Fate/Serment de victoire 作:マルシュバレー
ペロニケさんにドクズ要素バチクソ放り込んだみたいになりましたわ八月朔日のヤツ()
調理の音がまだ聞こえる中、突然部屋のドアが開く。
司馬田が唐川を無事釣って帰ってきたのかとそこに目を向けたが、現実はそう甘くないらしい。
「ご機嫌はいかがですか~?」
「・・・・・・最悪に決まってんだろ」
俺らにした仕打ちなんて忘れているかのような八月朔日の振る舞いには反吐が出る。
今すぐ殺せるもんなら殺してやりたいのだが、ここで下手をこいたら克親の命が危ないだろうから手は出せない。
「そう。それは残念ですね」
じりじりとベッドの上までにじり寄ってくるので、嫌な感覚を覚えた俺はその場を離れてみる。
だが奴は近づいてくるのを止めない。
「・・・・・・なんだよ」
「いやあ、ライダーくんはかわいいなーって」
「・・・・・・そう、っすか」
これ以上どう返せばいいのかわからんが、取りあえず気持ちの悪い笑顔でこっちを見ないで欲しい。
部屋の隅っこまで追い詰められてしまったのだが、抜け出すタイミングが見当たらないのだ。
「ねえ、一回その服脱いでみてよ」
「・・・・・・は?」
唐突にそんなことを言われたせいで思考が一瞬停止してしまう。
奴はその隙を逃さずに俺の足を引っ張って床に寝かせ、俺の腹に乗っかってきた。
「抵抗したら今すぐあなたのマスター・・・・・・どうなるかわかるよね~?」
そこはかとないドクズだこいつは。
克親を人質に取られたら俺はどうしようもない。
やっとできた友達を奪われる上に、現界すら保てない・・・・・・そうなると、今回の使命を果たせなくなってしまう。
『我慢しろ、どれだけ屈辱であっても・・・・・・生き残る為だ』
「んなこと言ったって・・・・・・!!」
嫌なもんは嫌に決まっている。
生前物語に書かれてないような領域でやたらめったらに女を漁った経験はあるし、中にはやべえ悪女もいたもんだがさすがにこいつは受け付けない。
もはや霊基が拒否している。克親にひどいことをしたという認識もそれに一役買っていることだろう。
「あーもうじれったいなあ・・・・・・しょうがないから切っちゃお」
「やめろ、こいつは克親に買ってもらった大事な服で・・・・・・」
「たかが布切れ程度でよく騒ぐのね。また買えばどうとでもなるじゃない」
胸ポケットに入っていた、恐らく緊急時に服を裁つ鋏・・・・・・俺の着ているパーカーの裾へと、その刃が触れる。
また買ってもらえばいいだなんて、それで済むようなもんじゃない。
あの時、服屋の店員にあれやこれやと着せ替えばかりさせられて「俺やってけるのかな」って不安になったのも、今じゃいい思い出だ。
俺がいきなり家を飛び出しても心配してくてるし、追いかけてきてもくれる。
友達であり家族だと言ってくれたあの時なんて、これまでになく嬉しかった。
生きていたころより沢山の愛情をもらって、何も返せていなかったことが悔しくて。
「お願いだから、それだけは・・・・・・止めてくれっす。脱ぐ、脱ぐっすから」
「・・・・・・泣くほどのもの?」
「そうっすよ、俺の・・・・・・大事なものなんすよこれは」
馬乗りになられているせいで動きにくいが、なんとか脱いで畳んですぐそばに置く。
冷たい床が背中に触れ、少しだけ身震いした。
「ふーむふーむ。まーるでほっそいもやしみたい。んで、ここの傷は、なーに?」
「っうぁ・・・・・・っ!」
脇腹の痕を撫で回され、思わず声が漏れてしまう。
ぞわぞわと鳥肌が立ってきて、反射的に体を捻って逃げ出そうとしてしまった。
「だめじゃない逃げちゃ。もしかしてここに秘密がある感じかなー?」
「触んな!!」
ここは克親以外に触れさせたくない戒めの傷だ。こんなやつに、好き勝手なんてされたいわけがあるか。
八月朔日の手をはたき落とし、その忌々しい顔面を睨みつける。
ああ、できることなら今すぐぶち殺してぇ。
「なになに、陰キャだって言ってたはずだけど意外と反抗的なのねぇ。かわいいとこあるじゃん」
わざとらしく俺の肌を撫で回して、にたにた笑う八月朔日。
ふつふつと殺意が募る。このままやっていればいつ制御が聞かなくなって手がでるかわかったもんじゃない。
「殺したい?殺したい?」
「・・・・・・ああそうさ、今すぐにでも・・・・・・アンタは殺してぇよ」
悪意はもう隠せない。
許さないという思いだけが湧き上がり、憎しみに呑まれかける。
『やめておけ、イドに墜ちるな』
なぜデルニが俺を抑え込もうと躍起になっている。
ここで感情のままに動くのは駄目だとはわかっている。だが、もう許せないものは許せないのだ。
「もっと殺意見せていいよ・・・・・・ほら」
腹部に触れる生温かい物体。
ぴちゃぴちゃと嫌な音を立ててへそに唾液が溜まる・・・・・・
「っやめろ・・・・・・気持ち悪い」
ぐいぐいと奴の頭を押しのけて後ずさる。
もう嫌だ、こんな気色悪いやつの相手なんてやってられるか。
「ねえ知ってる?」
「・・・・・・んだよ」
「サーヴァントに人権なんてないから犯罪の被害者にし放題なんだよ」
血の気が引いた。
こんなサイコ人間の相手なんてやってられるか、もう俺は逃げたい。
「第176条も適用されないってわけでそれはやりほうだいってわーけーでー」
「ひ、い、や・・・・・・止めてくれ!」
下まで脱がされそうになってもう俺は理性をぶっ飛ばしかけ逃げ出す。
ここまでおぞましい体験もう嫌だ。
「逃げちゃダメでしょ・・・・・・えぶっ!?」
「きっしょいもん見せつけるんじゃねえよこのボケが」
八月朔日の脳天に完璧なかかと落としを食らわし昏倒させた司馬田。
彼女は机の上に置いていた煙草のうちの一本を取り出し、オイルライターで点火し口に煙を目一杯吸った。
焦って入ってきたところを見ていなかったのだが、来ていきなりこれとはかなり過激だ。いやおかげで助かったし感謝しているんだけども。
「・・・・・・なんで助けた」
「さっき言った通りだ。人権無視するバカにゃ正義の鉄槌をってな」
完璧に泡を吹いて気絶している八月朔日を引きずって、司馬田は部屋から出て行った。
取りあえず一難去ったところで、俺は起き上がり腹部を部屋備え付けのタオルで拭く・・・・・・恐ろしい経験だった。
「あんなやつに克親をあれ以上めちゃくちゃにされてたまるか・・・・・・」
自分が本当の平尾克親じゃないことに、自分が兵器として作り出されたことに絶望している。
俺がもし強ければ、あいつなんて、あいつなんて────っ!!
『・・・・・・だめだ、まだだ』
「なんでお前はいつも俺を止めんだよ、お前も俺だろうが!」
『俺も確かにマンドリカルドだが・・・・・・担う役は違うんだよ。そのあたりわかってくれ』
わかるわけないだろうと、大きな独り言を言う。
デルニの声は、いつの間にかもう息を潜めていた。