Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
「こっちの弱点はやっぱり生前致命傷食らった脇腹だな。これに関しては鎧を魔術で強化して防御無視の魔剣でも来ない限り絶対に耐えられる状態にしよう・・・・・・んで、あと心臓。どっちにしろここを壊されたら消滅回避はほぼ不可能だが、一応対策はとっておこう。なにしろお前武装したら胸元バッチリ露出してるからな」
服の隙間から覗くセクシーな胸部はどうにかしていただきたいところ・・・・・・
いくら九偉人の鎧の力で露出部すら守られているとはいえ見た目が無防備すぎる。
「・・・・・・了解っす」
心なしか不満顔な彼だがここは我慢していただこう。
俺とてあまり格好を弄り倒したくはないのだが・・・・・・苦渋の決断なのだ。
「あと宝具の解放だが、使ったあと得物が壊れるから本当に最後の切り札で使ってくれ。壊れた剣も持って帰ってきたがこれの修復は不可能だ。家の裏山から適当に伐採して作るにしても結構時間がかかる・・・・・・槍とか斧でも発動できるよな?」
できないとなると今日は寝る間も惜しんで武器の製造に取りかからなくてはならない。
燃費的にはかなーり優良児めな彼だが、こういうところが少々手間である・・・・・・いや、これで文句言ったらさすがに怒られるだろうしお口チャック。
「手に持てる物なら棒だろうが石だろうがゴミだろうがなんでも。つかその折れた剣持って帰ってきたんすか・・・・・・いつの間に」
もう使えない物なのになんでわざわざ・・・・・・とうすーくため息をついてマンドリカルドは俺を見る。
「なに、ただの思い出ってやつだ。正体すら分かっていない敵に真正面から立ち向かうお前の勇姿を忘れないためのな」
「・・・・・・は、はあ」
根元から粉砕された、かつて剣だったもの。埋め込まれていた鋼も一緒に拾えるだけ拾って帰ってきたので形だけは元に戻すこともできる・・・・・・だが、それではなにかが違う。
壊れたままでいいというものも世の中にはある、というものだ。
「いつかこれが役に立つかもしれない、と俺の勘も言ってたことだしな。こういうときの直感ははずれなしだ」
などと俺は言うが、正直言ってこれがどう役に立つというのか。遭難したときの焚き火か、燃料なのか?
露骨にマンドリカルドが『なに言ってんだこいつ』という目でこちらを見てくる。視線がとても痛い、刺さるように痛い。
「・・・・・・もう今日は寝ろ。俺のベッド使っていいから」
「いやそれはさすがに悪いっすよ。隣の部屋行くんで、失礼しましたっす」
突然立ち上がったマンドリカルドだが急な体勢移行で目眩でも起こしたか、ぐらりとバランスを崩してしまう。
危うくベッドサイドの棚に頭をぶつけるところだったが、すんでのところで止めることに成功した。
体に触れてみるとまだ熱い・・・・・・やっぱり暫くは寝かせておいた方がいい。
「俺が全面的に悪いとはいえ、こんな状態で行かせらんねえよ。冷えピタとかいるか?」
「・・・・・・それはいいっす」
今度は抵抗することもなく静かに横たわり目を閉じてくれた。俺は薄い毛布だけ被せ、ソファの方へと移動する。
今日から聖杯戦争にっき(仮)と称して気づいたことを書き留めておこう。勿論マンドリカルドには内緒で。
二日目から付け出すというのもなんだか歯切れが悪いが、思い立ったが吉日。今からでも遅くない。
使いかけのノートを開いて、新しい1ページに先述の題名を記す。
とは言っても文体に困る。論文調にするか、本当に日記にするか・・・・・・
「まあ、箇条書きでいいか」
昨日から共にいてわかったこと・・・・・・
相手のことを思って色々考えてくれてるために、無口で挙動不審ぽくなりがち。とか基本自己評価が低くて優しくされるのに戸惑うことがある、とか・・・・・・ヘクトールが本当に好きであることとか、戦闘のときは一度強く焚き付ければそれなりに強気で行ってくれるとか。
マンドリカルドと俺はどこかほんの少し似ているなんて思うのは仮にも人類史に刻まれた尊い英霊様にとっては失礼な話なんだろうが、やっぱり思ってしまうものがある。
一見他人に心を開いているように見えるが、結局は俺も表面上の人格で相手の喜ぶように振る舞ってるだけ。
