Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
特に何事もなく協会に到着する。今のところ、二つほどしか人の気配がない。
恐らく不破と唐川の二人なのだろう・・・・・・。
「・・・・・・お取り込み中、ってことじゃあなさそう・・・・・・か」
魔術特有の波動、みたいなものは感じられない。
今から何かある可能性とすでに何かあった可能性は否定できないが、現時点ではまだ大丈夫そうだ。
中の雰囲気に気を張りつつ、扉の前に立つ。
ゆっくりとドアノブを握って、手首を捻る。無機質な音を伴い扉はすんなりと開く・・・・・・鍵はかかっていなかったようだ。
「・・・・・・は?」
明かりはなくカーテンは締め切られ、窓も開いていないので中は真っ暗。
それだけならまだいいのだが、俺の鼻を突くのはそこはかとなく甘いにおい。
「す、すみません・・・・・・だれか、いませんか?」
黙っているのも怖く感じた俺は、そう声を上げて前に進む。
こつりこつりと足音が響くも、それに反応して発声する人間はいない。
「・・・・・・すみませーん」
「お前さんはよ帰った方がええで」
床を這うようにして出てきたのは唐川。暗いせいでよくわからないが、かなり憔悴しきっているみたいだ。
「な、なんかあったんすか?」
「・・・・・・あいつこれでもかとあっまいあっまい菓子ばっか食いよるねや」
この甘ったるいにおいの原因はそれか。ここからでもかなりきついにおいなので現場が相当ヤバい状況なのは間違いない。
だが俺には聞かなければいけないことがある・・・・・・別ににおいで殺されるわけでもないので、行くしかない。
意を決して俺は発生源と見られる部屋のドア前に立つ。わずかに光が漏れ出しているのでまず間違いないだろう。
「・・・・・・やめとけ、その先は地獄やぞ」
「俺はそれでも行きます・・・・・・すみませーん!」
ばん、と結構雑にドアを開けた。
広がる光景はもはや意味が分からない。机の上どころか床一面に広がるチョコレートやケーキ、シュークリーム、羊羹、すあま、どら焼き、鯛焼き、御座候・・・・・・ありとあらゆるスイーツが入っていたであろう殻が散らばっていた。
そしてそのゴミ山の中でもくもくと食事を続けているのは無論不破・・・・・・口の周りにクリームがついているがそんなものはお構いなしらしい。
「・・・・・・うわあ」
「ドン引きやろ。糖尿病待ったなしやし舌おかしいわ」
これだけの量を摂取していたとしたらもう内臓が馬鹿になっていそうなものだ。なのに不破の体は至って普通・・・・・・というかむしろ糖分とは無縁とまで思える引き締まりっぷりだ。
莫大とまで言えるカロリーをどこで消費しているのか全くわからない。
「余計なお世話だ。あと脳みそカプサイシンにハッキングされた馬鹿にゃ言われたくねえな」
麩菓子をばりばりと粉を散らしつつ食べ漁る不破・・・・・・もはや言葉も出ない。
「お前さあ、いろんな人から募金とかでもろた運営費まで手つけかねん勢いでスイーツ食うんやめてくれや」
「教会の運営はちゃんとするし運営費からちょろまかすなんて主を裏切るような真似すっかよ、食い散らかすとしてもテメェの財布だけだ」
さらっと外道の極みそのもののような事を言ってのけたぞこの男。
「・・・・・・エリート代行者ってのは決まって横暴や。ゴミ片すから一回のきーや」
「あ”ぁ!?ゴミじゃねえよ貴重な資源だろうが捨てんじゃねえ!」
「ちょっ俺まで巻き込まないでくれっすよ!」
雨霰と飛んでくる黒鍵。牽制のようなつもりなのか、壁に当たった瞬間に崩れていく。
その破片を拾ってみるとやはり真っ黒・・・・・・だが、光に当てると少しだけ輝いた。まるで鉛筆とかの芯みたいだ。
「・・・・・・まさか」
「ったく、ビニールを捨てるとか万死不可避なんだが。こんないい素材そうそうねえんだから」
ミニシュークリームのラベルを引っ剥がし、中身をもっすもっす頬張りつつ取ったそれを翻す。
脳裏に浮かんだだけの可能性が、一気に現実味を増していく。
