Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
かわいいですレイド戦でバフ盛って宝具乱射の大暴れが楽しいです
そもそも俺なんかが召喚に応じたのが間違いだったと今更思う。
マスターは俺のことをロジェロとかより扱いやすいなんて言ってくれたけど絶対嘘だ。
何回も俺が座に帰ろうとするからそれを止めるための出任せだ。
どうせ内心では国を救った英雄みたいな奴じゃなくてがっかりしてるんだと思うと、なんか泣きたくなってくる。
「だめだだめだ、もうこんな考えやめるって誓ったんだ」
鎧を実体化させるために編んでいた魔力をほどいて、俺の周囲30cmくらいまで拡散させる。
そんでもってベッドの上で綺麗に畳まれていた毛布に頭までくるまってみた。
「・・・・・・はぁ」
ほのかに花のような匂いが漂う内部空間。俺のいた時代より何千倍も肌触りはよくあたたかい。
これならすとんと軽く眠れそうだと思ったが現実はそう簡単にはいかないものだ。
考えないようにしようと心の内で別の物事を考えていても、すぐに元へと戻ってしまう。
自分の能力パラメータへの不安、信頼関係が築けるかという不安、宝具の不安。
何度も何度も俺の胸と額を刺すように巡る悩みが消えない。
俺はなにも出来ない。
先王であった父をむざむざと殺されて、国を捨てて、人のものを奪って、いちゃもんつけて決闘して、殺されて。
ほんの少しだけあった武勇も、九偉人の装備品を受け継ぐ者としての矜持も・・・・・・あのとき全て捨ててしまった。
弱くて馬鹿で無駄に尊大で・・・・・・そんな情けない自分はもう必要ないと思って、俺は無理やり変わったのだ。
過去から逃げるように、全部忘れるように。もう二度と繰り返さないように、戻らないように。
「・・・・・・生まれ変わりたい」
全ての記憶をリセットして1からやり直したい。デュランダルの正当な所有者として召喚される方法を知りたいという願いもあったが、今じゃこっちの方が優先度が高いのだ。
そのためなら自分の生きた軌跡や名なんてものは消えていい、むしろ消してしまいたい。
それほど、俺は俺が大嫌いだった。
目覚ましのでかい音が鼓膜を連打する。
毛布で作った繭から手だけ突き出していつもの場所をふらつかせ、四角い塊を掴んだところで手のひらを使いボタンを押す。
一連の動きでいつもならすっきり目覚めているのだが、さすがに今回ばかりは意識がはっきりしない。
このままだれていたら二度寝タイムのスタートが来てしまうので、何とかブラックホールベッドから抜け出して一つ背伸びをした。
「・・・・・・7時30分か」
3時間ほどしか寝ていないがこれでくたばっていちゃあ魔術師なんてやってられない。
服だけ着替えて洗面台まで向かい、取りあえず冷水を手ですくって顔面に叩きつけた。これで否が応でも目が覚める。
「ふぁああ・・・・・・あー朝飯作らな」
手と顔をタオルで適当に拭いて、アコーディオンカーテン一枚で仕切られているキッチンへと移動する。
昨日の晩飯の残りである鶏の照り焼きをレンジで温めながら、フライパンを取り出し油だけ引いて加熱。
卵を溶きながら6枚切りの食パンを2枚トースターへ投げ入れダイヤルを捻る。
いつもならちゃんとした卵焼きを作るのだが今日に限っては簡略化してスクランブルエッグと炒り卵の中間体を作って皿にドン。
粉スープのもとをマグカップにばさあと移して熱湯を注ぐだけで羮は完成とお手軽。いい時代になったものだ。
「もうサラダは菜っぱむしるだけにすっか」
半分だけ残っていたレタスを一回湯に浸し復活させたところで適度な大きさにちぎり器にねじ込む。
それだけじゃさすがに寂しいのでミニトマトを半分に切った奴を計4個分散らしてシーザーサラダ用ドレッシングをなんとなくかけて完成。
こんな粗末な飯ではあるが怒らないといいなあ、なんて考えながら俺はマンドリカルドを呼びに部屋へ足を運んだ。
「マンドリカルドーごはーん」
「・・・・・・あと・・・・・・5分」
典型的な睡眠の魔力に憑かれた人間の言葉である。
二度寝は体に良いという話もあるが今それをされたらせっかくの飯が冷めてしまうというものだ。
というわけで何としても起こさねばならない、俺の戦いが始まる。
