Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
これは720%想定外めう
「っぶねぇ!!」
俺の左目を貫かんと飛ぶ黒鍵の軌道。マンドリカルドは咄嗟に俺を軽く押し飛ばしてそのまま立ちふさがる。
いきなりの出来事だったため俺は盛大に尻餅をついたが、おかげで眼球串刺しという惨事は免れた。
「監督役だってのにいきなり公平性を欠いた行動はいかがかと思うが・・・・・・あとD-273ってなんだ、俺は型番で扱われるような人間じゃねえぞ」
「・・・・・・なんっにも知らねえんだな、テメェは」
指の間につがえていた黒鍵を消して手を払いつつ、呆れたように不破は俺を見て言った。
その目には憐憫と少しの軽蔑を感じる・・・・・・全く心当たりのない話に、俺は首を傾げるしかない。
「どういう了見で理由も言わず俺のマスターを攻撃した」
「異端狩りにそれ以外の理由が必要か?」
確かに聖堂協会は教義にない異端を狩ることに特化した部門。
人の道を踏み外した魔術師や吸血鬼などを排除するための組織だと知っていたが・・・・・・
俺はせいぜい科学に造詣が深いとかそれくらいで、別に排斥されるようなことはやっていないはず。身に覚えがない罪で殺されるのは無論真っ平御免なので、とりあえず聞き出せるだけ聞き出したい。
「異端認定されるようなことをした覚えがないんだが・・・・・・俺の何がいけないんだ?」
「何が・・・・・・か。少ねぇ語彙で端的に表すなら『存在そのものが人類にとっての損害』だな。陳腐な物言いだが」
随分とスケールのでかい罪だ。存在そのものが不利益などと言われてはどうしようもない。実際俺は何一つ人類に貢献出来ていないのだから。
「神の猿真似をし続けた人間が作り出した産廃なんだよ、テメェは」
「・・・・・・お前、俺の何を知ってる?」
まるで俺が人の手で生み出された・・・・・・ホムンクルスなどのような存在であるかのような物言いだ。
記憶は薄いが、俺はれっきとした人間のはず。両親の顔も覚えているし、普通に学校にも行って、就職した。ホムンクルスであるのなら、最初から完成された存在であるべきだ。人間の代わりとして利用するのだから、育てる必要がないよう設計するはず・・・・・・
でも否定はできない。そうでないと証明できるものがないのだ。
戸籍なんてのは魔術を使おうが使わまいが偽造できる、写真も念写さえ拾得していれば簡単に思い出を捏造できる。
人の記憶も、海の持つ魔眼が生む術式を筆頭にいくらでも改竄ができる。
信じたくない。でもなぜか、納得している自分がいるのだ。
「全部だ」
そんなわけあるか、なんて・・・・・・今の俺に言う気力はなかった。
「アンタ、マスターをおちょくるのもいい加減にしろよ・・・・・・ふざけたこと言いやがって、さっさと教会に帰れ」
「虚栄心が丸見えだな。ちょっとは隠す努力したらどうだ」
「・・・・・・貴様」
人を見下すような笑い声を上げて不破は踵を返し・・・・・・その背中に、マンドリカルドが斬りかかる────
だめだ、行くんじゃないと声をかけても彼は止まらない。
後少しで奴の首に刃が到達する・・・・・・と思ったが、そのときは訪れなかった。
「潰すぞ」
瞬間、爆風が俺の顔を打った。
「っぐぁう!!」
立ち上った砂埃が晴れる。
マンドリカルドが先程までつけていた外装は所々外れて地面に落ち、露出した部分にこれでもかと例の黒鍵が突き立っていた。
まるで磔のようにされた彼の姿を見て、俺は絶句するしかない。サーヴァント相手に喧嘩を売っただけでなく、こうも簡単に鎮圧するなどあってなるものか。
「・・・・・・な、何モンだお前」
