Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
「お前らこの短い期間で何回ぶっ倒れりゃ気が済むんだよ」
「・・・・・・そうは言われても」
意識を失ったらしい克親を家のベッドにまで運び込み、寝かせたところで司馬田にそう言われた。
確かに俺と克親で片手で数え切れないくらいは気絶やら何やらをやっているような気がするのだが、なにしろ相手がヤバいので仕方ないとしか思えない。
「まあギルガメッシュやらなんやらにボコされてりゃそうもなるか。今日は何だって?新しい監督役に喧嘩売ったっつってたよな」
「こっちから喧嘩は売ってぬぇーっすよ!ただ向こうが克親のことで煽った上に攻撃してきた・・・・・・だけで」
俺が早いうちに彼の耳を塞いでいれば、こうはならなかったのかもしれない。
でもどっちにしろあの圧倒的な強さを誇る代行者にやられるのは変わらなかっただろう。初見というのもあいまって手酷くやられてしまったし・・・・・・殺意こそなかったが、あの黒鍵というものに刻まれた術か何かで未だに手の痺れが感じられる。
「・・・・・・煽りか。どういったやつだ?人格否定か中傷か、高圧的な言動か・・・・・・馴れ合い煽りみたいなやつもあるが」
「・・・・・・克親は、人もどきだとか、世界に損害を与えるとか・・・・・・そう言われて」
司馬田から例示されたものに当てはめると、中傷になるのだろうか。明確な証拠も提示されていないままにそう言われたものだから、控えようとは思っていても少し怒ってしまったのは事実である。
「そいつ、名前わかるか?」
「・・・・・・不破とか名乗ってたっすけど」
何か奴について知っている事があるのだろうか?
それならば是非とも情報を掴んでおきたい、いつかリベンジしたい欲が俺の中でぐつぐつはらわたと一緒に煮えくり返っているのだから。
「不破・・・・・・全部真っ黒な黒鍵使いだったか?」
「・・・・・・そっすけど。なんか知ってるんすか?」
どうやら心当たりがあるらしい。
唐川の使っていたものとは違う、少し銀色っぽい輝きを見せた漆黒の剣・・・・・・とてつもない速度で生成され俺を串刺しにしたアレは軽いトラウマになってもおかしくはないレベルだった。
「まあ一応な。異端狩りのターゲットになりそうなこじらせ魔術師界隈じゃあちょくちょく噂されてる存在よ。自分の信じる正義に従うタイプだが、行いは全て正しいとは考えていない。上からの命令も必要とあらば息をするように無視。まあある種芯は通ってるから行動理念さえわかれば対処は簡単なタイプ」
本格的に禁煙させたい篠塚が渡したであろう禁煙ガムを不機嫌そうに噛みながら司馬田は言った。
とにかく自分の信念に基づいて行動するタイプとあらば、一度こいつはやるべきじゃないと思わせておけばしばらくは大丈夫なのだろう・・・・・・彼と会った時にデルニがまた顔を出したのだが、それを見た途端奴は『そういうことなら話が変わってくる』と行動を変えていた。
『克親を殺すことにより生まれる利益』と『ここで一度見逃すことにより生まれる利益』を天秤にかけた結果後者が勝利したということなのだろうが・・・・・・彼は俺に何の可能性を見いだしたのだ?
「持って行きたい結末があって、それから外れるような行いをする奴は粛清するって考えなんすかね?そうだとしたら・・・・・・とことんあいつの理想に付き合ってやれば」
「まあそういうこったな。べつに付き合わんでもいい、邪魔さえしなけりゃあいつは攻撃しないだろうよ」
くっちゃくっちゃとガムを苦虫だとでも思っているかのごとき形相で食べている司馬田。やはり煙草を吸いたくて仕方がないようだが俺はそんなもの持ってないし買う金もない。
「あいつの理想ってのは兎にも角にも人類・・・・・・特にホモ・サピエンス種の存続だ。それに仇なす存在であれば問答無用で潰しにくる。そういう性質も相まって黒魔術の類は目の敵、ホムンクルスなどの人工生命体も大嫌い。核兵器とかなんてもってのほか」
「・・・・・・わかりやすい奴っすね・・・・・・でも、克親が人類の敵扱いってのは納得がいかないっすよ。別に今大量殺戮をしようとしてるわけじゃないし。人もどきとか言われても、ホムンクルスじゃないし・・・・・・」
俺がそう呟くように言ったが、返答はない。
もしかしてヤバい事案に言及してしまったのではないか、俺殺されるんじゃないか・・・・・・?
恐る恐る司馬田に声をかけてみたところ、やっと此方を向いてくれた。
「まあ、あいつはホムンクルスとかじゃないんだが・・・・・・ちと複雑な話があってな。俺が話していいような案件じゃねえから黙っとくが」
モノクルを外して眼鏡拭きで適当にむいむい擦っては吐息をかける司馬田。
重要なことを隠されたって逆に知りたくなるというのが人間なのだが、そこらへんを全然わかっていないらしい。
「言ってくださいっすよ。気になるでしょ」
「随分グイグイ来るようになったなお前。だが言わねえよ、俺と平尾の間にある最低限の信頼ってやつだ」
口を割る気は毛頭ないらしく、司馬田は大きなため息をついてリビングのソファにもたれかかった。
「・・・・・・俺、あいつに・・・・・・聞いてきます」
「悪いこた言わんから止めとけ。68×48の盤に爆弾777個のマインスイーパーを目隠しでポチりまくるようなバカ行為だぞ」
例えがよくわからないが、恐らく超危険であるということだけは理解できた。
だが、やはり気になるものは気になる。克親が目を覚ましてもそれを教えてくれるかはわからないし、もしかしたら忘れてしまっている可能性だってある。
・・・・・・そして、克親の全てを知っていると豪語したあいつのことが気にくわない。
たった一週間ほどしか一緒にいないけれど、あんな奴が自分より上だという事実を受け入れたくない。
この感情をなんと表せばいいのか、語彙力も何もない俺にはわからないが・・・・・・とにかく、あいつが嫌いだ。
「・・・・・・やっぱ、行ってきます」
「少なくとも俺より長い期間生きておいて、未だに青二才だな」
「何とでも言ってくれっす」
部屋を飛び出し、玄関で靴を魔力によって編み出す。
もうあいつは教会にいるだろう・・・・・・怒らせさえしなければ大丈夫だ、だから俺は・・・・・・
『嫉妬してるのか?』
「・・・・・・笑うなら笑えよ」
『笑わんさ。それは正しい感情なんだから』
デルニが懐かしがるように、小さく呟いた。
「・・・・・・お前がそう言ってくれるんなら、俺も気が楽だ」
『そうだといいんだけど。それにしてもあいつ、”わたし”の正体を早くも察したっぽいな~』
「似たようなもんどうしわかるとこがあるんじゃねえの」
坂道を軽く走りながら、脳内で会話を続ける。
周りに人がいないからこそできることだ(人前でこんなことしたら間違いなく精神病院を薦められる)。
『そうかもしんないな。叶え方の違いはあれど人を守るっちゅう使命は変わらんし』
「俺も、大切なものを守るためなら悪にも染まる・・・・・・ってか」
『俺らは中立・中庸だがあいつは例えりゃ善・混沌だろ。誰かのために動くけど行動は独自の俺ルールってところ』
「・・・・・・確かに」
似ているようで少し違う。
分かり合えるのかもしれないが、無理くさい面も結構あるっぽいのでなんか不安になってきた。