Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
哀しすぎて汝、星を鋤く豊穣(スクリーム・エレウシス)打てそう
47話 五日目:願い
唐突に目が覚める。
辺りはすでに真っ暗で、月明かりだけが差し込んでは部屋を照らしていた。
壁に掛かった時計を見ると午前1時・・・・・・どうやら、6時間程気絶していたままだったらしい。
「・・・・・・あれは、夢か」
これがおそらく『サーヴァントの記憶を共有する』現象なのだろう。
マンドリカルドの中に強く残っている出来事・・・・・・人生の転換ポイントや今際の際を見て、俺は少し申し訳ないような気持ちになった。
仕方ないことなのだが、人の思い出を覗くというのは些か悪いことのように思えるからだ。
乱れた髪を手のひらで制しつつ、俺は体温できっちり温まった布団から起き上がる。
あのゲイ・ボルクによってつけられた肩の傷はまだじりじりと痛むが、剣を貫通させていた腹の傷や、半ば地面に叩きつけられたことで骨に入ったであろうひびはすべてなくなっていた・・・・・・おそらく、海の奴が珍しいことに気を回して治してくれたのだろう。
「あいつもなんだかんだで世話焼きじゃねえか」
首を鳴らしてからもう一度寝転がる。
ふと隣を見ると、まるで胎児のように丸まって眠りに落ちる彼の姿があった。
自分の殻から出られないその深層意識の現れ・・・・・・なのだろう。
「お前の記憶・・・・・・見ちゃったよ」
天井を見ながら呟いた。
彼が原典でなぜああも粗暴な人格だったのに今こんなことになってるのかがよーくわかった気がする。
そもそもの性格は今と同じようなかたちであったのだ。
あの傲慢ちきなあり方というのは弱々しい自分を隠蔽し、強い王として君臨するためでしかなかった、というわけ。
そして最後の最期で、その選択を後悔して。
出来なかったことをしたいと願って、英霊になって・・・・・・
「・・・・・・なあ、セラヴィ。お前の夢って、なんなんだ?」
ふと思い浮かんだ言葉を漏らす。
聖杯にかける願いを聞いていなかったこともあるが、ただ純粋に知りたくなったのだ。
彼はなにを望んでこの戦いへ参加することを決めたのか。性格からして『聖杯とかどうでもいいし、とにかく戦いたいから来ただけだ。だからサーヴァント殺させろ』的な純粋なる戦士というか戦闘狂なんてことは絶対にないから、必ず願いがあるはずなのだ。
「俺はまあ、根源にたどり着きたいっちゅう魔術師にありがちな奴なんだけどさ。正直言って聖杯で叶えるのも味気ないって思うんだ。だから・・・・・・もしも俺たちが勝てたんなら、何でも願いを叶える力・・・・・・お前に全部譲りたいんだが」
結局言わないつもりでいた、『俺は聖杯なんて別にいらない』という話をこぼしてしまった。
もうこうなったら全部ぶちまけてしまおうか。どうせマンドリカルドは寝てるし。
「俺、魔術師としては破綻してるんだわ。科学も普通に利用するし、魔術も手段として使うし、生け贄は使わない。いわばアウトロー連中の一員でさ。何を犠牲にしてでも根源に行きたいとまでは思えねえんだ。ちゃんちゃらおかしいだろ」
大きな独り言。
彼に聞かせているというていで語ってはいるが、結局のところ自分に向けて言葉をぶつけている。
「俺は聞いてみたかったんだ。お前は・・・・・・何を叶えたくて、この戦争に身を投じた?」
まあ、寝ている相手にそんなことを言っても意味はないなと莫迦な自分を笑う。
こんなおふざけもたいがいにしなきゃなと思いつつ、俺は布団の上で一つだけ伸びをした。
「・・・・・・マスターを最後まで守り抜けるような、立派な騎士になりたいから」
いきなり聞こえてきた答えに俺はぎょっとして彼の顔を見やる。
いつの間に目を覚ましていたのだろうか。マンドリカルドは俺の方を見つめて、照れくさそうに・・・・・・そして、どこか物憂げに笑っていた。
「いつから起きてたんだよ」
「俺の夢が、なんなのかって聞かれた時からっす。黙っててすんません」
俺の盛大な独り言が全部聞かれていたのかと思うとめちゃくちゃ恥ずかしいが、まあこれに関しては気づかなかった俺が悪い。
「難しいっすかね。俺みたいな、特別な力も持ってない物語の脇役には・・・・・・やっぱ」
また前に見たような暗い顔をしてマンドリカルドがそう言い、苦笑した。
・・・・・・そんなわけは、ないに決まっている。
あのときぽろぽろと涙を流せた人間が、誰も守れないわけなんてないのだ。
難しいわけない、むしろ簡単だと言ってもいい。
「・・・・・・できるに決まってんだろ、お前なら・・・・・・絶対に。友として、俺が信じてやる」
ああ、なんかこっちまで恥ずかしくなってきた。
こんなくっさいセリフそう簡単には吐けないものだが、マンドリカルドの前ではつい口から飛び出してしまう。
一度射出した音は戻せないし、それが認識されたら最後、いくら訂正したとしても俺がそう言ったという事実は変えられない。
「・・・・・・あ、あの、俺は・・・・・・まだ友っていうものがわかりきってないし、生きてたときにいなかったから慣れてないし。だ・・・・・・だから」
布団から出て何をするつもりかと思えば、マンドリカルドは俺の左手を取り片膝を立てて跪く。
「今はもう少しだけ・・・・・・あんたの騎士で、守護者でいさせてくれませんか」
ちゅ、と小さく音が立つ。
俺の手の甲に浮かぶ、一画も消えていない令呪へと・・・・・・彼は口づけをした。
俺はどこぞのお姫様でもないんだぞと言ってつい笑ってしまうが、内心ものすごく嬉しい。
「・・・・・・いいぞ。許すから、少しずつでいいから・・・・・・友達になろうな」
「・・・・・・ああ。永遠に変わらぬ忠誠と、親愛を誓うっすよ。マスター」
一瞬で顔を茹で蛸の如き赤に染めて、声を細かく震わし彼は告げた。
言うことを聞かせるために使う令呪なんて必要ない、俺はマスターであるお前の意志にすべて従うぞという決意の表現なのだろう。
のどの奥が少しだけ熱くなる。漏れそうな嗚咽を抑え込んで、俺はおもむろに起き上がってマンドリカルドの体を抱きしめる。
あたたかくて、どこかなつかしい。まるで、夙に一緒だったような。
漠然とした感情が浮かんでは沈んでいく。
もしかしたら。
────あの日俺は、運命に・・・・・・出会ったのかもしれない。