Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
なんで主人公に苛烈なんですかね(あんたのせいだ)
「人ん家でちちくりあうなボケ」
しぺーん、と業を煮やした海が襖を開けて叱責してきた。こっちはいたって真面目なことをしているってのに、失礼なやっちゃ。
「いかがわしいことはなんもしてないんだが。邪魔すんじゃねえ」
「サーヴァントを半裸にして胸をまさぐってる光景がいかがわしくないというのなら、お前はそーとーおめでたい頭してるぞ」
まあ俺は事情知ってるしいいんだけどな。と付け足して、海は無造作に包装を剥いたキャンディを加えた。
確かに何も知らない人が見りゃ妙齢の男子をひん剥いて襲ってるように見えなくもない・・・・・・とは言えこれに関しちゃどうしようもない問題だ。どう触れば健全に見えるってんだよ。
「あとお前もなあエロい声出すな。襲うぞ」
デリカシー0か、というツッコミを入れる余地すらない。
「じょ、女性の方から来られるってのはさすがに未経験なんで勘弁してくださいっす」
「女扱いしてくれなくて結構。どうしても続きやりたいなら口の中に靴下でもねじ込んどけ」
「・・・・・・わかったよ」
ったく、と呆れた顔をして海は踵を返し出て行った。
水差し行為のうまさになんか冷めてしまったというかなんというか。今度からあいつピッチャーって呼んでやろうかな。
「・・・・・・ま、家主にああ言われた手前続けるわけにもいかねえよな」
マンドリカルドの下着を元に戻し、俺はため息をひとつ。
聖杯戦争の記録などを忘れる前に書いておきたいところなので、一回家に戻りたい・・・・・・これから海を匿うことを考えると、むしろあいつを向こうへ連れて行った方がいいような気もするのだが。
「セラヴィ、一回俺の家戻るか。裏山の林から適当に木切って剣も作っときたいだろ」
「そっすね・・・・・・あれも魔力で一応編めるとはいえ、すぐ折れるからコストに合わねえっつう感じですし」
そうと決まればって訳で、俺は服を着直し司馬田家を出ることにする。
奴には一応戻るという旨を言っておいたがついてくる気はないらしいので、ほっぽって行こう。
「・・・・・・それにしても、今の戦況はどうなってるんだろうな」
バトルロワイアル形式の戦いなのだから、こちらが知らない領域で戦闘が進んでいるのは間違いない。
問題はどうなっているか把握しきれないということだ。
あんだけ煮え湯を飲まされたバーサーカーだって、他のサーヴァントに消されている可能性があるわけだし・・・・・・そうとなるとリベンジのチャンスが失われるので歯痒い。やっぱりやられたらやり返したい性分なので、奴らだけは俺たちの手で始末したいのだ。
「どうなんすかね?俺に偵察能力とかがありゃ把握できるんすけど・・・・・・残念なことにそういうのは向かぬぇーもんで」
「それは仕方ない。いくら身分を隠して云々って逸話があったとて、アサシンじゃねえんだから」
俺らは愚直にやってこうぜとマンドリカルドの肩を叩き、家へとつながる坂を登っていく。
まだまだ春だというのに気温は高く、じんわりと汗までかきそうだ。
風で乱れた髪を指先で戻し、再び前を向く。
・・・・・・そこには、セイバーが立っていた。
「・・・・・・セイバー、こんな時間にやり合うつもりか?」
「いやいや、そういうわけにもいかないでしょ。オジサン、警察に追われるようなこたやりたくないんでね」
マンドリカルドとセイバー、どちらも武装はしていない・・・・・・が、いつ戦闘に入るかわからないため、俺は一応いつでも武装出来るようにと念話でマンドリカルドに通達する。
了承を意味する言葉が返ってきたので、俺は一歩後ずさり、半身をマンドリカルドの後ろに隠した。
