Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
勢いで書くとギャグみがすごいんじゃあ^~
「もう帰るのか?」
マンドリカルドの手首を引きつつ家へ帰ろうと階段を降りたところだ。
ちょうど焼きそばパンを全部平らげたらしい不破が小さくげっぷをしながらこちらを見てそう言った。
「まあな。いつまでも街をほっつき歩けるような身分じゃねえんで」
「山名一の名家なのにか?」
デザートとばかりにでかいメロンパンを開けて食いだした不破。クッキー生地の部分が見事にボロボロ床とかへこぼれているが気づいているのだろうかこいつは。
まあそういったことはどうでもいいと、俺はそのままマンドリカルドを連れ降りようとした。
その時である。
がくんと、とんでもない振動が俺達を襲った。緊急地震速報が鳴っていないし余震も無いため地震じゃあ無いのだろうが、高層建築物の上にいるだけあってかなり怖い。
「な、なんなんすかこれ」
「・・・・・・わかんねえ」
揺れの原因が何か全く判断がつかん。何かトラックが塔にぶつかった程度でこんな衝撃は走らないだろうし、ましてや巨人がダイレクトにここを掴んで揺すったなんちゅうファンタジックな話も有り得ない。
だとしたら、付近の海底で実験か何かをしていたのだろうか・・・・・・例えば、クロスロード作戦のように水中で核兵器を使ったとしたらこんなことになってもおかしくはない。
だがここは誰がなんと言おうと非核三原則を掲げる日本だ。こんな大勢が観測できるような場所でわざわざやるわけがないしそもそも持っているはずがない。だとしたら他国の侵攻かなにかか。こんな島まみれの瀬戸内海を狙ってくるなんてよほど技術に自信があるってことなのか・・・・・・?
「テメェら、なんかややこしいこと考えてるだろうが話は結構単純ぽいぞ。海のほうに注目してみろ」
こぼしまくったメロンパンのかけらを集めてもともとパンが入っていた袋に戻していた不破が立ち上がり、ガラスの外を見やる。
何も見えないが、強い魔力を感じた・・・・・・まさか、マスターがこんな神秘の秘匿ガン無視のような行為をやるってのか?
「このままほっときゃ俺らはともかく海にいる奴は全員屠られること間違いなしだ、こんな横暴あってたまるか」
「ど、どうするんすか!さすがに俺海は泳げないっすよ基本内陸の人間だし!!」
確かに、マンドリカルドの住んでいた位置(タタール人は遊牧系の民族だったらしいので定住地は知らんが)は大概モンゴルあたりの内陸部。泳げるようなところがあってもそれはだいたい湖か川くらいだったはずだ。
そして彼の冒険が描写されているオルランド系列でも、海では船を使って移動していた覚えがある。
あと水浴びエピソードとしては馬も武器も持たず軍を飛び出したが案の定途中で困ったので、偶然見つけたテントっぽいところからパチろうとした結果なんやかんやあって火で身包み全部燃やされ飛び込んだ泉で云々・・・・・・という話。
潮の流れがある海で泳がせるのも危険(このあたりだと離岸流もちょくちょく発生するそうなので尚更)。その上今は海開きすら行われていない春、しかも夜。
「・・・・・・それはそうだよな、どっかにモーターボートでもありゃ」
「おっと作戦会議中悪いが・・・・・・出てきたぞ」
海面から現れたのは巨大な軟体生物らしい何かの足。少し赤っぽいので表現するならばクッソでっかいタコ、と言ったところだろうか。いや鱗らしき何かがついているので不適切か。
来場者もそれを見たせいか我先にとエレベーターへ乗ろうとして向こうは混沌としている。できるだけ魔術に関する話は人に見られたくないので、こっちにとっては好都合っちゃ好都合だがあの様子を見ていると事故が起きないか心配だ。
「お、おおおおおおオルクぅうううううううう!?!?」
「落ち着けセラヴィ!多分あれ全然違う何か!プリニウスのおじさんこんなグロキモイ生命体そういう風に呼んでないよ!?」
海魔オルクといえばシャルルマーニュ伝説及び狂えるオルランドに登場する生物だ。
マンドリカルドも狂えるの方で二度ほど戦ってなんとか生還していたはず・・・・・・さすがにこれだけで真名はバレないだろうが関係者であるということはわかってしまうに違いない。というわけで錯乱の末かなり危なっかしいキーワードをぶちまけるマンドリカルドを止めてなんとかその場でごまかしつつ、俺はこの場を切り抜ける策を講じる。
