Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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登場する予定のなかった副社長の設定が途端にもりもりされていく
もう少ししたら登場人物もう一人増える(はず)なのでその人とまとめて紹介欄にデデーンですかねえ


72話 六日目:特別

『いやすまんな、こっちも私用が増えちまったせいで・・・・・・ああ別に他の相手ができた訳じゃない。俺は多頭飼いできねーから・・・・・・俺のペットはカン、お前だけだぞ』

 

どうやら海はどこぞの壁に寄りかかって通話を続けているらしく、声の遠ざかりがなくなった。

それにしてもめちゃくちゃ怪しい話・・・・・・勅使河原のことをペット呼ばわりしているあたり、結構危ない関係なのではないか。

時たまニュースの新商品発表みたいなものに出てくる彼の顔が、もう純粋な目で見られん。

 

『んだよ、俺だってたまにはそういうこと言うさ。もっと厳しく言われたいならその要望聞くが』

 

珍しく海の声が甘ったるい。

俺相手には泥酔したとき位しかあんな声出さないというのに、勅使河原とは随分いい関係を構築しているようだ(社会的な是非はともかくとして)。

確か年齢は勅使河原の方が一回り近くとっているはずなのだが、そんなものはどうでもいいとばかりに海が優位な状態を保っている。彼の優秀さはかねてより噂されているのでそこまで問題のある話ではないが、この関係があるからこそずっと副社長を続けられているんだろう。

 

『そうか、今期もアクシデントがなきゃ大丈夫なように調整入れてるけど、なんかあったらすぐ報告しろ。脱税とかしてる奴がいたら問答無用で俺にチクれ。マルサに勘づかれるまえに粛清することと、ちょろまかされた額はきっちり耳そろえて徴収すること。支払い能力がない奴は腎臓片方もぐつもりでいっていい』

 

常識を逸脱している人間ではあるが、一応海はそういうことに厳しい。こないだのスピード&信号違反?あれは緊急事態だったし不可抗力というものだ。

 

『こないだ経理の奴がよくわからん外注費約1億円を報告してただろ・・・・・・ああ、そうか。営三の課長だな。晒し首にしろ、血反吐を吐かせてでも金は取り返せ。全責任は俺が取る』

 

過激な言葉まみれで一瞬おかしい社長みたいな感じになってはいるが、内容を見れば普通に不正を許さないタイプのいい経営者である。

なにしろ法律に抵触するような悪事から、犯罪で立件とまではいかないようなセクハラパワハラの類もすぐ報告するよう体制を整えているらしいし。

社長の権力は強いが、社員の声もちゃんとした力を持っている。

まっとうな社員からしたらよい会社だ。今年も倍率がエグかったらしいし。

ニュースになる前に潰され正されるという点から、そういった不正を暴きたがるマスコミにはよく思われていないと海は嘆いていたが、そういった奴らに気に入られても良いことはないと自己解決していたことを思い出す。

 

『ん、ああ・・・・・・え?今の居場所は言ったろ。山名の平尾家、そこの長男坊よ・・・・・・あ?付き合ってる訳あるか、あんな金だけはある大企業のぺーぺーなんかと。第一平尾と司馬田は協力関係にはなっても結婚とかしないようにって親父から言われてんだ』

 

「聞いてねえぞそんなこと!!」

 

思わず扉を乱暴に開いて飛び出してしまった。

海と結婚とか俺も願い下げではあるんだが、向こうでいつの間にそんな決定がなされていたというのだ。

 

「今のいかにも馬鹿そうな声の奴が平尾。ただの腐れ縁だ」

 

馬鹿呼ばわりに少々ぴきっときたが、こんなところで喚いても電話の向こうにいる勅使河原に好印象は与えないだろう。

こめかみに青筋がたつのを抑えつつ俺はゆっくりと海の方へと足を運んだ。

 

「篠塚といい平尾といい最近充実してますね、って嫉妬してんのかよらしくねえな。残念なことに俺と恋愛関係になれるほど狂ってはねえよ、ついてこれんのはお前くらいだろ」

 

けけけ、といかにも悪役の出しそうな笑い声を上げて海は勅使河原との通話を続けている。

近くまで来たのはいいんだが、横槍をこれ以上入れるわけにもいくまい。

 

「今日の報告はこれで終わりだな?なら切るぞ・・・・・・んじゃまた、なんかありゃかけてこい」

 

通話を一方的に切ってスマホをポケットにねじ込み、俺の方を向いて何を言うでもなく佇む海。こういった静寂に耐えられない俺は、つい口を開いてしまう。

 

「・・・・・・さっきは横槍入れてすまん」

 

「なに、カンのやつにお前のこと説明できてちょうど良かったさ。あいつ、なんか知らねえけど俺の近くに男がいるって知ると気を揉みしだくタイプなのよ・・・・・・心配しなくたってお前みたいなボンクラと結婚する訳ねえのにな」

 

ボンクラで悪かったな。

まあ海との結婚なんて死んでもお断りだしちょうどいいんだが。

 

「勅使河原さんとはどういう関係なんだ?経営者同士どころじゃない危険な香り漂ってるけど」

 

「危険な香りねぇ・・・・・・まあそうよな、飼い主とそのペットみたいなところよ、やっぱ説明付けるとなると。『私を飼ってください』とかいうパワーワードに俺も引いてたんだが、付き合ってやるとあいつの業績が目に見えて向上してな。やってるうちに俺も慣れちまった」

 

思った通りのやばい関係で逆に安堵した。

少女漫画かアダルトな漫画位でしか聞かないであろう言葉を現実に言うものがいるだなんて、とも思ったがここは変態帝国日本である。いても不思議なことではない。

 

「なんだかんだ言って俺の死ねない理由よ。あいつの嬉しそうな顔を見るの、結構楽しいんだわ」

 

「へーん・・・・・・お前にもまだ人の感性が残っていたとは」

 

うるせえと横っ面に一発げんこつを食らわされたがこれも日常茶飯事の範疇である。

 

「・・・・・・で、ペットとその飼い主ってのはいいが・・・・・・本当の家族になる予定は?勅使河原さんまだ独身だったろ」

 

「・・・・・・絶対にない、とまでは言い切れねえな。多分あいつは嫌がるだろうが」

 

仄暗くなり始めた窓の外を見て、海は少しだけ軟らかい声でそう言った。

窓のサッシに腰掛けて、春の風に髪を揺らしている。

 

「もしかして、好きだったりするのか」

 

「・・・・・・どうだかねえ。好きに該当するかわからんが、俺はあいつのこと特別に思ってる」

 

俯きながら呟くその顔には、確かに女性らしさが称えられていた。

こんな海がみられるだなんて、明日は大雪が降るんじゃないか?

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