Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
「そういや、お前のその荷物なに入れてきてたんだ」
マンドリカルドの肩にかけられた大きな鞄・・・・・・俺がたまにしか使わない旅行用ボストンバッグなのだが、あからさまに容量オーバーすれすれなほど物が詰められている。3泊はできそうなくらいの荷物、彼は何を思って入れてきたのか・・・・・・
「・・・・・・いや、もし入院てことになったらいろいろ必要かなって。着替えとタオルと毛布とかを取りあえず持ってきたっす」
「そっか、いろいろ考えが回った結果のそれか。優秀な友を持って俺は幸せだなあ」
偉いぞ~なんて子供を褒めるかの如くなでくり回してやったところ、本人は満更でもないようだ。
それでも瞳の奥には自責の念が透けて見えるというか、なんというか・・・・・・言いたかったけど、そう何回も指摘していたら逆効果かもしれないと考えるようになって声を出すのに躊躇してしまった。
「さてと、いきなりぶっ倒れちまった謝罪回りにでもいきますかねっと・・・・・・会社の奴らに君は誰だとかなんとか言われるだろうが、ボロ出さねえように注意しとけよ。まあお前に限っては大丈夫だと思うが」
「うっす、了解っす」
センターから徒歩で会社へと向かう。
途中ショッピングモールの壁につけられた大きなデジタル時計を見たがそいつの示す時刻は午後2時。
随分と俺は眠っていたようだ。
平日のこんな時分にほっつき歩くというのも久方ぶりなもんで新鮮味を感じる・・・・・・あたりは早く学校の終わった小学生やら、晩飯の買い物をしている主婦の方々ばかり。
なんだか俺がろくでなしぽい感じでなんだか溶け込めない。
「なんだかなー。俺らが大変な目に遭ってるってのに、世界は呑気だほんと」
もしかしたら戦いに巻き込まれて明日死ぬかもしれないのに、みんな知らないからって。
八つ当たりじみた愚痴を吐き、俺は空を見上げる。
今日も今日とて晴れの日続き。なんだかつまらなく感じてきてしまう・・・・・・たまには、雨だって降ってもいいのに。
「・・・・・・誰にも知られないまま終わるのは、悲しいっすか?」
唐突にマンドリカルドがそう問いかけてくる。
振り返るとまた、あの時のような顔をしながら彼は俯いていた。
「・・・・・・そりゃ悲しいに決まってんだろ。知ってもらいたい、覚えていてもらいたい、認めてもらいたいっつう気持ちがあるからな。俺とほんの一握りのやつらしかお前を知らないままサヨナラとか、考えるだけでも寂しいさ」
なんか、今顔を見るといらんことまで公衆の面前で吐いちまいそうだったから視線を逸らした。
「いいんすよ、俺みたいな三流・・・・・・誰にも、知られなくたって」
「よくねえよぶぁっかやろー」
彼は自分がマイナーであるということを自覚している。
それだけならまだいいのだが、こういった過度な自虐が問題点・・・・・・どうすりゃもっと自分に自信を持ってテンションを高く保てるのだろうか。
「お前な、そんな調子だったら持てるもんも持てなくなるぞ?」
「・・・・・・それは」
騎士道の体現者とされる九偉人。
その内のひとりであるヘクトールの武具を求めたものならばそれなりの誇りを持って然るべきだ。
ヘクトールに並ぶ武勇をもってかの鎧を手に入れたのだから、自分を卑下しすぎることはそれ則ち彼への侮辱に値する。
人がいる前でヘクトールだの鎧だの言えないからそこらへんはぼかしたが、俺はマンドリカルドにそう言ってやった。
「っそんな、俺は!・・・・・・俺は・・・・・・」
彼は静かに唇を噛む。血が出そうなほどに、強く。
「いやあすみませんすみません」
