Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
「あーあ、ついにバラしちまったかー」
「・・・・・・どの面下げてこっちに来たんすか」
俺達を裏切っておいて、よく飄々としていられるな。
煮えたぎる怒りを吐き出しても吐き出しても収まらない。
「・・・・・・不可抗力ってぇ奴だよ」
一応病院の一施設であるこの隔離部屋で堂々と煙草を吸いわざとらしく煙を吹きかけてくる。
目が痒くなるし、篠塚も嫌そうな顔で見ているからやめてほしいのだが・・・・・・止める気配は見受けられない。
「・・・・・・不可抗力不可抗力ってなんなんだ、それ言っとけばどうとでもなるって考えてるんすか」
「あいつと俺がくたばらねえで済む方法がこれしか無かったんだよ!」
ずっと眠たげな目をしていたのが一気に見開かれ、そう吼えられた。
一瞬気圧されて腰が引けてしまったが、ここで逃げるわけにもいかない。
「お前に赦されなくってもいい、俺は俺にできる最善を尽くしてるだけだ。嫌がるなら勝手にしてくれていい」
「・・・・・・マスター、今そんなこと言ってる場合じゃないですって」
俺をそれとなく手当てしてくれている篠塚・・・・・・向こうに俺を殺すつもりは一切無いらしいが、信用は全くできない。
彼女らにとっての最善は、俺達にとっての何なのかがわからないからだ。死を回避できたとしても、もしかしたら克親はこの戦いが終わったら本格的に生体兵器として操られるかもしれない。
例え感情を失っていたとしても、人を殺して回るだけの物体になるだなんて・・・・・・克親は望んじゃいないはずだ。
「アンタは、何をもって最善にしてるんすか。ただどっちも死ななきゃいいってだけじゃないっすか??」
「・・・・・・んなわけあるか。俺らはともかく、あいつは、あいつだけは────」
彼女は携帯灰皿に煙草をねじ込み火をもみ消した。
俺に何か伝えたいことがあったようだが、言い出す寸前に思いとどまったらしい。
「篠塚、セラヴィを頼む」
「どこにお出かけですか」
「・・・・・・あいつが世界一嫌ってる奴のとこだ。あいつ馬鹿だから適当に煽ってりゃ釣れるし」
まだ中身のありそうな煙草の箱を部屋の隅にある机へ置き、彼女はそのまま出て行ってしまう。
「・・・・・・行ってらっしゃいませ」
「ああ、しばらく頼んだ」
ゆっくりとドアは閉じてゆく。
克親が世界一嫌っている奴・・・・・・となると俺の知る限りじゃあ答えは一つしかない。
おそらくそれは唐川だろう。不破はアヴェンジャーのやった事件の処理で忙しいだろうし、そもそも現監督役だから容易に手出しはできない。
唐川であれば現状教会にいるだけの完全ニュートラルな存在なので、味方につけても問題ではないだろう。
「・・・・・・あの人は何をする気なんだ」
「それは、神のみぞ知るって奴ですよ・・・・・・おっと、もうご飯の時間ですしちょっと行ってきます。あとで持ってきますね」
俺の腕に細い包帯を巻き終えて、彼も部屋から出て行ってしまう。
彼らには自由な行動ができる権限があるようで、勝手に料理やらなにやらができるそうだ。
「こんな時にいいっすよ、俺なんかに・・・・・・一応、敵同士でしょうが」
「何言ってるんですか。敵だろうがなんだろうが、あなたは同じ釜の飯を食べた仲間なことに間違いはないでしょ。あなたが折れちゃあ旦那どころかこっちも困りますんで・・・・・・絶対挫けんじゃねえぞこの野郎」
いきなり凄まれてビクッとしてしまった(陰キャにありがちな症状)が、彼の言葉で少しは踏ん切りがついたかもしれない。
俺が膝を折ってしまえば、全てが終わってしまう。
明確な克親の味方が・・・・・・友達が、家族が、誰もいなくなってしまう。
今の俺にできることはほぼ何もないけれど、それで諦めちゃあだめだ。
「・・・・・・わかった。そこまで言うならこの体が保つまで戦ってやるよ」
大見得を切ってやる。
最後まで戦い抜くと、断言してやった。
「局中法度に追加だな・・・・・・第6条、勝手に死んだら許さん」
「俺まさかの新撰組入りっすか」
「・・・・・・そういうこった」
へっ、と軽く笑って篠塚(中身はおそらく土方)は出入り口まで移動する。
「・・・・・・それにしても八月朔日のやつはいけ好かねえな」
「いけ好かないってまた直球なこと言うっすね」
「なにしろあの断崖絶壁だからよ、あんなんじゃ満足いくわけねえだろ」
・・・・・・こんな状況だというのに平常運転で何よりだ。
向こうの方で結構がこがこと音を立てつつ調理する音が聞こえてくる。
こういう家で聞くような生活音は少しだけ俺の平常を取り戻してくれるのだ・・・・・・
「・・・・・・あー腕いってえ」
既に傷は消え去っているが、やはりまだ痛みが残っている。
手加減してくれたとはいえここまで酷いとなると、篠塚の本気というものを想像してなんだか勝手に体が震えてしまう。
どうやら今は100%完璧な敵ではないようだし、なんなら此方を応援してくれるような素振りまで見せている。
隠された意図が読めない限り信用を置くことはしたくないが、向こうに合わせて一応こちらも宥和策くらいはとっておきたい。
「・・・・・・俺はどうすれば一番いいのか・・・・・・わっかんねえなあ」
『言っただろう、彼と共にあれ』
「・・・・・・克親と共に・・・・・・か」
デルニの言葉を半分聞き流しながら、俺はそう呟いた。
この部屋から出たら問答無用で消滅まで追い込むぞと脅迫されているので、余程の勝算がないと脱獄するわけにもいかないだろう。
『・・・・・・彼を、抑止力なぞにするわけにゃいかないだろ』
「・・・・・・俺がそうだからな」
そう、俺はブラック企業抑止力としておなじみの人類の無意識アラヤに雇われて、人類に仇なす悪を始末するための殺し屋をやらされている。どういう理由か、今までそのことを忘れさせられていたが。
今際の際に『強くなりたい』という願いが受理され、あの時の俺は契約文書の隅っこに書かれていた「終身雇用」という文字を見ていなかった。
おかげで何度も何度も最低限の力しか出さないでおなじみのアラヤに、こんな戦いばっかり強いられていたのだ。
デルニが意図的にそのことを俺に隠していたのも、途中からは薄々感づいていた。
明確にそれを知ったのは不破の口からであった。彼は世界を自由に飛び回って人類へ刃を向ける悪を断罪するうちに”そういうの”がなんとなくわかるようになったらしいが・・・・・・そんな特技あっていいものなのだろうか。
そこらへんは少し怪訝に思うが、事実その感覚は当たっていたのだし信用せざるを得ない。
「・・・・・・俺がここにいるってことは」
『まあな。なんとなく原因は察せるがまだ確定事項じゃない。つーわけで、まだまだ俺らの役目はみんなにゃ内緒な。不破も漏らさんだろ』
「・・・・・・ああ」
俺にはやるべきことがある。
使命を果たすためならば、この体がみじん切りにされようとも生き伸びてやろう。
あ、いや、霊核を粉々にされたり克親との繋がりが絶たれたらさすがに無理ではあるが。