八木澤と司馬田以外の存在に本来の自分自身なぞめったなことでは見せない。
「・・・・・・はあ」
駄目だとはわかっている。
だがどうしても、気を許すことへの恐怖があるのだ。
過去のことなんて別にどうでもいいし関係ないと思いつつも、心の奥でまだ蠢いている記憶。
消してしまえば自分の本質すらも変わると知っているから、捨てようにも捨てられないそれにずっと悩まされ続けてきた。
「俺って、駄目だなほんと」
ペンを走らせながらまた呟く。自分をどれだけ蔑もうと何も起きないってのに馬鹿の一つ覚えのように繰り返す。
どうせ誰も助けられない、俺のそばにいてくれる人は誰も守れない、ただひたすらに無力の塊。
だから嫌だったんだ、この戦争に参加するのは。
令呪の兆しとやらが現れた瞬間に自分の家系を恨んだ。人が傷つく様なんてもう見たくはないのに。
あのとき圧力に負けて召喚したのが間違いだった、あのままほかの奴に任せておけばよかった。
マンドリカルドに『あのときこうしていればとか考えるな』と言った癖して、俺自身も後悔ばかりしている。
ノートを書き終え、研究室まで行って平尾家最強と名高い金庫にしまい込んだ。魔術刻印によって開く特別製で、平尾家の当主でしか開けられない仕様。霊体化したサーヴァントでも入れないように結界まで仕込んであるため、大事なものは基本ここに置いておけば間違いない構造になっている。
「明日も更新できる情報があればいいんだが」
因みに、敵陣営の情報は別の媒体で記録してある。つまりあのノートはマンドリカルド専用・・・・・・もはや聖杯戦争にっきならぬライダー観察日記なのだ。
正直言って何やってるんだろ俺。ストーカーか、恋心こじらせた挙げ句の果てに対象のスリーサイズやらなにやらまで完璧に把握しちゃう系のストーカーなのか。
自分の性癖(?)に気づいてしまった俺は頭を抱えながら階段を下りる。
今まで女性とまっとうな付き合いをしてこなかったからわからなかっただけで実際はこんなんだったのか。うわあ最悪だ、誰にも迷惑かけてないでよかった。
強制覚醒の魔術がもうすぐ切れそうなのでその前にベッドへと飛び込もう。途中で効果が終了したら野垂れ死にのように眠ってしまい風邪を引くから。
廊下を歩く、そして寝室の扉に手を触れようとしたその時であった。
誰かが見ている。そう感づいた俺は回れ右して窓の外を見る。鉄の柱が幾百と並ぶ塀の奥に、”それ”は立っていた。
金髪に、赤い眸、そして容姿も端麗。白いシャツの上に黒く短いジャケットを羽織っていて、さながら格好は(バイクの)ライダーである。
ここらへんにこんな男が越してきたなんて話は一切聞いていない。それに・・・・・・彼から感じる力の波動が尋常じゃない。普通は隠すものなのにこいつはもはやひけらかしている・・・・・・自分の正体をある程度悟られようとも構わない姿勢、悍ましいほどの自信だ。
どう考えてもサーヴァントかそのマスター。まさか、ここを襲いにでも来たのか。平尾家においても最高錬度の結界をぶち壊すほどの火力があるとしたら・・・・・・そいつを破られたら最後、家どころか山が消えてもおかしくはない。
何かを話していると気づいた俺は窓を開け、男の声を聞く。おそらく殺されたくなければ平伏しろという類だと想像、していたのだが・・・・・・
「貴様の従える雑兵・・・・・・今のうちに殺しておけ。呑まれたら最後、容易には取り返しがつかんことになるぞ────?」
嗤う男。どういう意味だと俺が問う前にそいつは踵を返し坂の向こうへと消えていった。
追いかけたいが、もう魔術の効力的にも限界が近い・・・・・・外で倒れたら車に轢かれたり他のマスターに殺られる・・・・・・諦めて、寝るしかないみたいだ。
寝室に入り、マンドリカルドの寝るベッドへと潜り込む。
『今のうちに殺しておけ』『呑まれたら最後』『取り返しがつかん』
彼奴の言った言葉が脳内で反響して仕方がない。
頭を傾け隣を見ても、そこには静かに、優しそうに眠るマンドリカルドの姿しかない。
・・・・・・あれは、ただ俺を疑心暗鬼にさせ自滅を謀るためだけの言葉だろう。絶対にそうだ、そうだと思いたい。
余計な考えを捨てようと唸りをあげていた途中で魔術の効果は切れ、そのまま俺は寝落ちした。
いやもうあからさまに男がアレじゃねえかというツッコミはなしでお願いしますね?ね?