鍵を閉める。

結界の強度を確認し術式のほつれに補強をかけた。俺が敷地から出て門扉を閉めれば、よほど魔術解除が得意な魔術師・・・・・・それこそ魔法使いレベルでもないと入れない。

 

「行ってきます」

 

ただいまを言うまでこの扉は開かないだろう。

行ってきますだって、立派な呪文なのだ。

 

 

こうやって電車ですし詰めになるのも久方ぶりに感じる。

がたんがたんと揺れる車内。到着時出やすいように、とドアの近くを占拠するのだが、窓に顔面が押しつけられるのできつい。

痴漢に疑われる心配はほぼないのがまだ助かる点だ。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫なんですかっ、窒息死しませんよね・・・・・・!?」

 

小声で隣の来栖さんがそう心配している旨を伝えてきてくれる・・・・・・が、こんなのは日常茶飯事なので全く問題ない。

無言のサムズアップだけを見せ、俺は耐久勝負を楽しんでいた。

 

「・・・・・・顔に跡ついてますよ」

 

「ははは、よくある話・・・・・・てか、女性専用車両じゃなくてよかったのか?」

 

「あー・・・・・・もし何かあっても、克親さんが守ってくれるかなって」

 

しれっとなんてことを言ってくれるんだこの人は。

いや俺はヘクトールのかわりに来栖さんを守るって誓いましたよ、誓いましたけど・・・・・・いざそのことを言われるとなんとまあ恥ずかしいというか、なんというか・・・・・・

 

「顔、赤くなってますよ」

 

「・・・・・・そっちのせいでしょうが・・・・・・」

 

熱くなった顔面に、無理やり水を当てて冷やす。

ああこんな不特定多数の目に付くような場所でこんなの・・・・・・ああダメだ、陰キャの精神が悲鳴をあげておる・・・・・・

 

「氷でも買ってきましょうか?」

 

「いや、さすがにそれはいいや」

 

鞄を抱え、改札を出た。

ここから会社まではそう遠くない。着き次第それぞれの部署に別れて勤務を始めるだろう。

・・・・・・うちの場合営業と人事は上下でお隣と言った状態だ。そのせいでいつ人事の奴が来るかわかったもんじゃないので後ろめたいことをしている奴らはいつもびくびくしているのである。まあ(魔術関係を除いて)清廉潔白鶴も驚く白さの俺にはなんら恐怖はないのだが・・・・・・

 

「もう着いちゃいましたね」

 

「昼飯は・・・・・・俺は社食だけど、来栖さんは?」

 

「お弁当ですが、食堂で食べましょっか」

 

「・・・・・・だな」

 

なんだろうこのむずむずする感じ。これまでまともな恋愛をしていなかったせいもあり今回が初めての経験なのだが、女性と付き合うってのはこうも心にくるものなのか。

海が地の底からくたばれリア充の声をあげていそうだが、心のうちで申し訳ないの言葉だけかけて我慢してもらおう。ほんとごめんて。

 

「じゃ、またお昼」

 

「ああ、じゃあまた」

 

そう言って俺たちはさりげなく別れ、社屋へと入る。

社員証を機械に見せ照合し、入ることを認められたところでそのまま正面のエレベーターへ乗り込んだ。

 

「お!克親パイセン久し振りィ!!」

 

男性社員とちょうど二人きりになる。ああたしかこいつは、中途採用で入ってきてやけに馴れ馴れしく絡んでくる奴だ。

名前は確か・・・・・・

 

「・・・・・・ピヨ丸」

 

「大丸っつってんでしょ、そんなかわいくねっすよ」

 

せめて間違えるなら近鉄とかにしてくれっす、とよくわからん文句を垂れる鶴丸・・・・・・じゃなくて大丸。

それにしてもなぜ俺なんぞと絡むんだ。金目当て、という雰囲気はまるでないし、目的がいっさい見えない。

 

「パイセンさっき来栖さんと話してたっすね、それもなかなか親密に」

 

いきなり核心を突いてきやがったこいつ。これはまずい、言いふらされたらたまったもんじゃない。

有給使ってちちくりあってたなんて思われてりゃ・・・・・・

 

「あのさ、ひとつ聞きたいことがあるんだが」

 

「なんすか」

 

「営業部どうなってる」

 

「・・・・・・それ聞きます?」

 

肩をすくめ笑う大丸。

・・・・・・嫌な予感しかしない。

 

「一応、教えてくれ」

 

「来栖さんとパイセン、結婚一歩手前とか噂されてるっすよ」

 

エレベーターが営業部のある階層にたどり着く。

扉が開いたのと同時に、俺は膝から崩れ落ちた。

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