「と、とにかくあれ鎮静化させねえと、ここらへんうろついてるクルーズとか漁船ひっくり返ってえらいことになる!」
「・・・・・・カナヅチ×2じゃああれの相手はきついか?」
「なんで俺が泳げないってこと知ってんだよ!!」
ああそうか不破は俺のこと何でも知ってるとかいう意味分からん人間だったな、と思い出して唇を噛みつつ窓から下を見る。
何でもいいから泳ぐ以外の方法で移動できるものはないか、と探し回るがいかんせん暗くてよくわからん。
こうしている間にも地響きのような振動がタワーを揺らしている・・・・・・恐らくオルク(仮称)が移動を始めたのだろう。
「しゃーねーな」
不破がこちらへと手をわきわきさせながら近づいてくる。よからぬことを企んでいるに違いない、絶対めんどくさいこと考えてるだろこいつ。
「な、何するつもりだって首根っこ掴むんじゃねえよ!」
「暴れんなよ、200m下でトマトみたいに潰れたくなかったらな!あとテメェは一回霊体なって下で待ってろ、こいつ連れてくから!」
「りょ、了解っす!」
納得するんじゃねえよと叫びたくなったがもう遅い。
マンドリカルドの姿が霧のように消え、反応が一瞬で薄れる。霊体特有のすり抜け能力で一気に下まで降りたのだろう。
それを確認したであろう不破が俺を掴んだまま窓の方へと走り始める。
嫌な予感とかそういうものを認識する前に俺の頬を風が嬲った。
「アホかお前はぁあああああああああああああああ!!!!」
タワーのほぼ最上階から紐無しバンジーとか誰がやっても気絶間違いなしの行為を了解も取らずやりだす不破は、どっか倫理観というか道徳観がぶっ飛んでいるのではないか?
非人道的な行いにも程があるぞと言いたかったが落下していくために顔面が食らう風圧でまともな音が発せない。
「・・・・・・っとぉ!!」
いきなりびん、と上から引っ張られたような感覚がして俺は上を見る。
タワーの鉄骨部分になにやら真っ黒な紐っぽいものが巻き付いているようだが、あれは何なのだろう。見たところ不破の手首からまるで某ヒーローのように飛び出ているっぽいが・・・・・・
「タワーが鼓型で助かったな。下手したらお前の顔面鉄骨に激突してたかもしれなかったぜ」
「しれっとなんてことを言ってくれるんだお前は」
さすがに自然治癒力をいくら強化したって顔面の骨折はそう簡単に治らない。海が使う回復の術式でもかなりの労力を消費するだろうし。
損害賠償請求したらきちんと払ってくれるかどうかも怪しい奴に俺の体は任せられねえ・・・・・・と言いたいところだがここでそんなことを言ったら『そっか、じゃあ自分でなんとかしろ』と俺の体を掴んでいる腕を離されて終わり(死)間違いなし。この高度ではいくら俺の強化があっても無理である。
「まだ暴れんなよ、ここで落ちても強化してなかったら全身骨折だからな」
「・・・・・・わかってる」
徐に不破が靴の片方を脱ぎ、俺に持っていろと言ってきた。ついでに靴下も脱がせと命令されたので不本意ながらもバランスを崩さぬよう丁寧に脱がせ靴下をポケットにしまう。
「これで安定降下出来るんだからそういう顔すんじゃねえよ」
足の先からもなにやら黒い紐を出して50m程下の鉄骨に巻きつけた。
手首から出ている方を少しずつ伸ばして、逆に足から出ている方をしまい込むことによって風の干渉をなるたけ抑え込みつつ降りる、ということなのだろう。
俺の予想通り不破はそれなりの速度を保ちつつ降下し、途中で紐を付け替えるなどしてそのまま地面まで到着する。
命綱もなしにぶら下げられている俺としてはいつ落ちるかわかったもんじゃないという恐怖心でみっちりだったが、まあ何事もなかっただけよかった。
「克親、なんも危ないことなかったっすか」
「ああ、なんとか無事には済んだが・・・・・・不破、お前俺をほっぽって行けば良かったのになんで連れ出したんだよ」
俺を敵視しているんじゃなかったのか、と素朴な疑問をぶつけた。
監督役なのだし、起きたことの隠蔽さえしていればよいものなのに・・・・・・
「俺ひとりであんなんの相手は無理だからな。タダ働きしてくれ、でないと後でテメェの首もぐぞ」
「っ・・・・・・わ、か、った、よ!!」
もはや脅迫に等しい不破の提案を嫌々飲み、俺は靴下と靴を投げつけた。
どっちにしろ魔術に関する騒動なのだから、俺がみて見ぬ振りをするわけにもいかん。不破に屈した訳なんかじゃねえと自分に言い聞かせるしかなかった。