Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
一応令呪は確認しておけ、と言うわけで渋々俺は顔の向きを戻す。
確かに彼女の胸部には赤い紋様がきっちり浮かんでいた。モルフォ蝶のような形をしていて、左右の羽と胴体で計三画きっちりとある。
「・・・・・・じゃ、俺のも見せとくか」
左手の甲にある目のような令呪を見せた。これまで何度もマンドリカルド相手に令呪使うからな使うからなとしておいて結局は一度も使っていない。
限られた魔力のリソースとして、出来ればギルガメッシュ戦までとっておきたいものだ。
「確認したところでだが、まだ出せる情報は残ってる。バーサーカー・・・・・・奴は、ボストーク1号に登場して宇宙に到達した最初の人間・・・・・・ソ連のユーリ・アレクセーエヴィチ・ガガーリンだ」
物理攻撃を一切行わず精神干渉ばかりしてきたのも、軍人としてではなく宇宙飛行士としての側面が強く出た結果だと考えれば納得できる。
労働者階級の英雄というガガーリン像がロシアだけでなく日本でも根付いているせいだろう、大佐にまでなったのに火器の類を全く見せてこなかったのは。
「ほー、そんな近代の奴が召喚されるなんてなかなか珍しいんじゃねえか?1960年とかそこらってぇと・・・・・・」
確かに100年も経っていない。
1869年までとされる幕末に生きた人間がサーヴァントとして召喚されたという例はあるらしいが、戦後の英雄ともなると初耳だ。
それほど人類史に強い跡を残した点でいえば座に登録されていてもおかしくはないのだが、どうしても珍しく感じてしまう。
「マスターの方がそれなりの干渉をしたってことも考えられるっすよね。触媒さえあればある程度呼べる英霊も絞れるし」
「そりゃそうだよな。ましてガガーリンなんて近代の英霊、宇宙服やらソ連邦英雄勲章やらの触媒を手に入れるのは苦じゃないだろうさ」
費用の観点を無視すれば、という話ではあるが。
シトコヴェツカヤ家は俺ん家と同じくらいの金持ちだったはずなのでそんくらい落札していてもおかしくはないと思う。
それにしてもロシアの英霊を呼ぶのであればもっと軍事寄りの人間がいたと思うのだが・・・・・・例えばヨシフ・スターリンとか、ゲオルギー・ジュコフとか。
「えっと・・・・・・触媒ってのを使ってわざわざ呼んだとすると・・・・・・なにか、意図があってのことなんでしょうか」
「意図・・・・・・ねえ。最初の宇宙飛行士・・・・・・でもシトコヴェツカヤ家の魔術は天体科と関係はなかったはず。時計塔でいう植物科のほうが近かった」
ちなみに俺は時計塔でいうところの全体基礎科、海の奴は鉱石科というところだろうか。
なお時計塔との関係は二人してほぼない。時たま俺がなぜか創造科のロードに絡まれるくらいである。
彼女はたしか民主主義派で、幾度か話を聞いてると俺のスカウトをしたいとかなんとかだったような・・・・・・正直言って俺は人の多いところにいるのが好きじゃない。魔術師でいる時は出来るだけひとりで自由に振る舞いたいのだ。
「もしかしたらの話だが・・・・・・あのマスターは宇宙に干渉できるかどうか賭けたんじゃねえか?サーヴァントの宝具なら時計塔の天体科も真っ青な事案だって普通にやらかすかもしれないし。まぁオジサンの妄想だけどね」
「・・・・・・無きにしもあらずだな」
神霊に近い英霊ならば普通に空間を歪めることだってあるだろう。半神半人のギルガメッシュも異空間に格納している宝具たちを出しているのだし、インドあたりの英雄なんて国を焦土にするくらいは朝飯前で下手すりゃ時間の概念すら破壊しかねない。
完全な人であるバーサーカーにそんな芸当が出来るのかと言われりゃ難しいかもしれないが、可能性は0じゃない。
だがシトコヴェツカヤの令嬢がギャンブルに手を出すとは思えん・・・・・・なにか、確証があるのかもしれない。
「それなりにヤバいブツを隠し持ってるかもしれないな・・・・・・精神どころか霊基すらめちゃくちゃにされる攻撃も危険だから、出会ってもすぐ逃げたほうがいい・・・・・・来栖さんも気をつけて」
「あ、はい!きっききききき気をつけます!」
会社で見るときよりも慌てん坊ぶりが強調されている気がするのだが、これで大丈夫なのか少し不安だ。
「そんな緊張するなよマスター。平尾クンと今のあんたは対等な関係に近いんだから」
「どっどこがですかセイバーさん!私なんかなにもできないのに平尾さんと対等な関係なんて言えるわけないでしょ!」
むすくれ顔でセイバーの顔を睨む来栖。かわいいとかここで言ったらまたいろいろと拗れそうなので俺は口を噤むしかない。
何の気なしにマンドリカルドのほうへ視線を向けると、ほんの少しだけ安心したような・・・・・・柔らかめの表情を浮かべていた。
「どったの?」
「・・・・・・いや、なんか今までずっと殺伐としてばっかだったんで」
訪れたしばしの平和がそれほど嬉しいみたいだ。
へへ、と笑う彼の顔に手をやる。柔らかい頬をむにりと摘まんで見ればそれはそれは良い感触で。前よりいくらか柔らかくなってないか?
「やめてくれっす、やり返すっすよ」
「すまんすまん」
先ほどの来栖よろしく頬を膨らますマンドリカルド。そんなに膨れてしまっちゃ俺がまたアレするぞなんて言ったらすぐ空気を抜いた。こういうところだけ本当にわかりやすい奴だ。
そんなおふざけ行為をしているとどこかから視線を感じたので振り返ってみると4つの目がじーっと此方を観測していた。
「平尾さんって、そんな風に笑うんですね」
ああそうか。
会社ではずっと演技臭い笑い声ばっかあげてたし、そう言われるのも当然だ。
「・・・・・・素だとこんな感じなんですよ。見苦しいものをお見せしてしまった」
「いえ、そういう訳じゃないんです。ただ・・・・・・あの、ちょっと」
「かっこいいなと思った。だろ?」
なんという完璧な水差し、空気なんて読めるわけねえだろ文字書いてないしと言わんばかりの爆弾発言。
案の定来栖の顔は烈火のごとく真っ赤っか。セイバー頭切れるくせにわざとやってるだろこいつ。
「・・・・・・ライダー、一回セイバーにビンタしてやってくれ」
「私からもお願いします、ひっぱたいてください」
「・・・・・・ま、マスターに言われちゃぁ・・・・・・しょうがない、っすよね?」
手を2回程振って、ふぅと大きく深呼吸。
「若人のビンタとかオジサン首もげちゃうから堪忍・・・・・・というわけには?」
「残念ながらいかないっすよ」
直後、乾いた音が上がったのは言うまでもない。