ようやっと絞り出した言葉は震えに震え、何とも情けない調子で空気を揺らす。
飄々とした顔つきで不破は俺の元に歩み寄って、仁王立ち・・・・・・その双眸はあからさまに俺を見下ろしている。
「俺はほかと比べてちょっとだけ強い代行者に過ぎねえよ。まぁこんなナリで一応埋葬機関送りになりかけたこともあるがな」
埋葬機関。
異端を武力行使で排除する教会の代行者、そのトップ中のトップが所属するという集団。
予備役含め8人しかいない少数精鋭、場合によっては教会の言うことを完全無視なんていう噂飛び交う無法集団。
そんなものに選ばれかけた人間がなぜこんなところにいるのだ。そしてなぜ俺を目の敵とばかりに詰め寄ってくるんだ。
「・・・・・・なんで、俺が」
「さっき言ったことをもう忘れたか?異端なんだよテメェは。形と遺伝子だけはまともな”人もどき”だ」
やはり、俺はホムンクルスかなにかなんだろうか。自分の記憶が信用できない、何を信じればいいのか全くわからない。
歯が勝手にがちがち音を鳴らす。これは何だ、恐怖か?怒りか?思考すらも破綻しそうになる、瓦解はなんとか抑えているが・・・・・・どんなきっかけで崩れるかわかったもんじゃない。
「それ以上・・・・・・マスターのことを言うな」
突き刺さった黒鍵を抜いて地面に撒き散らし、マンドリカルドがゆっくりと立ち上がる。
やはりエーテル体でも作用は絶大らしく、それの刺さった跡は随分と痛々しい。
「・・・・・・そうか、お前がか」
「”わたし”の邪魔をするな、今すぐ消え失せろ」
仮面を外し、不破を睨むマンドリカルド。
ふつふつと静かに煮えたぎる怒り・・・・・・心なしか、こちらにまでその熱が流れ込んでいるような気さえする。
「そういうことなら話は変わってくる。お前がいるなら当面、こいつの始末はできねえな」
「・・・・・・お前なんぞの手を借りずともなんとかしてやるさ、”わたし”にはそれができるのをわかっているだろう?」
「わーってらあ・・・・・・聖杯戦争関連で不正した場合は別件扱いで潰しに来るからそこらへん理解しとけよ」
そのまま不破は林の向こうへと消えていった。
ことが終わったと実感したせいか、体がずしりと重たくなる。
「大丈夫っすか、克親」
「大丈夫っすかは俺のセリフだ。黒鍵あれだけぶっ刺されてきつくねえのかお前は」
すでにマンドリカルドの負った傷は癒えているが、内部まで元に戻ったかは解析を行わないとわからない。
霊体干渉能力があるものだけに、恐ろしいのだ・・・・・・
「向こう、俺を殺す気じゃあなかったみたいで・・・・・・少し痺れがあるっすけど、もう少ししたら大丈夫っす」
手のひらを軽くはためかせて無事を示すマンドリカルドだが、その身振りに反して表情はこれまでになく重い。
「暗い顔すんなよ、俺までなんか気分落ち込むだろ」
「・・・・・・そうは、言ってもっすね・・・・・・克親のこと、あれだけ言われちゃ明るい表情になんてなれないっすよ」
確かに不破の放ったものは『俺は何なのか』という根本を揺るがすような言葉だった。
神の真似をした人に造られた、人もどき。
そして・・・・・・異端。
「ぅ、ぐ・・・・・・ぁ!?」
あの痛みだ。
思考が乱されるどころか崩壊する、雷のような頭痛。マンドリカルドが叫んでいるというのは認識できるが、発される音から意味をすくいあげられない。
俺はまた、触れてはいけない領域に触れてしまったのだろうか?
これはなんなのだ、わからないまるでなにもわからない!!
「嫌、嫌・・・・・・ァああああああああああああああああああ!!」
辛うじて生き残っている思考回路をつなぎ合わせ、この頭痛の発生源を突き止める。これは何かを守るための機構、ならば・・・・・・それを解けば正体が、見えるはずだ。