Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
やってしまった。
軽率に言うべきでないことだとは分かっていたのに、つい口から漏らしてしまった。
俺のせいで魔術師としての道が大いに乱れたのではないか、自由に出来ていたことが出来なくなるのではないか。
間欠泉のように不安が噴き上がる。
「・・・・・・莫迦だ」
いつまでたっても成長できない自分が嫌いになる。せっかくついてきた自信も、粉々の塵芥となって消えた。
額に手の甲を当て、女々しくもすすり泣く。
「俺は、人の心がわからない」
だから、いつだって誰かを傷つけて・・・・・・誰かを悲しませた。人を喜ばせた覚えなんて一つたりともなくて、王としても圧政ばかりしていた愚者そのものだ。
どうやっても振り払えない後悔が増幅し、息苦しさを増している。
何をやったって駄目だ、成功したってすぐそれ以上の失敗が待ってるだけだ。
彼を守ると俺は誓ったのに、ロクなこともできていない。
どうして俺は英霊になったのだろう、こんな苦痛を受けるのなら・・・・・・最初から名もなき王であればよかった。
もらった愛情に見合う働きなんざ何も見せられていない。
惨めだ、俺は憫然たる存在そのものだ。今にマスターも俺のことを嫌いになるだろう、こんな俺なんて誰も愛しちゃくれないんだ。
『またそれか』
ベッドサイドの鏡から、俺の声がした。
なんだなんだとベッドから起き上がりそれを手に取って見たら、そこには俺の姿勢と一致していない鏡像が映っている。
デルニはこんな出方も出来るのかとうっすら感心しつつ、鏡を置いた。
「・・・・・・何の用っすか」
『なに、また蟻地獄にはまりかけていたのを見かねてつい声をかけてしまっただけのことだ。お前は一回思いこむとそう簡単にはそれを否定できないきらいがある』
困った奴だと彼は煽るようにせせら笑い、お手上げのようなポーズを繰り出した。
お前も俺なんだったら同じようなこと経験しているだろと言っても我関せずの表情である。
『そんなに愛されるのが怖いか?』
「・・・・・・そういう訳じゃない」
いつか、その愛情が憎悪に変わる。俺はその瞬間が怖いだけなのだ。
自分の無力さに呆れ果て見限られるのが嫌で、人と接するのが怖い。
『自分の秘密まで見られといて今更それか。そろそろ諦めろよお前も・・・・・・マスターは本当にお前のことを愛しているんだぞ、そうでなきゃこんなもの贈ってくれたりはしない』
胸元で煌めくペンダントを摘まんで、彼はそう断言した。
・・・・・・わかっている、わかっているさ。これに、どれほどの思いが込められているかなんて。
どんな願いなのかはわからない、だけど・・・・・・
「・・・・・・でも、まだ」
『3歩進んで2歩退がるって言葉そのものだな。退くな、突き抜けろお前は』
意気地なしな俺の尻を蹴り飛ばすがごとく、奴はきっぱりと言い放つ。
こうも押されちゃ引くに引けないじゃないかと文句を言いつつ、俺は側頭部を軽く掻いた。
いつの間にか日は沈みかけ、夜の帳が降りようとしている。
綿の褥で寝るのは止めて、少しだけでも克親と対話するべきだろうか。
終わらない自己嫌悪の循環を抜け出さなければいけないのはわかっているが、その一歩が踏み出せない。
「無理だ、やっぱり俺には無理なんだ」
『甘ったれたこと言ってんじゃねえよ!!』
空気が震撼し、俺の鼓膜を乱打する。
さながらティンパニとオーケストラのための協奏曲ラストのごとく、鼓膜が破られそうになったと感じたくらいに。
呆然として鏡を見つめていると、唇を噛んで悔しそうにしている彼がいる。
『お前には使命があると言っただろ、一緒に生き延びなければならないと言っただろ。今日のことも忘れたのかこの鳥頭!鶏冠みたいな髪型とかなんだよかっこいいと思ってんのか!』
「髪型は関係ぬぇーだろうが!!」
あとお前も同じ格好だし完全なブーメランだろとどうでもいいことで言い合いになりかけたが、さすがにそれはデルニも許さんようで。
『・・・・・・とにかく、俺の言ったことを忘れるな。今どれだけ辛かろうと逃げるな、目を背けるな、前を向け。それが・・・・・・わたしたちの未練をすべて払拭することに繋がるんだ』
「未練をなくしたら・・・・・・もうこうしてサーヴァントとして召喚されなくなるだろ」
聖杯戦争は望みを叶えるために参加するもの。俺の求めたものが手に入ったら、召喚に応じる必要がなくなる。
それは俺の願ったことなのかもしれない。英霊として存在する事は、苦痛でしかないのだから。
『そうだ。それも、お前の望みだろ』
「・・・・・・でも、俺は」
長い沈黙のあと、俺は口を開いた。
心の中に存在する叶えるべきでない小さな小さな欲望は、未練を消し去ることに抵抗している。
「誰かと電話でもしてるのか、マンドリカルド」
寝室に出入りするための扉前から聞こえた克親の声に心臓が軽く1mは跳ねた。
もしかして全部聞かれていたのだろうか、そうだとしたらかなりやばくないか?
「あ、ああ・・・・・・ちょっと、な。克親が気絶して意識飛んでる時に電話番号交換した奴がいてあのえっとその・・・・・・うーあぁ、なんて言えばいいんだこれ」
「・・・・・・まあサーヴァントも例外あれど大概人間だし、恋だってするだろう。そこらへん深入りはしねえよ」
なんかあらぬ方向に勘違いさせてしまったかもしれない。もしかして来栖さんと秘密裏に関係持ってるとか思われてるのではないか、だとしたら話がこじれる。○○○オルランドって話は大概、恋した奴には厳しかったりするものだ(偏見)。
「あ、あの別に恋とかそういう浮ついたことでは」
「いいっていいって。秘密は秘密のままにしといてやる」
ヤバい、完全に彼女できたみたいな話になってる。
こっからどうやってデルニの事情を説明せずに誤解を解ける?頭悪いから解決策がまっっっっったくと言って良いほどに思い浮かばない。
「いやーサーヴァントになってからこんな甘酸っぱい恋とかすると思わなかったっすね。戦闘に影響ないようにしますんで・・・・・・すんません」
デルニが勝手に俺の口を使って喋りやがった。ここはいるということで押し切れという無言の圧力を、鏡の向こうにいる俺自身の姿から感じた。
「・・・・・・わかった。あー後継ぎのためにも探さないとなー俺も」
どうやら克親は研究室に戻ったらしい。一難は去ったが対価として百難くらい返ってきたのですが、デルニの奴はどう責任をとってくれるのだか。
『まあそこは・・・・・・適当で?』
「ノープランかよこのクソ野郎ぉおおおおおお!!」
さっきまでの悩みは完全に払拭されてしまった。
なお、もっときつい悩みが生まれたので解決はしていないというか悪化している。もう一人の俺、許すまじ。