Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
教会の人はだいたい辛い食い物狂いってイメージ愉悦部の人のせいでついちゃったんですからね
おのれ言峰だが絶対に許す
結局万一の時でも大丈夫なように、と量産されている服を着てもらうことにした(某○ま○ら系の)。
マンドリカルドの事前申告により俺のお気に入りは粉微塵にならずに済んだというわけだ。間一髪。
「それにしても似合うな。そこらへんのコンビニでバイトしてそうなくらい自然」
「そ、そっすかね?」
なんかマンドリカルドは照れくさそうに後頭部をぽりぽり掻いている。
意外と照れ屋さんで可愛いんだな、なんていう面と向かって言ったら絶対変な勘違いをされそうな感想は胸にしまった。
「俺と並んで歩いてても違和感ないのはありがてえな。どっからどう見ても友達どうしか先輩後輩って感じで、な?」
二人して絶妙な陰気さがほのかに溢れているタイプなので一緒にいてもさほど変な感じはない。
クラスのモブ枠と学校のマドンナ的な不釣り合いコンビじゃなくてほんとに良かった。つか来てくれたのが男で良かった。
などと俺の勝手な感想を披露しながら廊下を歩き、玄関までたどり着く。
無駄にでけえ靴箱と帽子&コートかけが並ぶこの空間は、もう単純なスペースのみで考えたら人が十分住めるくらいの広さだ。正直言って俺は靴なんて新聞取りに行くとき使うサンダルと外行きの靴が夏冬1足ずつ、あと会社用の革靴さえありゃ事足りるので空間を持て余しまくっていることこの上ない。
「靴は・・・・・・さすがに合わないか」
ある程度調整の効く服と違って靴は出来るだけ着用者の足にフィットしなければならない。
小さければそもそも入らないし、大きくてもかかとあたりがパカパカして咄嗟の移動に支障を来す。
あと足の幅とかもあるしこれに関しては新しく買った方がいいだろう。
「じゃあ靴だけ魔力で編みますね」
マンドリカルドの足元から濃密な魔力が噴きだしたかと思うと一瞬でレザーのスニーカーが現れる。
ワインレッドのアッパー外側部分にはトランプで使うダイヤのような模様が型抜きでつけられていて随分とシックでかっこいい。
「もう買わなくていいなこれ。普通にいい奴じゃねえか」
「結構気に入ってるんすよこれ」
マンドリカルドは立ち上がって三和土の上で軽く二回踵を鳴らす。初めての召喚だからか、知識だけしかない現代世界を早く見てみたいという好奇心が瞳の中で光っていた。
もう準備は万端、俺も靴を履いて出よう。
夏用のメッシュ生地が所々に入った青いスニーカーを履いて立ち上がる。
幸い今日はさっぱりとした10割の晴れ、花粉も今日はあまり飛んでいないし楽しく歩けるのが嬉しかった(マンドリカルドに花粉症で酷い顔面を見せずに済んで良かったとも言う)。
「家出たら結界の範囲からも出る。その時点で誰かに聞き耳立てられてると思った方がいい。話すことについては注意すんぞ、セラヴィ」
昨晩雑に作った偽名でマンドリカルドを呼ぶ。それが自分の名前だと認識してもらわないと困るのだから。
「了解っす。俺なりに克親に合わせるっす」
「そうしてくれると助かる。あとタメ語でいい、その方が自然だ」
玄関の引き戸を開け、一歩外に出る。
広がるのは我が家の庭で、門扉までは少し距離があった。
普段から魔術に使う薬草の栽培所以外は雑草引きと水やりくらいしかしていないのでかなり植物は勝手な交配をしていたりするが、害がないので全部ほっぽっている。
おかげでビオラの花は黄色やら赤やら紫やらがうっそうとしてサイケデリックな光景になっていた。
そろそろ整備しないと親父に呪われそうだから今度間引きくらいはしとこう。
「じゃ、いってきます」
「いってきます」
誰もいない家へそれだけ言って鍵を閉め、俺は踵を返して門扉の方まで歩く。
薫風に混じる醤油と生姜の匂い・・・・・・この季節の風物詩である。
「またいかなご炊いてんなあそこ。朝っぱらからひでえ飯テロだわ」
鉄で出来た大きな黒門を開く。
やけに重そうな見た目に反してスイスイと軽く動くのは魔術による軽量化やら中空化の賜物である。