「朝飯作ったから食えーほら起きろって」
「・・・・・・もうちょっと・・・・・・だけ」
駄々っ子か貴様は、と叫びたいのを我慢して俺は毛布虫を解体しにかかる。
毛布にくるまっている以上どこかに布と布の境目があるのだからそこから手を突っ込んで引っ剥がせば問題はない。
「俺のフィルダウスがぁ・・・・・・」
「高級品でもない毛布で最高位の庭園扱いってどういうことだよ。寝ぼけてないで早く起きろっての」
死んだ魚のような目をしている彼。こんなので夜間戦闘や奇襲に対応できるのかが不安で危なっかしく思える。
まあ今は魔力のパスが100%の機能を発揮していないぽいのできっちり完璧に起動すれば大丈夫だと考えられるけども。
「言ってたとおり大したもんじゃないが」
食卓まで連行してきて俺はマンドリカルドを椅子に座らせ、向かいの椅子に自分も腰を下ろした。
テレビのリモコンがあるが、今はつけて食うような雰囲気ではないだろう。
「十二分に立派っすよ。こんなの俺が食っていいんすか」
「いいに決まってんだろなーに言ってんだよ」
またマンドリカルドの俺はこれに見合わないんじゃないかやっぱ帰ろうかな症候群の発作が起きそうだったので、無理やり箸を握らせうやむやにしてしまう。
コップに浄水器の水を8分めまで入れて、机の上にことりと置いた。透明な水面が揺れる様はいつ見ようが美しい。
「いただきます」
「・・・・・・いただきます」
これ以上食べる前にうだうだ言わせまいと挨拶だけして俺は朝飯を口に詰め込む。
昨日の鶏肉は一日置いていたおかげか味が更に染み込み、語彙力を無にして言うが旨い。
「・・・・・・早っ」
ふとマンドリカルドの方を見ると、俺が半分くらい食べ進んでいた時点でもう完食されてしまった。
つい俺基準で量を考え単純に二倍量作っていたのだが彼がそれなりにほっそりとした体型に反して大食漢であるという可能性を想定していなかったのだ。
「あ、すんません・・・・・・ペース合わせるべきだったっすか?」
「いやんなこたないけどさ・・・・・・量足りてるか?こんなんじゃ俺の胃は満足さんにならねえぜってことない?」
「ないっすよ、俺食べるの早いだけなんで。おいしかったっす、ごちそうさまっす」
彼の笑顔をきっちり見たのは今が初めてだったか。
つり眉が垂れ、にこやかに笑うその様はなんだかとてもさわやかである。
・・・・・・なんだか、彼をこの先戦わせることで苦しませると思うと使役するのがなんだかやりづらくなりそうだ。
でも俺はサーヴァントをただの駒としては見れない性分なのでどうしようもない。
「・・・・・・うし、ごっそさん。もう出ようと思うから、一応霊体化の試運転とかしとけ」
「了解っす」
目の前でマンドリカルドの姿が霧散するように消えた。
俺とはパスがつながっているのでなんとなく”そこにいる”のがわかるが、普通の人間が見たらまずわからないだろう。
他のサーヴァントは個人差こそあれど気配で察知できるようになっているらしいし、洗礼なんたらをこの状態で使われたら危険だということも知っている。
誰の前でなら霊体化をさせるか・解くかの判断が重要になってきそうだ。
「おし、問題ないな・・・・・・まあ今日は霊体に大ダメージ与える手段持ってる奴のとこに行くから実体化しといた方がいい。ついでに俺のよく行く店とかにも紹介しておいた方が良いだろうからな」
「教会の人って監督役だろ・・・・・・?」
監督役が攻撃なんてしてくるのか、という疑問を抱いているようだが確かにその考えは正しい。
普通の監督をする神父ならちょっかいは加えてこないのだが、この区域というか今回の奴は他と違うのだ。
「あいつは自分が楽しけりゃ平気でルールブレイクしてくる輩なんだよ。だから用心しなきゃ駄目」
俺の部屋までマンドリカルドを連れて行き、そこらへんにいそうな大学生くらいの男子服を誂え着替えてくれと頼む。
背格好が俺と似通っててとてもありがたい。ムキムキだったら新しく買わなきゃ駄目だったから。
「武装は何時でも出せるか?」
「うっす、鎧出したら多分服粉々になると思うけど大丈夫っす」
「おい」
実際にやらかす前に言ってくれたからよかったけどなんでそんな大事なことさらっと言ってくれてんだか。