Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
24話 三日目:それは雷のように
何かとても嫌な夢を見た気がした。
マンドリカルドの体温とかがあるとはいえ寝汗がいつにも増して酷い。
時間に余裕はあるからシャワーでも浴びて汗を流しに行こうと、まだ隣で縮こまっている彼を起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出した。
着替えを持って風呂場へ足を向けた、のはいいのだがその前に気になったことが一つ。
「・・・・・・あの部屋、なんでドアがちょっと開いてるんだよ・・・・・・」
何年も開けていない場所なのに、今年に入ってからはドアノブすら触っていないというのに。
ここには使用人もいないし、答えなんてのは最初っから一つ・・・・・・マンドリカルドが開けたのだろう。彼の性格から鑑みて可能性は低いが、動機は家の探検でもしたかったからだろうか。
取りあえず開けっ放しはいけないので閉じておかねばと、扉の前に立つ。そして俺はドアノブに手をかけた。
瞬間である。
「・・・・・・ぐぁ・・・・・・あ、ああ!?」
唐突な激しい頭痛。まるで雷にでも打たれたかのような痛みが後頭部を襲う。
立つことすら不可能になった俺はドアの前でくずおれる他ない。
痛い、痛い痛い痛い。頭が砕け散りそうだ、随意筋も自由に動かせない。
これの原因は何だと痛みの中で探る。魔力を体に走らせ見た結果これはクモ膜下出血などの異常ではなく、魔術による痛みだということがわかる。でも何故?
「マスター!」
俺の異常を嗅ぎ取ったかマンドリカルドが走り寄ってくる。
なにがあったと聞かれるも言葉が全く喉から出てくれない、だからといって体中が震えているから筆談もできない。
どうすりゃいいのかと思案を巡らせているうちに意識が朦朧としてくる。
マンドリカルドに手を伸ばそうとしたが、それが届く前に俺の世界はブラックアウトした。
「・・・・・・う」
真っ白い光が瞼を刺しているのに気づき、俺は目を開ける。
知らないベージュの天井と青いカーテンが視界を占領していたところ、右側から知った顔がにゅっと伸びてきた。
何を詰め込んできたのかギチギチパンパンの鞄を膝の上に乗っけて、マンドリカルドが眉を下げつつ安堵の溜め息を漏らす。
状況から見て察するに、彼は俺を病院まで連れてきてくれたのだろう。恐らくは救急車か何かを呼んで。
「・・・・・・克親、頭・・・・・・もう痛くないか?」
「ああ。頭痛の方はもう大丈夫そうだ・・・・・・すまんな、心配させちまった」
礼を言った直後いや俺は救急車呼んだだけでという謙遜が入ったのでそこまでにしておけよと止めてやる。
今回の対応はとてもよかったからほめてしかるべきなのだ。謙遜なんかする悪いサーヴァントにはほっぺた掴みの刑だ。
手を使ってマンドリカルドの頬を両側から押してやる。意外とぷにぷにした感触でなんだか楽しいが、長いことやってるといくら暴力を振るわない彼だってどつきに来るだろうからすぐ離してやった。
気を取り直して窓の外を見るとそこはビル街・・・・・・明海まで来たということか。
ならここは舞綱中央医療センターなのだろう。舞綱1医療体制の整っているここならどんな急病や傷でも対応できるはずだ。
「診てくれた神経内科ってところの人が言ってたんだが、クモ膜下出血や脳静脈・・・・・・血栓症?だっけか、そういう類の症状は見てないって。いきなり痛くなってピークがすぐ来る頭痛が何回も繰り返して起こったらRCVSとかいうやつかもしれないから、また頭痛したら受診しにきてくれと。あと固定のやつで勝手に会社へ電話したけど・・・・・・まずかったか?」
「大丈夫だ・・・・・・セラヴィありがとな。俺も今日のは予想外だったもんで任せっきりになっちまった」
意識を失うレベルでの頭痛なんて経験したことがなかったせいだ。
家に自分以外の人がいてくれて助かった。
「・・・・・・どう、いたしまして。克親がいなくなったら俺もきえ・・・・・・いろいろキツくなるからな」
彼は単独行動スキルの類を有していないから、俺がいなければ現世に留まることも難しくなるし当たり前だ。
この相互利用関係のおかげで救われたか・・・・・・聖杯戦争のシステムに今だけは感謝しよう。
「平尾さんの様子どうですかー?」
話をしている途中に割って入ったのは1人の女性。
黒いショートカットの髪を振り乱してぱたぱた駆けてくるその姿には見覚えがある。
彼女の名前は八月朔日しのぶ。センターの病院長である八月朔日浩太郎の愛娘かつ、本人は脳外科の科長。
つまりスーパーエリート様である。俺と同年代なはずなのに随分と違いが出たもんだ。
「あ、今目を覚ましたところです。頭痛ももう治まっているらしいですし・・・・・・」
「そうですか、それはよかったです!念のため神経の人と一緒にもう一度検査させてもらいますね・・・・・・異常なければ再発防止のお薬出して今日はご帰宅頂けますので・・・・・・」
八月朔日は『もう検査始めましょうか』とにこやかに笑って促す。こっちにもこれを拒否する理由がないので、俺はマンドリカルドの手助けを軽く貰いながら立ち上がり歩き出した。
幾つかの検査室を盥回しにされた結果、出たのは完全問題なしという結論。
渡された薬も頭痛が再発したときに飲む頓服薬だけであった。
「今日はこれで帰宅していいですが、次症状が出た時には薬で痛みが治まってもできる限りすぐ来院なさってくださいね。今回の検査ではなんの異常も発見されませんでしたがこの先どうなるかはわかりませんので・・・・・・では」
口酸っぱく忠告をして、八月朔日はそのまま診察室へと戻っていった。
彼女は言いつけを守らない患者には厳しく、ぷんすか頬を膨らましながら指導を繰り返した挙げ句ついた異名が『儼たる神のしのぶ』だそうで。
俺はお世話になっていないので真相は知らないのだが、同僚が前にそんな話をしているところを聞いた。
正直言って彼女の顔は厳しさとはかけ離れたふんわりタイプなので想像がつかん。
まあ、俺は一生お目にかかれない光景でいい。医者に反抗するほど馬鹿じゃあないし。
「・・・・・・もう帰るか。一応会社に顔出しとこっかねえ」
傍らのマンドリカルドに声をかける・・・・・・が、返事はない。
おーいと目の前で手を振りながら彼を呼んだところやっと顔を向けてくれた。
なにやら彼は思い悩むようなことがあるらしい。
今後の軋轢を出来るだけ生まないためにも聞いておくべきだろうか。
「どうした、なんかあったか?」
「・・・・・・いや、ただ・・・・・・俺のせいで、克親が倒れたんじゃないかなと、思って・・・・・・」
なぜそんなことを思ってしまうのか。きっかけは確かにマンドリカルドがあけっぱにしていたドアのせいかもしれないが、彼には落ち度がない。なんてったって知らないのだから。俺は故意だったり未必の故意であれば叱責することがあるけれど、過失であれば基本咎めはしない。
「なに言ってんだ、お前は悪くないに決まってんだろ。もし悪かったとしてもちゃんと救急車とか呼んでくれた点で完全に帳消しだっつの!」
だから自分のせいだと思うなと、俺は病院から出たところで彼の肩を叩いた。
こんなんでも本当に感謝してんだぞ俺は。わかりにくいかもしれないけどさ。
八月朔日さんがちょっと例の医神的なキャラ付けになってしまいました
完全に予想外です(作者の癖に)