Fate/Serment de victoire   作:マルシュバレー

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七日目の長さが露骨()


88話 七日目:プロのピッチャー(水差し的な意味で)

「嫌か?」

 

「い、嫌って訳じゃぬぇーんすけど、そんな心の準備っつーかなんつーか・・・・・・」

 

体の前で手を細かくこねくり回しながらマンドリカルドはそう告げる。

やはりまだこっぱずかしい感覚があるらしく、ダメそうな気配・・・・・・

 

「そっか。残念だ」

 

俺がそう言ってまた湯船に轟沈しようとしたところで、慌てて彼は止めにくる。

そんなに焦ったら濡れた床で滑るぞと言いたくなったが、その言葉が俺の口から出ることはなかった。

なぜなら、芸術的なまでの転倒でマンドリカルドは頭から浴槽に突っ込んだからだ。

どぼちゃあというわかりやすい水しぶきと衝撃、俺が中で足を畳んでいなかったら大惨事になっていたであろうことが間違いない軌道で突入する頭。

綺麗な犬神家状態になった彼をなんとか助け、一度風呂場の椅子に座らせた。

長い前髪と特徴的なメッシュの入った横髪がじっとりと濡れ、顔面一帯にはりついている。

 

「ドジっ子属性持ちかお前」

 

「そんな属性つけた覚えは断じてないっす」

 

濡れそぼった前髪を分けつつマンドリカルドがきっぱりと言った。

まあそんな属性進んでつける奴なんているわけがないだろう。

 

「・・・・・・もう濡れちまったものはしゃーねーし、入るっすよ」

 

着ていた服が一瞬で霧散し、一糸纏わぬ姿へと変わるマンドリカルド。

やはり、いつ見ても脇腹の傷跡は痛々しい。

 

「・・・・・・なんすか?」

 

「いや、なんでもねえよ」

 

いたたまれなくなって視線を逸らした。

 

「・・・・・・ここの傷っすか」

 

図星を突かれ俺はぐ、と言葉に詰まる。

こういうとき何を言えばいいのだろう、否定するべきか、それとも肯定するべきか・・・・・・

 

「別に克親が気負うようなもんじゃないっすよ。これは愚かだった俺を忘れないための、自戒の傷っす。これを免罪符にしてるんじゃないか、って言われたら否定できぬぇーんすけどね」

 

傷を指先でつうと撫で、マンドリカルドは小さく笑った。

これで許されようと思っている自分自身をせせら笑うような乾きが透けて見え、こちらもかける言葉がない。

 

「・・・・・・─う」

 

何か鏡に向かって彼が呟いたようだが、声が小さかったせいで聞き取れなかった。

なんか言ったかと聞いてみても、気のせいじゃないっすかとはぐらかされるばかり。

釈然としないが、言いたくないような話なら追求しても向こうの気を悪くするだけだ。

 

「俺もそろそろのぼせそうだから入るといい。髪とか洗わなきゃだし」

 

「うっす、じゃあ失礼して」

 

湯をかけることで体を慣らし、ゆっくりと湯船に足を浸す。

 

「熱いとかねえか?俺42度派だが熱けりゃ下げるぞ」

 

「大丈夫っすよ。こんくらいが気持ちいいっす」

 

肩まで沈んでふうと安堵したときのような声を漏らすマンドリカルド。

ここ最近忙しかったせいでこういったリラックスできる時間も少なかったはずだ。今だけはあまり邪魔しない方が良さそうか。

そんなことを思いながらシャワーで髪を濡らして、俺はシャンプーボトルの頭を二度押した。

いつも通り髪を洗いつつ鏡の中を見たが、特になにもないただの鏡だ。

マンドリカルドは一体何に対して声をかけたのだろうか、疑問は深まる。

 

「・・・・・・克親。俺、欲に忠実でいたほうがいいんすかね」

 

「どうした唐突に」

 

真っ暗かつブラインドがあるせいで外の景色が一切見えない窓を眺めながらマンドリカルドはそう問った。

どういう欲かにもよるが、基本は発散させてあげた方がよいものだ。

 