そんなことがあり得るのか。魔術師やら教会の人間は科学を嫌うってのは嘘か。
「・・・・・・アンタ、もしかして・・・・・・炭素を操れるのか」
「まあそういうこった。この世界に有機物がある限り武器は無限、ってな」
また随分と厄介な。俺達のようなエーテル体ならまだしも、普通の人間ならば体は炭素まみれだ。
ビニールからでも炭素を取り出せるようだし、タンパク質とかああいうのからも抽出できるはず・・・・・・つまり、いざという時は敵の体から自らの武器を作れるであろうということ。人類にとっては味方最大の脅威そのものではないのか。
なおさら敵に回してはいけない存在・・・・・・どうにかして自分たちが悪でないと証明しておきたい。陰キャモードはいったんオフだオフ。
「んで、なんの用だ?ここにマスターすら連れず来たってことはそれなりに理由があんだろ」
「・・・・・・ああ」
俺は頷き、一度唇を強く噛む。躊躇ってはいられない・・・・・・克親のことを聞き出さねばならないのだから。
「あらや・・・・・・もねえぞ、テメェのマスターについて言うことなんてな」
既にこちらの目的は察しがついていたようだ。
だが、そう言われた程度で引き下がるほど今の俺はへなちょこじゃあない。
「それでも教えて貰いたいんだよ、アンタの脳みそ引きずり出してでも知りたいくらいにな」
「同性相手に随分とお熱だな。そんなに言うんなら・・・・・・力づくで情報を吐かせに来な!!」
「・・・・・・わかったよ、洗いざらい全部吐いて貰うからな!!」
なんかもう引くに引けなくなったので俺は教会の外へ不破と一緒に飛び出した。
入り口近くで唐川がにやにやと見ているがそんなものはもうお構いなしだ、今日は暴れ回りたい気分だし、こいつにリベンジもしたい。
周りに人がいないことを確認して、装備を顕現させる。魔力の問題から木剣は咄嗟に1本錬成するのが限界・・・・・・折れた場合は植わっている木でも引っこ抜いて戦う外あるまい。
『いいのか、本格的に監督役へ喧嘩売ってるんだぞ今』
いいんだ、どうせ衝突するのは避けられんだろうし。
自分とデルニを説得するようにそう心の中で言って、俺は剣の柄を握った。
5mほど向こうにいる不破も両手に3本ずつ黒鍵を生成し、ゆっくりと重心を下ろす・・・・・・俺を射抜く眼光はまるで大狼のようだ。
「・・・・・・せいぜい洗礼詠唱で消えないようにな!」
「そっちこそ情報出す前に死ぬんじゃねえぞ!」
同時に二人の足が地面から離れる。
向こうが見せるのはやはり直線的な投擲・・・・・・だが、埋葬機関に選ばれかけた代行者がその程度で済むはずがあるまい。
「追躡!」
案の定だ。
一度回避したはずのそれがいきなり軌道を変更し俺に向かって飛んでくる。
仕方なしに全部剣で叩き落とし黒鉛の破片に変えてやった。
「はぁあああ!!」
中近距離での戦闘が可能な不破に対してこちらは近距離専門。『”手に”持ったものはすべてデュランダル』という俺の性質上自らの手を離れる飛び道具はあまり使えないのだ。
相手の攻撃可能圏内に飛び込むというのはいささか危険だ。
でも、だからといって有機物がある限り武器が作れるという実質無限の兵器工場相手に逃げ回るというのはかなり難しい。奴の魔力がどれほどあるのかにもよるが、克親並みの生成量であればまずこちらがジリ貧で死ぬ。
だから短期決戦最高火力。所謂脳筋戦法だ。
「フラグメント・オブ・ノーブルファンタズム!」
さすがに真名解放というわけにもいかないので、50%ほどでの使用に踏み切る。なんかそれっぽい技名だけつけて、俺は剣へと魔力を注ぎ込んだ。
これで決められればよいのだが、そんな簡単にいくはずもない。
不破が新しく何かを作り出している・・・・・・恐らく俺にとって初見の何かだろう、それを出される前に叩く。
「どぉらああああああああ!!」
「猪かなんかかテメェは!」
ばしゃ、と返り血が俺の頬にべったりとつく。
研ぎ忘れられた包丁程度の切れ味しかないが、それでも十分なダメージではある。なおこの程度の傷怪我に入らんとでも言いたげにしている不破が取り出したのは・・・・・・