「高台だから結構見通しはいいだろ。ちゃんと海まで見えるし」
ここは海と山の距離が結構近い事で有名だ。
俺の家はその小さい山脈の末端である高い丘の上に建っていて、駅もまあまあ近いということでなかなかの好物件なのだ。
ついでに一帯でも最高クラスの霊脈地であり、場合によっては大聖杯が置かれたかもしれないらしい。
まあ都合のいい地下空間が地盤的な問題もあって作れなかったそうだが。
「海か・・・・・・俺は出身が内陸だからなかなか新鮮っすね。どっかしらで嫌になるほど海の上で戦った記録はあるけど」
「そっか、タタールって今で言うところのロシアとか東ヨーロッパとかモンゴルとかだよな。結局どこなのか知らんけど」
沢山の民族を指す言葉として用いられた総称ということもありずいぶんとあやふやなイメージでしか想像できない。
黒髪直毛で目が黒く、肌はもう日本人くらいだ。だけどそれだったらテュルク系とかモンゴル系、ツングース系にもだいたい当てはまるわけで・・・・・・ああ悩ましい。
「まあそこらへんはぼかされてっから。一応今のモンゴルっすよ、俺がちゃんとまとめるはずだった国は」
また地雷スイッチを押してしまったようだ。みるみるうちにマンドリカルドのテンションが暴落しているようで元から猫背ぽい背中が更に丸まっていく。まったくここまで難解なマインスイーパーがあったかって文句言いたいくらいだ。
「昔の話はまたあとでとぅわっぷり聞いてやるから闇のオーラを放つんじゃねえよ。なぁに俺だって後ろめたい話や悲しい話はいくらでも持ってんだから傷の舐め合いでもしようや」
腰に軽い平手打ちをかまして姿勢を元に戻してやる。
接しているうちに少しは彼自身に自信が持ててるといいんだがなぁ・・・・・・と、俺は聞こえないくらいの声で呟いた。
坂道を降りて街に出た。
ここ舞綱市は基本2分割ができて、そのうちのひとつが俺の住む山名地区だ。
基本的に大きな古民家だとか地主の家系の人間が多く住んでいて、一軒家がとても多い。
とても小さいとはいえ山を削って作っているので坂が多く、場所によっては一度転ぶと1kmくらいは転げ落ちるほど長い坂があったりする。家の所有者が高齢化し始めたことで上り下りの負担を軽減するためのケーブルカーみたいなのが作られていて、観光客にも人気らしい。
もう片方は明海地区と言って商業的な発展をしている場所。
住宅はマンション、会社は何十階建ての大きなビルばかり。海岸にはこの街のシンボルともいえる舞綱マリンタワーがあってそれなりに景観は美しい。
「明日になりゃ明海には嫌でも行かなきゃならんからな。今日はこっちだけにしとくぞ」
教会は地区と地区の境目近くに存在する。
そびえ立つ純白の建造物と銀の十字架。結婚式などを執り行うために周りも随分広く、びっしり敷かれたタイルで装飾されている。
「・・・・・・はあ」
やっぱりいざ入るとなると拒否反応がえげつない。
体がもう帰ろうぜを連呼していて、ノブを握るための手があんまり上がってくれないのだ。
「克親、どうした」
「・・・・・・いや、あいつに会うことを遺伝子が拒絶してるだけだ」
無理やり左手で右手首を掴んで持ち上げノブを握る。
ドアを開けるとそこにはキャソックのような黒い服を着崩した金髪天パの男がいて・・・・・・ああさぶいぼ立ってきた。
「珍しいなあ、あんたがここ来るなんて。わざわざ来んとっても始まるのに律儀なやっちゃで」
いかにも胡散臭い関西弁でしゃべくる彼の名は唐川俊也。
舌の神経ぶっこ抜かないと食えないでおなじみ明海屈指の地獄店ヴィクテムエルドラドの飯を好んで食う輩である。
被虐者の理想郷という名前の通りあの店の飯はマゾヒスト専用な仕様。米や麺にも唐辛子パウダー、スープには勿論唐辛子、肉の下味にも粉をまぶすししまいにゃ救済措置のヨーグルトでさえデスソース添付という頭おかしいレベルなのだ。
テレビの取材で度々有名人があそこのメニューに挑戦していたりするが、ロケ行った奴は必ず一週間トイレに行くのが怖くなるという伝説まである。
そんな店の常連である彼は普段から唐辛子をおやつ替わりに齧っていて来た人にそれを半ば押しつけるように勧めてくるのだ。
そのせいで俺が地獄を見たのは言うまでもない。