Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
荷物入れに詰め込まれたままかれこれ10分程度揺られているが、運転席とかに乗っているやつらの会話が全くない。
終始無言でただただ移動を続けているだけなので、なんだかこちらも怖くなってくる。
『・・・・・・どうなるんだろうな、俺たち』
『わかんねっすよ、俺には』
あの手この手で脱出を試みたが無駄だった。
一ミリたりとも縄は緩まず、俺の体を縛ったままだ。轢かれる可能性を顧みず、荷物入れの扉を開けて転がり出ようとも思ったがこの車は内側から開けることが不可能なやつらしく、徒労に終わっている。
処刑台までどんどん近づいているというのにここまで手をこまねいていてはどうしようもない。
マンドリカルドも力を完全に押さえ込まれているようで、ちょっと首を動かすくらいで限界らしいのだ。
こういうとき都合よく検問とかしてくれてないかなと考えたがあるわけもなく、不破とかが来てくれてわざわざ助けてくれるなんて甘ったれた理想も駄目だと捨てた。
『俺が何したってんだよ・・・・・・』
『・・・・・・克親は、なんにもしてないっすよ。なんにも』
何かを知っているような口振りで、念話をよこしてくるマンドリカルド。
問い詰めたい思いがこの状況で先行してしまったせいか、俺はつい漏らしてしまった。
『お前、やっぱなんか知ってるだろ。教えてくれ、頼むから』
『・・・・・・駄目っすよ。あいつとの約束は絶対に破れないっす』
俺より不破の方が重要なのか、と少しむっとしてしまう。
『そうか、お前ってそういう奴か』
情けない。
自分の優先度が少し低いってだけで拗ねるなんて、子供じゃねえんだから。
『・・・・・・俺は、アンタのことを思って』
『そんな言い訳は別にいい』
振りかぶった腕が止められない。いい大人だってのに、なんでこのくらいでキレるんだよ。
自分が嫌になってくる。彼にとっての最善を貫こうとしているだけなのに、俺の勝手で邪魔するべきでないとわかっているのに・・・・・・自分の中でくすぶる歯がゆさ、或いはもどかしさが嫌に背中を押してくるのだ。
『・・・・・・信じてたのに、残念だ』
『・・・・・・っ!』
無理やり体を捻って寝返りを打った。
目が慣れてきたせいで、真っ暗の中でも彼の顔が見えるようになっていたから。哀しそうな顔を、見たく無かったから。
自分勝手だと言葉を投げつけてから思う。
思い通りにならなかったからって傷つけていいわけがない。友として・・・・・・いや、人としてどうかしている。
後悔してももう遅いのに、今になって胸が痛い。
『・・・・・・克、親』
念話の声が震えている。
自分で傷つけておいて”泣かないでくれ”と言えるほどの勇気は、俺にはなかった。
「ほら着いたぞ」
車が止まったかと思うと唐突に荷物入れの扉が開き光が差し込んでくる。
光に慣れていないせいもあってかなり目が痛い。瞬きを10回くらい高速でやって、なんとか正常な視界を取り戻した。
「・・・・・・早く出ろよ」
「どこに目玉付けてんだよお前、この状況で出られるわけあるか」
足までがっちり拘束されているせいでジャンプか尺取り虫ムーブくらいしか移動手段がない。
荷物入れの中から出ることすらままならない状態でどうやって動きゃいいんだか。
「・・・・・・しゃーねーな」
軽々抱え上げられ海の肩と俺の腹が触れるような体勢で運ばれる。
アサシンによってマンドリカルドも同様に輸送されていく。
周りの様子ビルとかを見るに中央医療センターの一角らしい。周りを高い塀で囲われているので恐らくVIP用の入り口かなんかだろう。
建物の中に入った直後からエレベーターでかなり下の階へと降りる・・・・・・駐車場とかではないだろうしどんな階層なんだと思っていたが、扉が開いただけでで答えはわかってしまった。
「・・・・・・隔離施設ってとこか」
「そうですよ?”また”暴走して逃亡されたら困りますんでね」
廊下を少し歩いたところで出てきた真っ白な扉。
それが開いたところで出てきたのは扉同様に純白の部屋である。
「・・・・・・またってなんだよまたって」
右端に寄せられたベッドへ転がされ、そのまま縄を解かれる。
今くらいしか逃げ出すタイミングはないと身構えたが、八月朔日はそれもお見通しらしい。
「変な動きをしたらこの子殺しちゃいますよ~」
アクリル板らしい板の嵌められた壁の向こうで、アサシンがマンドリカルドの首もとへ刀を突きつけている。
彼はマスターが無事に済むってんなら死んでもいいと言いたげな顔でただ目の前を見つめていた。
どうやらマジックミラーらしく、俺の姿は向こうに見えていないのだろう。
「・・・・・・そこまで卑劣だとは思わなかったな。目的のためならなんでもありか」
「魔術師にとってそれは基本でしょ?あなたから望んだ結果を引き出すためなら、あの子をどれだけ痛めつけようとも構わないもの」
趣味の悪い顔を浮かべながら、八月朔日は踵を返して部屋から出て行ってしまった。
「・・・・・・ったく、やり口がいっつもダメダメなんだよなあのクソアマ」
縄を簡単に纏めて海はそいつを肩に乗っけた。
そしてポケットから細いブレスレットのようなものを取り出してきて、俺の右手首につけてくる。
「・・・・・・なんだよこれ」
「魔術を使った瞬間に無効化した上で制裁を加える礼装だとよ。お前の魔術汎用性の塊だからな」
そのあたりは対策されても仕方ないとは思っていたが、いざやられるときついものだ。
魔術さえ使えれば右手で初級の爆破術、左手で威力増大の術を編み・・・・・・あわせるだけで結構な威力にはなる。
術式の同時展開は結構難しいが、長いことやりまくって慣れてくれば息を吐くように出来るのだ。
「あーあ、お前と八月朔日ごと巻き込んで自爆してやろうと思ったのにつまんねえの」
「そんな軽口叩けるうちはまだいい。こっから結構やべーことが始まるからな」
「・・・・・・結構やべーことってなんだよ・・・・・・っておい待て話まだだろ!」
出ていこうとする海を捕まえようと俺はベッドから飛び降り走ったが雑に腹を蹴られてぶっ飛ばされた挙げ句追いつけなかった。がちゃんという無機質なロック音が丁寧に現実をお知らせしてくれる。
鳩尾のすぐ近くにヒットしたせいで結構息がきつい・・・・・・
「さて、そろそろライダーくんも一回座らせてあげなさいな。今くらいは優しく・・・・・・ね?」
今くらいは、という言葉が引っかかった。
まさか、本当に痛めつけるつもりなのか?何の罪もない彼を、俺に望んだ結果を出させる為ならば・・・・・・
「・・・・・・な、何をするつもりっすか」
「簡単なこと。あなたの知ってる情報を話して欲しいから、無理矢理にでも吐かせるの。大事なマスターについて、秘密にしていること全部言ったら許してあげる」
「んなことするわけがないっす、どんなことされても絶対に」
彼はそう、毅然とした態度で言い放った。
「残念ね。アサシン、みっちりやってくれて構わないわよ」
「・・・・・・御意」
少し躊躇ったような素振りを見せつつも、アサシンはそう呟いた。