Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
まあ87話まで読んでくださってる方はよくおわかりかと思いますが()
「んじゃお先に」
何事もなくバスに揺られ、教会前で不破が降りていった。
帰宅ラッシュ直撃ということもありけっこうなすし詰め状態だったので、窮屈そうにしながら人の間をすり抜けていく。
「・・・・・・今日も大変だったな」
「そっすね、あれで大変じゃないって言うんだったらこの世界に大変っちゅう事象がなくなるっすよ」
さすがに疲れたのだろう、マンドリカルドがぐへぇとぐうの音を漏らしてバスの窓に頭を寄りかからせた。
そんなことしたら脳が揺れるぞ、と注意しようとしたがサーヴァントにそういった脳震盪みたいなのはないのか平然としている。
「それにしても何だったんだろうなアレ」
「・・・・・・さあ。俺には計り知れないなにかっすよ」
反応が近くになかったため、恐らくサーヴァントの召喚したものではないと推測できる。
だが、舞綱の魔術師であそこまで大きな召喚獣をやる奴なんて知らない。外から入ってきたという可能性も否めないが、俺の直感は違うぞと囁いている。
「あの類なら、八────」
『胎児よ 胎児よ 何故踊る 母親の心がわかって おそろしいのか』
「・・・・・・あれ?」
俺は何を言おうとしていたのだろう。
馬鹿な、まだ30にもなっていないのにここまで完璧など忘れなぞ平尾家の名が廃るってやつだ。
思い出せ、脳内から無理矢理にでも引っ張り出して・・・・・・
「克親、もう降りるんじゃないっすか」
「あ、ああそうだな・・・・・・すまん」
結局、何を言おうとしたのか忘れてしまった。
大事なことだったと思うからなんとか掘り起こしたいのだけど、どれだけ思考を巡らせても戻ってくることはない。
仕方なく俺はマンドリカルドと一緒にバスを降り、家へと続く坂道を上っていく。
少しずつ春・・・・・・そして初夏を感じさせるような風が吹き、俺たちの服をはためかせる。
「・・・・・・不破から、なんかいらんこと吹き込まれてないか」
「・・・・・・いや、なんにも」
見え透いた嘘だった。
「言うなら、今のうちだぞ」
「・・・・・・ほんとに、なんも言われてないっす」
あくまでも口を割る気はないようだ。
ここで強引に白状させるという手もあるが、路上でそんなことをやってしまえば1000%警察のお世話になること間違いなし。
どうすれば彼の口から自発的に漏らすことが可能か、と考えたがそんなによい案は浮かぶわけもない。
「俺のこと知りたいんだったら言ってくれ。お前になら、話せるから」
「・・・・・・そう、すか」
ずっと俯いたまま、目を合わせようとしないマンドリカルド。
どうやら相当話したくないようだが、もう今は放っておくしかないのが歯痒かった。
「おけーりー」
「・・・・・・ただいま」
久々に誰かの声へ返事する形でただいまを言ったと思う。
靴を脱いでそのまま酔っ払いのようにふらふらしながらリビングへと転がり込む・・・・・・が、海の顔には労いの感情ひとつも存在しない。
「なんだよ、マブダチ迎えに行ったくらいでそんな疲弊するもやし人間だったかお前は」
「・・・・・・単なる迎えだったらここまで疲れねえよ」
なんだか体が重たいのだ。
オルクとの戦闘中マンドリカルド相手に使った魔力なぞ俺の回路をもってすれば1分程度で回復するし、隠蔽に使った結界もそんなに燃費が悪いわけじゃない。というのに、なぜか魔力失調を起こしたような症状が出てきている。
まさか、人知れず不破に吸い取られていたか?否、あいつの出力からして普段より相当量ため込んでいる筈だし、性格上敵視している俺からちょろまかすという行為などしないはず。
最近不可思議なことが多過ぎて頭が変になってしまいそうだ・・・・・・
「帰る途中、海からでっかい魔物が出てきて・・・・・・あの監督役と一緒に戦って殺したんすけど」
「・・・・・・あぁ、あの鱗タコか。俺のとこにもいくらか情報が回ってきてた。サーヴァント関係の術式じゃ無さそうってことだったが、なんだかんだでアレお前らが倒したのか」
そうだ、とだけ言って俺はカーペットに寝転んだ。長いこと使ってきたせいでもふもふ感が一切残っていないが、ついた匂いが嫌いじゃないので交換できずにいるやつ。
「セラヴィと不破がうまいことやってくれたわけだ。俺はなんもしてねえのに疲れた、あと腹減った」
「篠塚曰わくあと45分待てだそうだ。先風呂入ってきな」
「・・・・・・うぃー」
寝室に足を運んで、着替えをクローゼットから引きずり出す。
ポケットにそれをしまい風呂場へ移動し服を脱ぐ。
扉を開けたところ入浴剤を入れていないっぽいので、洗面台の下にあるラックから一個取り出して適当に投げ入れた。
「・・・・・・はぁ」
タオルとドライヤーだけ用意して、そのまま浴室に入った。
かけ湯を数回して浴槽に飛び込むと、湯がざぱり、俺の体積分だけ溢れ出る。
『なんなんだ、この違和感』
湯の中でぶくぶくと泡を吐きながら、俺は考えていた。
むず痒い、どれだけ掻いても発生源には届かなくて永遠にかきむしり続けている時のようなもどかしさを感じている。
俺の知らないなにかを知っている不破と、不破からそれを教えられたであろうマンドリカルド。
そして、どこか俺に関しての隠し事をしている海。
自分の知らない領域で情報をやり取りされるのはけっこう腹立つ事なんだなとか思いつつ、頭まで浴槽に沈めた。
『俺は・・・・・・誰、なんだ』
ふと、疑問に思う。
自分の全てが、嘘だったとしたら。自身を”平尾克親”と思いこんでいるなにかだとしたら。
俺は、何になるのだろう。
手を見つめる。
見慣れた自分の手だというのに、今だけはなぜか恐ろしい。
例え本物であったとしても、この肉体の連続性は保たれているのか。
細胞は刻一刻入れ替わり、古いものは棄てられるか分解される。
これは最初の俺と同一なのか、それとも、違う個体なのか。
今まで考えつかなかったか、思いついても馬鹿馬鹿しいと笑っていたことだったのに。
どうして今俺の中で膨れ上がっているのだろう。
あぶくをぼこぼこ破裂させて、水面の外を覗き込む。
「ぎゃああああああああああああああ!?!?」
なにやらマンドリカルドの絶叫が聞こえたので何事かと浴槽から飛び出した。
ちょうど風呂場の床にぺたんと正座を崩したような女の子座りをしてかたかた震えているのが観測できたが・・・・・・
「どした」
「10分もシャワーとかの音がないからなんか不安になって、見たら溺死してるかと、思って」
10分もやっていたのか俺は。
確かに風呂はいってしばらく音がなかったら頓死を疑うのもわかるが今はもう4月に入るかってところだ。よほどの手抜かりがない限りヒートショックのようなことは起こらない(はず)。
「・・・・・・心配して来てくれたのは嬉しいが杞憂だぞ」
「それならよかったんすけど」
青ざめたままの表情で風呂場を出て行こうとするマンドリカルド。
・・・・・・このまま帰すというのもなんかなあと思った俺は、とち狂った発言をぶっ放す。
「一緒に入らねえか、セラヴィ」
「・・・・・・は?」
そりゃ『馬鹿かこいつ』みたいな顔するわな。