Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
「あいててて、今のはけっこーきいたぞー?」
「申し訳ないっす、加減きかなかったっす」
マスター二人により宣告されたビンタの刑を執行し終え、マンドリカルドは右手を振りながら悪びれる様子もなく言ってのけた。彼は時折強かになる。
「まあ聖裁も終わったところで・・・・・・だが」
「・・・・・・アヴェンジャーのこと、ですよね?」
来栖は俺の求めていた言葉を発して、テーブルの上に一冊のノートを置く。
まだまだ新しいものと見受けられるが、一頁目だけが異様によれていた。
何か書いていてジュースでもこぼしたのだろうか。
「アーチャーと戦ってるところを隠れて見て・・・・・・出来るだけスケッチしてきたんです。動きが速かったせいで所々曖昧なんですが・・・・・・」
来栖が表紙を開くと、そこにはひとりの女の子が描いてあった。
ミニスカートのような丈まで短くなった着物を着ていて、色は黒地で袖だけ白。襟の近くに丸っこい家紋が描いてあるようだがそこはよく見えなかったのかぼかされている。
赤い花模様入りの下履きが結構印象的だ・・・・・・あと刀は2本程携えており、これが宝具であると見受けられた。
ノート曰わく身長は150~160cmと現代女性の平均レベル。髪は銀髪であったそうだ。
「女性剣士なので全然真名ってものの判別はつかなくって・・・・・・」
「あとの手がかりは『極楽の・・・・・・』って言葉だな」
辞世の句かなにかの一部だろうか。たった五文字だけじゃあ絞れても断定はできなさそうだ。
「辞世の句っぽいやつはいったん置いとこう。まずアヴェンジャーが女性ということから絞りこんで行きたい」
歴史の中でも名を残した女武芸者はそう多くない。時代などのヒントが手に入れば一気に特定へと近づくはずだ。
「有名どころといえば巴御前とか佐々木累か?」
「あと別式女や中沢琴ってのもいたはずっすよ・・・・・・座でなんとなく覚えただけなんで、あんまどんな人なのかは知らないっすけど」
今のところ上がった候補は四人。巴御前ならば騎馬を乗りこなし戦ったという逸話から馬を連れていそうなものだが、正直サーヴァントにはその理論が適用されるときとされないときがある。詰まるところわからん。
「・・・・・・つか、サーヴァントって生前の性別と違うほうで召喚される例があったような」
ここにきて重大事項を思い出してしまった。とある場所で起こった聖杯戦争では男として逸話が伝えられてきた英雄が女の姿で召喚されたという記録があったのだ。例のロードからマスターになることを押し付けられた時に色々資料を漁っていて、見た覚えがある。
「あーそれねぇ。ちょくちょくあるみたいよ。女だった説を持つ英霊はともかくとしてそういう噂なんて影も形もないようなやつまで、時折違う姿で出てくるってな」
例えば井伊直虎や上杉謙信といったところが女性説ありの英雄だろう。
だが、噂がないものまで出てくるとは・・・・・・?
「そうなると性別なんて何の根拠にもならねえじゃねえか」
「ははは、まあそういうこったな。ほかの観点から特定するしかない」
呑気そうに笑うセイバーだが、現状は全く笑えそうにない。
日本の英雄であり、剣士である。それだけでも大きい収穫といえば収穫なのだが、男女で絞ることが不可能となればあまりにも該当者が多すぎる。
現代周辺は除くとしても、平安時代から江戸時代まではしめて1074年。その間に剣で名を残した人間なんていくらいるというのだ。
せめて地域ぐらいは特定できればよかったのだが。
「申し訳ないがこれ以上は提示できる情報がないね」
「・・・・・・また調査だな。幸い俺の家から歩きで15分くらいのところだ、ちょくちょく作戦会議とか・・・・・・できますか、来栖さん?」
「は、はひ!大丈夫です!私しばらくお休み取らせていただいたんで!」
なぜか敬礼をして元気よく返事をしてくる来栖。まあこちらの望む返事がきたので満足だ。
俺はマンドリカルドに帰るぞと言って立ち上がり、座りっぱなしで疲れた腰を伸ばすように一度反った。
「んじゃ、また」
「・・・・・・お邪魔しましたっす」
「じゃーなー」
気の抜けたセイバーの声にずっこけそうになったが、踏みとどまって家の玄関から出る。
靴を履いて外に踏み出した瞬間連絡先交換しとけばよかったという後悔が脳裏に浮かんだが、今更戻って電話番号を聞き出すわけにもいくまい。また今度機会があれば、ということにしておこう。
「セラヴィ、今度こそ帰るか」
「結構な回り道になったっすね」
確かに、と俺は呟き笑う。
思えば海の家から俺の家までという短い往来だったはずなのに、一回明海に行ってから来栖の家に来るとかいう超遠回りになっていたのだから。
「今日は苦労かけたな。こんなクソ重たい俺の体抱えて走らせたり戦わせたりして」
「いやいや、こんなの苦労のうちに入りませんって。克親の身に何も起こらなくてよかったっつうか、なんつうか・・・・・・」
語彙のなかから言いたいことを捜索していたマンドリカルドの思考を一瞬だけ停止させるように、俺はずいとにじりよる。
紡ごうとした言葉は頭からすっぽり抜けてしまったので、無心でただ抱きしめた。
「・・・・・・克親」
マンドリカルドのあげた驚きの声は、少しばかり嬉しさも孕んでいるように聞こえた。
「あーなんだかんだで久しぶりじゃねえか俺ん家・・・・・・ちょっと待ってろ」
そうして帰宅してきた俺たちだが、家の中でだらりんちょする前にやることがある。
倉庫に入れていたほぼ新品の斧を出してきて、家の裏にある森の中に入る。そろそろ間伐しないと日当たりも悪くなってきそうだったので、ご神木だとかを除いて太い木を幾つか切り倒しておこう。
「
斧と俺の腕を強化して、ドカンと木をなぎ倒す。
「克親そういうの俺がやるっすから!」
「今くらい休んどきな!3本くらい切ったら終わるから!」
俺の腰よりも太い木を5発程の斧連打で切り倒し、持ちやすい長さで切ってどかどかとマンドリカルドの前に持って行く。
彼の持っていた剣の長さを考慮した上での切断なので、このまま削るだけでOkだ。
「これくらいありゃ十分か?」
「もう十分というか百分です!」
戦慄を顔に浮かべつつマンドリカルドが叫んだので俺は斧にかけた魔術を解除し、倉庫に戻す。
できた丸太を抱え、庭の方まで運び込んで置いた。こうみるとかなりの体積である。
「取りあえず鋭意制作ってところだな。さすがにこれだけの量ひとりで作らせるのもアレだし俺も手伝うわ」
「いや俺がやるっすから!」
「いや俺が」
これ以上はどこぞのトリオ的なネタに発展しかねないなとか思いながらマンドリカルドの言い分を押し切って製作に入る。
俺は絵よりも立体造形の方がどちらかと得意なのだから心配しなくて大丈夫だっつの。