Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
「はひーひどい目に遭った・・・・・・」
「おんなのひとこわい、まじこわい。マルフィーザよりこわい」
明海から山名まで戻ってきて始まったこの会話。
生前調子乗って口説いてこっぴどい撃沈かましたあの戦闘狂系女帝マルフィーザより怖いときたか。現代社会のアマゾネスたち、恐るべし。
でかい荷物を抱えつつ俺の横を歩くマンドリカルドの表情はとても重たい。
やっぱりあんま女性と会わせるのは控えた方がいい・・・・・・海も含めて周りにはろくなのいないから。
「まあこれからは買い物以外基本引きこもりってことにするか。最初にも言ったとおり、漁夫の利作戦といこう」
「・・・・・・そっすね。俺なんかこすい手を使わないと勝てませんもん」
またこいつはこういうこと言う。
はいはいと軽く受け流して、歩き疲れた俺は近くの公園に寄った。
喉も渇いたので、スポーツドリンクと炭酸ジュースを一本ずつ自販機にて購入。炭酸のほうをマンドリカルドに渡してベンチに座り込んだ。
「なんすかこれ」
「ん?サイダーのオレンジだけど」
ペットボトルを見つめじろじろ見るマンドリカルド。まさか炭酸初めてとかそういうやつか。
恐る恐る彼は蓋に手をかけひねる・・・・・・そして当たり前のようにぷしゅうと音を立て軽やかに噴き出す二酸化炭素。
「んなぁ!?」
「あぶねっ!!」
驚いたのかそれを放り投げたマンドリカルド。危うく中身を盛大にこぼしかけたが俺がキャッチしたおかげもありキャップ一杯分程度の損失で済んだので間一髪でセーフとしよう。
「す、すまん克親!」
「いいってことよ・・・・・・ひー140円が無駄になるとこだったあぶねえあぶねえ」
服が少々汚れたがこれくらい些事というもの。
受け止めたペットボトルを再びマンドリカルドの手に戻し、俺はスポーツドリンクを煽る。
さっぱりしつつも甘いこの味・・・・・・運動後じゃなくても美味しい。
「・・・・・・そっか、炭酸も飲んだことなかったかー」
「まあそういうことっすね・・・・・・ん、む・・・・・・?なんだこれ口痛っ」
一口含んで飲み下し、マンドリカルドは顰めっ面でペットボトルを睨む。
そりゃ初めてだからしゅわしゅわ感最高とかそういう感覚には至れないよな。うん買い与えるやつ間違えた。
「飲んでりゃ次第に慣れてくるはずだ。まあ、あんま大量に飲んだっていいことないからほどほどにな」
「・・・・・・はあ」
なんだかんだいいつつ美味しかったのか中身をちびちび、あーからっ!とか言いながら飲んでいくマンドリカルド。
やっぱり人間炭酸をからいと表現するもんなんだなあと感慨深かったり。
「げふっ」
「結局500ml飲み干したか・・・・・・」
背中をさすってやると連続で二酸化炭素を吐き出すマンドリカルド。そりゃあそうもなるわ。
「あー苦しい、旨かったけど苦しい」
彼は腹をさすって一息つく。このまま歩かせても可哀想だし、しばらくはこのままでもいいか。
俺も背もたれに寄りかかり、大の大人が二人してベンチを占領する・・・・・・子供もいないし今だけは許される行為だろう。
「・・・・・・そーいやお前、23とか言ってたけどあれほんとか?」
会社のアマゾネスどもに絡まれていたときそう言っていたが・・・・・・よくよく考えてみれば俺はマンドリカルドの年齢を知らない。
記憶としては生まれてから死ぬまでのものを保有しているが、肉体年齢はその英霊の最盛期と言われるだけでわからないのだ。前に40歳はいってないとか語ってたのは覚えているが。
「体は一応20代っすから・・・・・・まあ、その辺は適当に言っちまったっす」
「ああそう・・・・・・疑われなかったら別になんでもいいんだけど」
俺がちょうど25歳だしそれと比べりゃあマンドリカルドはほんのり若いかなってくらい。