「そんなに警戒しなくたって大丈夫大丈夫、今日は戦うつもりで来てないから。オジサン嘘言わない」
ほら手ぶらだろと両手を顔の横でひらひらさせるセイバーだが、なんか完全な信用はできない。
必ず言葉の裏に何かを含ませているように見えるので、俺はあくまで後ろにいるままにしておく。
「・・・・・・じゃあ、今日は何の用で来たんすか」
「なぁに、マスターのご命令でちょいと警告に来たのさ」
にこやかな笑みをセイバーは浮かべるが、やはり何か怪しい。情報をわざと与えて攪乱狙いか、それとも・・・・・・
「マスターの命令マスターの命令って、随分と従順なんだな」
「サーヴァントってのは、だいたいそういうもんだろ?そりゃ、お前さんらのようになかよーくするのも悪かないがね・・・・・・どうせ、最後には切り捨てられるべき存在なんだから」
間違ったことは言っていない。
6騎のサーヴァントを倒して聖杯戦争に勝ったとしても、根源に到達するための穴をあけるにはサーヴァント7騎が必要。
つまり、最後の最後に勝利したマスターは自らの手でサーヴァントを殺さなければならない。
とはいえサーヴァントと正面から戦っても勝ち目はない・・・・・・だから、令呪があるのだ。
マスターが最後にサーヴァントを令呪で自害させるのが、この戦争のセオリー。
だが、俺はそんなことをやるつもりはない。
「お前のところはそういうもんだと思うがな、俺らには俺らなりの考えってのがあるんだよ。勝てたとしたらの話だが、俺はライダーの願いをちゃんと叶えさせるつもりだ」
「おー立派なマスターで何よりだ。お前さん、よっぽどいい奴を引いたな。オジサン、羨ましいよ」
笑顔を剥がさないセイバー。羨ましいとは言ったが、彼の目にそんな感情は見られない。
底の知れない男はやはり信用できない。早いこと会話を切り上げて帰りたいところなのだが・・・・・・
「ま、それについてはどうでもいい。こっちの言いたいことは他のこった・・・・・・ライダーのマスターよ。お前さんの会社、結構危ないことになってるぞ?・・・・・・じゃ、メルクリウスの真似事は終わりだな。あばよー」
セイバーが一瞬で霊体化し、そのままどこかに消えていく。ヘルメスではなくメルクリウスという名を使ったあたり、彼はローマ神話を知る人間なのだろう・・・・・・
マンドリカルドにちゃんと彼が去ったことを確認し、俺らは一度路上会議を始めた。
「会社が危ないってどういうことだ、まさか魔力のために爆弾か何かを設置して社屋もろとも破壊的な」
「その可能性は高いっすね。あいつの言葉を信じれば、っすけど・・・・・・どうします、一回釣られてみるっすか?」
罠の可能性もあるが、社員の命が危険に晒されるという話を聞いた以上看過はできない。いくらこき使われようと大事な居場所ではあるのだから。
「そうするしかないな・・・・・・セラヴィ、こっから勤務先まで走れるか?」
「敏捷Aを舐めないでくれっすよ!」
軽々と俺を抱きかかえ、マンドリカルドはとんと軽くかかとを鳴らして走り出した。
俺が強化魔術をかけただけなのにその速度は乗用車を軽く越えてもおかしくないレベル。ついさっき無理はさせないと言ったのに情けない話だ・・・・・・本人は全然大丈夫そうなのが唯一の救いでもあるが。
「人ん家の屋根とか乗っても逮捕されないっすかね?」
「猫がいくらでも乗ってるしさすがに大丈夫だろ、たぶん!」
「じゃあ上行くっすよ!」
右足で強く踏み込んだかと思うと、人間じゃああり得ないほどの跳躍をして二階建ての家にある屋根に乗った。
これを見られたらさすがに彼が超常的な生き物だとバレるところだったが、周りに人がいないのでセーフ。俺の認識阻害魔術をかけてそのまま走らせる。
「そんじゃまあやりますか・・・・・・っと!」
そうして俺たちは、一瞬の風になった(息は苦しい)。