「まあ、常識の範囲内でならいいんじゃないか?抑制しすぎたって良いことねえし」

 

「・・・・・・常識、すか」

 

髪をかきあげて呟くマンドリカルド。

常識というものがどういうものかなんて個人の解釈によりいくらかは変化するだろうが、彼の欲というものが具体的にどんなものかわからないため曖昧なことしか言えないのだ。

 

「俺みたいなひねくれた非常識な魔術師になんざわからないが、とりあえず人に危害を加えないとかものを盗まないとか社会一般の規範さえ守ってりゃどうにでもなるもんよ。深く考察しようとすると際限なく考えることになるぞ」

 

「・・・・・・そうっすよね。言ってくれてありがたいっす、克親」

 

全体に泡が行き届いたところでシャワーにて洗い流し、そのまま顔も洗う。

顔面が濡れるというのが苦手な類なので、一気にやることだけやってタオルで水分を取った。

 

「背中、流すっすけど」

 

「じゃあお言葉に甘えてやってもらいますかねー」

 

椅子を少しだけ前にやって、ボディソープのボトルを一回彼に渡す。

きゅいきゅいと軽い音に続けて少し粘ついた音がしたと思えばすぐに背中へひんやりとしたものが触れた。

誰かにこうやって触られるというのもいつぶりだろうか。少しくすぐったくも感じてしまう。

 

「なんかあったら言ってくれっす」

 

「あいよ」

 

手のひらが何度も触れる。

石鹸と風呂場特有の匂い、水滴の垂れる音しかしなくなった室内。

 

「・・・・・・克親。俺は、立派な騎士になれるんすかね」

 

マンドリカルドが口からぽろっとこぼしてしまったかのようにそう呟く。

 

「俺、まだ自分を信じられなくて・・・・・・怖いんすよ、どこかでまた下手こいて失うのが」

 

俺の背中に隠れて見えないが、とてつもなく哀しい声を聞くだけで表情がわかってしまう。

またなにか自信を失うようなことがあったのだろう、恐らくは、不破とのやりとりで何かを・・・・・・

 

「大丈夫・・・・・・大丈夫だ。俺はお前を信じてるから、お前は俺を信じてくれればそれでいいんだ」

 

俺が信用できなかったらそれで終わりなのだろうけど、今だけは少し自信ありげな言い方をしてみた。

こういうところであんまりなよなよしていても説得力がないだろうし、理にかなっている・・・・・・はず。

 

「・・・・・・ありがたいっす。こんな俺の戯れ言につきあってくれて」

 

「どこが戯れ言だ。大事なことだろ」

 

背中を洗う手を止めさせ、俺は一度体の向きを変更する。

マンドリカルドとまともに向き合う形になり、泡まみれになった彼の手を握った。

なぜか頬を真っ赤に染め、唇をもにょもにょと噛むマンドリカルド。視線はもちろん明後日の方向である。

このまま話を続けるわけにもいかないので俺は彼の顔を横から手で挟み込み優しく此方へと向けてやった。

 

「・・・・・・克、親」

 

「俺だって不安だし怖いけどさ、それは────」

 

「ご飯できたってよー・・・・・・ってなんでお前ら風呂場でキスする3秒前みたいなことしてるんだ」

 

ここまで完璧な水差しがあっただろうか。

つか海お前仮にも女だろ、いや男でも人の風呂を正々堂々と見にくるとかおかしい。

綺麗に凍りついた俺たち二人を見て、また性根の腐ったような笑い声をあげやがってこいつ。

 

「一回ドア閉めろ寒い」

 

「えーやだ」

 

「いいから閉めろ馬鹿野郎!!」

 

「俺からもお願いするっす!!」

 

男子二人の絶叫が響き渡る(風呂場という場所も相まってことさら反響しまくっている)。

人を小馬鹿どころか大馬鹿にしたような表情をしながら海はそのドアを閉めていった。あいつほっといたら会社のやつか誰かに言いふらしかねない、あとで弁解もしくは記憶奪取しておかねば。

・・・・・・もうマンドリカルドを元気づけようとか思って放とうとした言葉の続きは言っていられない、こうなりゃさっさとあがる。

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