マンドリカルドをエレベーター前に待たせておいて、営業部のオフィスに入るとちょうど部長が出てきてくれた。
「あ、平尾くん!大丈夫だったのか??倒れたと聞いたが・・・・・・」
マンドリカルドが倒れた直後に連絡をしてくれていたお陰で業務に大きな損害は無さそうだ。
「最近根詰めすぎたせいで・・・・・・お恥ずかしい。迷惑かけて誠に申し訳ございません」
「いやいいんだよ、平尾くんの働き分がなくなって困っていたけど大打撃まではいかなかった・・・・・・いやはや、それでも結構危なっかしいんだけどね?」
そりゃそうだろう。俺に普段任せてる仕事幾らあるか分かってるだろうあんたなら。普通なら賃金今の1.5倍でもおかしくないやい。と内心毒づきつつ俺はにこやかに受け答えをする。
「私も少し無理しすぎたみたいで・・・・・・有給ここで使わせてください。二年分あわせて20日分残ってますから、取りあえず10日ほど・・・・・・これ以上だとさすがに入院沙汰になって手当せびらなきゃいけなくなりますんで・・・・・・ね?」
聖杯戦争でこれからなにがあるかわからない。もしかしたら戦いがエスカレートして敵がここまで巻き込み覚悟の上襲撃してくる可能性だって、無きにしもあらずなのだ。被害は出来るだけ抑えておきたい。
笑顔の奥に『断ったら週刊誌にたれ込みとして俺の扱いようを告発するぞ』という確固たる意志を込めてやる。
相手は断れまい。
「そ、そうかね・・・・・・非常に困るが仕方ないな」
よし、一週間以上の休みは一ヶ月前から申請しろという暗黙の了解を
「・・・・・・ではまた」
長居する必要もないと俺はエレベーターの方まで戻る。
そこではまったく想像していなかった光景が広がっていた。
「きゃーかわいい!君何歳?」
「・・・・・・あ、えと・・・・・・23です」
「ってことは大学卒業してすぐってことかな?」
「・・・・・・え、あ、はい・・・・・・あの、じ自分陰キャ系なので構わなくって・・・・・・いいっすよ。お嬢、様方ぁ」
マンドリカルドがうちの面食いどもに襲われていたのだ。
確かに目つきが少し鋭い感じがあれど彼は文句なしのイケメンに分類される顔、ついでに若々しいし体も猫背なところを除けばほぼ完璧。
うちの奴が食いつかないはずがなかった。平尾克親、一生の不覚也・・・・・・
もう此方を見るマンドリカルドの目は子犬のように震えている。SOSサインだろうこれは。
「セラヴィをよってたかっていじめないでくださいよ。ほらもう完全に縮みあがってるじゃないですか」
アマゾネスたちを押しのけ俺はマンドリカルドの手を握る。
俺も海以外の女性とはあまり絡むのが得意じゃないのでさっさと退散したい(装いからなにから男にしか見えない海を女と言っていいのかは少し疑問だが)。
「あれ、平尾くんの知り合い?」
「・・・・・・そうです。こんな顔だけど東ヨーロッパ系の外国人なんです。日本語は堪能ですけど文化についてはまだ勉強し足りないっつーわけで俺のところに下宿しながらいろいろしてるわけっす」
かなり雑な説明だがこれで納得してくれるだろうか。彼女たちは設定というものが気になり出すと止まらないから油断ならない。
「ってことは平尾くんと一つ屋根の下」
「日本の文化というものを教え込まれている・・・・・・」
「ちょっと待ってそれ尊い」
なんかとんでもない方向に話が進んだような気がしたのですがこれは気のせいでしょうか。
心なしか彼女たちの笑みが凶悪になったような・・・・・・なんかさぶいぼ立ちそう。
「では私帰りますねサヨナラ!!!」
これ以上いたら精神汚染の危機に瀕しそうなのでマンドリカルドを連れ俺は逃亡した。
危ない橋にツァーリ・ボンバ落としながら歩けるわけなかろう。