Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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伏線の張り方へたくそすぎて泣きたくなる今日この頃()


53話 Interlude:”わたし”

マスターの手を骨折させないようになんとか剥がす。

一体何が起こったと言うのだ。俺の方には何もなかったのに。

 

「マスター・・・・・・」

 

それでもなお俺の首へと手を伸ばす彼の腕を掴み、押さえ込んだ。

噛まれた跡がまだ、じりじりと痛む・・・・・・

まさか、宝具がマスターにも普通に作用するだなんて思いもしなかった。こうなったら狂乱のままに令呪で変な命令・・・・・・最悪の場合自害すら命じられる可能性がある。

それは何としてでも避けたい。あのナディアとかいう奴はマスターに恨みがある、護衛たる俺が消滅し戦争に負けたとすればマスターは殺されてしまうだろう。それを想像しただけで怖気が走るのだ・・・・・・彼との約束を守れないし、俺の願いも叶わない。

だからあいつをどうにかして止めるべきだ。そのためなら腕が何回千切れようとも、消し飛ぼうとも構わん。

 

「・・・・・・ちょっと夜までは早いっすけど、今は寝てくれ。マスター」

 

軽めにマスターのあぎとへ衝撃を加え、意識を奪っておく。

バックアップを受けることは完全に不可能となったが、起こしたままにしといても結局見込めないので別にいい。

さっさと勝負をつけねば。

 

「愚行よ!あんたのマスターがかけていた魔術が今ので切れてしもーたし・・・・・・また、狂いたいようやね!」

 

「・・・・・・”わたし”はもう、生きていたときから狂っていたさ」

 

口が、勝手に動いた。

 

「・・・・・・そう。それならもっと、あんたの記憶も何もかも乱すだけのこと」

 

「”わたし”には・・・・・・何もない」

 

主導権が全てなにかにかっさらわれる。

ふわふわと浮いていたはずの体は見えもしない地面を踏みしめるように立ち、ナディアとバーサーカーを静かに見据えていた。

あのとき俺と会話した誰かと同一のものということはわかるが、どこか変質しているように思える。

一人称も違う上に、感じるイメージが違う。

あのときのものはもう少し自信ありげだったのに、今の奴から感じるのは底なしの虚無だ。

言葉の通り、虚ろで何もない。同じ名と役割だけを冠した、”無”そのもの。

 

「すべてを喪って、すべてを棄てた。”わたし”は無責任ながら人としてのあり方を他に任せて・・・・・・専念する事にしたんだ」

 

このとき、俺は知ってしまった。

俺の奥底にある、誰にも言えやしない小さな小さな空想は、絶対に叶えられないものであると。

 

 

再び拾った鎌を持って、バーサーカーに飛びかかった。

幾千と襲ってくる精神を狂わす光弾を真っ向から食らうが何もなかったかのように突進を続ける俺の体。

何も存在しないから、どれだけ乱れようと結果は必ず虚無のまま。

 

「消えろ、”人としてのわたし”を苦しめた罰だ」

 

「令呪をもって命ず!バーサーカー、規定座標へ退避!」

 

令呪を発動し、例外的なほぼノータイムでの転移が始まる。

ここにきて取り逃すのか、と思ったが────。

 

「行くなら止めんが、折角だし手みやげはやるさ。たぁんと・・・・・・持って行くがいい!」

 

ざん、と大鎌が横薙ぎに振るわれる。

その軌跡はバーサーカーの肉体を真っ二つに切り裂き、ナディアの腹部にも大きな裂傷をつけた。

第二波をよこす前にバーサーカーには消えられたが、それでも結構な損害にはなったことだろう。

ナディアも2秒ほどでその場から消える・・・・・・どうやら置換魔術の類で転移したらしい。

空間全体を包んでいた闇は一瞬で霧散し、景色は元のビル街へと戻った。

この場所にいるのは俺と、昏倒しているマスターのみとなる。

 

「・・・・・・あそこでマスターを気絶させてくれたおかげで、”わたし”が出やすくなった。よくやったぞ」

 

晴れ渡った春の空を見上げ、彼は独り言のように呟く。

 

「あんたは、昨日の夜の?」

 

「ま、そういうことだな。別個の霊基を持って現れることもできない、マンドリカルドという英霊のいち側面・・・・・・とでも思っておいてくれ」

 

つまり、それ単体での召喚すら叶わぬマンドリカルド・オルタというわけか。

正直言って生前のクソ人格な俺が出てこないかとヒヤヒヤしていたが、彼は温厚そうな人格で本当によかったと胸をなで下ろす。何らかの手違いで俺とクソ人格オルタが鉢合わせしたら、向こうを死に物狂いで殺して俺も自害するつもりだったし。

 

倒れたままのマスターを抱き起こしたかと思うとおぶって、軽々とビルの屋上から飛び降りる俺自身。

こんなところ誰かに見られたらまずいだろうという俺の声も無視して地へと降りたち、そのまま人に視認される前に走り出し消える。

俺よりもひどいごり押し過ぎる神秘の秘匿方法に我ながらため息が出た。

 

「これはマスターには内密で。一人の中に二人いるってジキル博士とハイドでもあるまいし、マンドリカルドの伝承にもそんな話ないから疑われるだろ?」

 

「・・・・・・わかったっすよ、あんたのことは秘密ってことで」

 

それでいい、と奴は笑い話を続けた。

今回のように俺が出たままだと本格的に不可逆性の狂化をかけられ取り返しのつかない事案に、というのを回避するために表出しただけであって、そうそう容易には来ないとのこと。

一種の最終防衛機構として考えた方がいい。

そんでもって俺と区別するためにも、一応別個名を考えた結果裏を意味するフランス語、『デルニエール』を省略してデルニということにしておく。オルタ呼びはなんかしっくりこなかったというか、なんというか。

 

「あんたは、何のために俺を?戦闘なら俺よりずっと優れてるはずなのに」

 

「・・・・・・”わたし”より、ずっとお前は・・・・・・うまく、人と共に歩むことができるからだ」

 

どういうことだと聞いてもはぐらかされるばかりでなんだかもどかしい。

俺のような陰気サーヴァントが、うまく人と共に歩めるものか。

 

「マスター・・・・・・克親と、最後まで生き延びること。それが、お前の使命だ」

 

俺のすべてに浸透させるような声が響いた。

自分に与えられた使命、存在意義、生きる意味。

正体も確信は出来ないような存在だけど、彼の言うことは自然と信用できた。

復讐心に取り憑かれローランを殺すということを使命と勘違いした挙げ句の果てに、無意味な死を遂げたあのときの俺とは違う。

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