学生っぽさを少しだけ残しつつ大人らしさもある、4年制大学卒業後すぐくらいの23歳としてはとても自然な状態・・・・・・
つまり簡単にいいますと、ナイスだ我がマブダチよというわけである。
「んじゃあ歴史系の学科卒でイリアスとかの研究してたってことでいっか。ヘクトールのことバレないくらいにあつーく語ってもいいぞ」
「へぁ、いいんすか!?」
あ、なんかスイッチ入った。
「ヘクトール様はっすね、トロイア戦争におけるスーパー大英雄!人類と俺、つか地球に生きるすべてのものが尊敬する九偉人が一人!俺みたいなちんちくりんには到底及ばない知略と武勇を兼ね備えたトロイアの王子でアカイアを敗走寸前まで追い込んだとんでもなくすごい方なんですよ!!その上ぇ、戦いの場から離れれば一転良い父親かつ夫で戦争に負けたときアンドロマケー様とアステュアナクス様の身を案じていたとの話もあります!!いやあもうねぇ俺なんかとはぜんっぜん違う正真正銘の英雄ですよ英雄の王たる人物ですよぐへへ!そんでもって?パリで作られたトランプの絵柄でダイヤのジャックはヘクトール様がモデルだそうですし!?それのおかげで俺の服もめちゃくちゃダイヤ意識した格好にしちゃいましたしぃ!?あと生きてたときは別に嫌いでもなかったけどルーアン版トランプでダイヤのジャックになりやがったオジェのクソったれはほんと嫌い5回くらい殺すマジ殺すッ!!」
押してはいけないものを、俺は押してしまったらしい。
オタク特有の早口というものなのだろうか。
アナウンサーの技術試験だけなら一発で通るんじゃねえのっていうくらいの滑舌と音量・・・・・・人生をかけて推しの遺品を集めようとしたファンというものは末恐ろしい。気持ち悪いとか言ったら撲殺間違いなしなので口が裂けても言えない。
「まあそのノリで頼むわ、うん、な」
「なんなんすかそのどん引き丸出しな態度!!」
頬をフグみたいに膨らませて怒るマンドリカルド。病院でやったようについ俺はまた、手で両側からほっぺたを押してしまう。
口の中にあった空気がぽひゅっと軽く抜け、次にやってくるのは沈黙・・・・・・さすがにキレさせちまったか。
「どうせ俺はキモオタですよ、同担拒否勢のガチオタっすよ、軽蔑してください侮蔑してくださいこんな人間のくず」
「いやそこで普通落ち込むか!?」
普通キレ散らかして俺に殴りかかってきてもいいくらいだろこの状況。
なんでまたこいつは自分が悪いんだばっか言い出すんだ・・・・・・なんかおかしいレベルだぞ。
「あぁら、こんなところで白昼堂々痴話喧嘩?こんなところでうるさく振る舞われてはたまりませんわ!」
なんか話に水を差してきたのは見るからにお嬢様っぽい金髪の女の子。
横には小柄めな執事らしい男を侍らせており、いかにもという雰囲気・・・・・・
『・・・・・・克親。あそこの男、サーヴァントだ』
マンドリカルドから入ったのはそんな念話。
こんなところで戦闘となると注目を集めかねない・・・・・・隙を見て逃げた方がよいだろうか。
「・・・・・・あんたは」
「知りません?私はナデージダ・ユーリエヴナ・シトコヴェツカヤ・・・・・・呼び名はナディアとでも」
シトコヴェツカヤ(男性用の姓で言うとシトコヴェツキー)・・・・・・舞綱に根を降ろす魔術師一家の名だ。山名地区では俺の家と司馬田の家、そしてこいつの家が大きな魔術師家とされる。
俺が知っているのは前の当主。彼女の名前から察するに先代だと思うが・・・・・・
「つかなんで関西弁?」
「そこ今つっこむところじゃないですわダボ!!タイミングというものを知らないのですかあんたは!!」
お嬢様のはずなのにものっそい汚い言葉で罵られてしまった。
シトコヴェツカヤ家の教育はどうなっているのだろうか・・・・・・
Q.やっぱりこの作品の登場人物にまともな人はいないのですか?
A.(基本)いません。